倉庫の方でリレー小説19更新しましたー。
http://wankoro.hatenablog.com/entry/2014/07/23/203010
なので今回皆得のタグもつけときますね。
Ⅳ『超越』
「仏教です!」
「神教だ!」
「道教でしょう!」
人里でそんな喧噪の声を聞きながら、静葉は一つの大きな木の上に上ってじっと空を見ていた。時々その喧嘩を見るため視線を下にやるが、しばらくするとまたそれを上に戻すのである。
この眺めが好き。こののんびりした時間が好き。一つ大きな欠伸をして伸びをする。ポキポキという軽い音が自分の耳に届いた。
「お姉ちゃん、こんなところで何してるの?」
刹那、自分の隣に誰かが座る。今座っている木は人二人乗せた程度ではびくともしない大木だった。
ふわり、とその金色の髪と赤いエプロンを靡かせる。妹の穣子だった。
「あら、穣子ちゃんどうしたの?」
「お姉ちゃんがここに居たから、何してるのかなって。」
その質問に、少しだけふぅむと悩む。喧嘩の声はまだ止みそうにない。
風が二人をくすぐり、思わず目を細める。そのときの静葉の表情は笑っているようにも見えた。
「ねぇ。」
唐突に紅葉の神が口を開く。
「穣子ちゃんは、あれを何だと思う?」
そう言って、未だ論争を続けている三人を指さす。誰も一歩も譲る様子は無く、少しずつその声はヒートアップしていっているようだった。
「何って…尼と、神様と、道士、でしょ?」
「そうね。そしたら、誰の言い分が正しい?」
勿論、誰が正しいってわけじゃない。信じるものの違いで、その違いのぶつけ合い。そこに正しい間違いなんてない。
豊穣の神はそう思った。口にした。それと同時に、紅葉の神様は笑いだした。
「そうね、その通りだわ。」
けれど、と逆説の言葉を投げかけ、器用にその場をすっくと立つ。目線は3人を見つめたままだった。
その議論はまだまだ終わりそうにない。
「私と、ちょっと考え方が違うわね。」
「へぇ、お姉ちゃんはどう思うの。」
幼い神は、その場を座ったまま、ただじっと上を、小さな神を見つめた。
「私たちはね、生まれたときは何でもないの。ただの空っぽの、無、なの。」
不意に葉っぱを一枚むしり、それをくるくると指で回し始める。
「その無の中にね、いっぱい、色んなものを詰めていくの。いっぱいにならない、底が恐ろしく深い瓶をいっぱいにしようとするの。」
幼い神は、ただじっと、その言葉に耳を傾ける。
「けれど、どうしても、中身がどうなっているのか知りたくなるの。知りたいけれど、知らないままやっぱり詰めていくの。」
討論はまだまだ続いている。
「…ひっくり返せばいいじゃん。」
「そう。それで、人はひっくり返すの。ひっくり返して、ようやく、今まで自分の詰め込んできたものが何だったか理解するの。その瞬間、人は人に、あろうとしたものになるの。」
ちょうど、あの3人がなろうとしているようにね、とくすくす笑う。じっと聞いて、ぽつりと口にする。
「3人は、まだひっくり返せてないんだね。」
「ひっくり返せるのは一回だけ。そして…ひっくり返したという話は、私は聞かない。」
「どうして?」
「死ぬもの。」
その言葉と同時に、くるくる回していた葉っぱが指から抜け、ふわりと風に乗って飛んでいった。
春の、なま暖かい風がその場を支配する。
「…それってさ。走馬燈だよね。」
苦笑する神。思わず眉間にしわがよった。
「走馬燈、って言っちゃえば本当にそれだけって、感じがしない?ただ、死ぬ前に見るものって感じがして、お姉ちゃんは好きじゃないわ。」
「じゃあ、どう言うの。」
少し首をひねって、それを戻してからまっすぐ見て言った。
「…無から人みたいな何か。何かは人に、あるべき、目指すべき姿になろうとする。やがて生を終えるとき、振り返って、すべてを許して、不思議な気持ちに包まれる…そのとき、人は、人になる…ううん、越える…超越するの。」
「……」
「…そう言えば、ゾクッと来ない?」
決してたどり着けない境地。たどり着けば、後戻りはできない。
あぁ、それはどのような感覚なのか。砂漠で水を見つけたときのような感覚なのだろうか。それとも、溺れて必死にしがみつく藁が沈んだときのような感覚なのだろうか。
分からないし、分かってしまえば終わってしまう。だからこそ、人々はそれに焦がれ、目指そうとする。ちょうど、あの3人のように。
「…無縁な話だけどね、あたしたちには。」
「そうね…興味はわくけれど、味わえそうにはないわね。」
気がつくと、3人の姿はそこには無かった。終わって、帰ってしまったのだろう。
それでも名残惜しそうに、二人の神様は先ほどまで彼女らが居たその場所を、静かに見つめ続けていたのだった。
静ちゃん理論。人は死ぬとき人を越える。
リレー小説のバトルのテンポが個人的に本当なんか気に入ってじたごろしてましたえへ!
それにしてもうごでこの話が一番評価されたのが個人的にやっぱり謎なんです。