ほんのり小話31

裏6人です。小説調シリアス、幻想郷のお話で。
あ、とじさとね。





「落し物をしたので探してきてくれませんか?」

私は今朝、屠自古にそんな嘘をつきました。それも、落とした場所は魔法の森にある茨が茂っているところと、傷つかずには探せない場所と。

からかいの意によるものなのですが。何となく腹がたったのです。

というのも、何故私はあんな亡霊が好きになったのかが分からないのです。

既に娘々という彼女が居て、結ばれないと分かっていたはずなのに。

どうしてこのような想いが胸を焦がすのか分からず、つい八つ当たりをしてしまいました。

場所が場所ですし、きっと昼には騙されたと思って戻って来ることでしょう。探しに行くとき、とても乗り気ではありませんでしたし。まぁ、それもそうですよね。

自分が落し物をして、それを探しに行かされる。それも、とても探しづらいところ。誰が好んでそんなもの探しに行くでしょうか。私なら絶対に行きませんね。





しかし、彼女は夕方になっても帰ってきませんでした。

もうすぐ夜になるといいますのに…あの人はまだ探しているのでしょうか。

…そんなはずないですね。きっと、今頃諦めて家に帰っているに違いありません。まだ探しているのなら、ただのバカでしかありませんし。

「…おや、まだ屠自古さんは戻っておられないのですか?」

今から帰ろうとする衣玖さんがそう尋ねる。どうやら今日ずっと屠自古を探していたようです。いないと知って、ずっとここ、ルナサらの家で待っていたようですが。

「はい。…感謝するようなことありました?」

衣玖さんの心を覗いてそんなことを言う。らしくないと思ったから。てっきりからかいに行くのかと思っていましたから。

「えぇ、この間、屠自古に本を探すのを手伝っていただいたので。」

「…あの人が?」

正直、屠自古は学問の類に強くはない。手伝わせるのなら藍や穣子の方がよっぽど早いと思うのですが。

疑問に思った私に気が付いたのか、苦笑して理由を説明してくれました。

「実は少し、からかいの意をこめたのですよ。絶対にすぐに根を上げるだろうって思っていましたから。…それなのに、一生懸命探し出してしまって…」

「あー、とじぃらしいよね。」

私達の会話に娘々が割って入ります。首を縦に振って、酷く何かに納得したご様子でした。

「とじぃってさ。仲間の何でもないこと…というか、少し困ったことにも全力を尽くしてくれるのよね。あたしだって、ちょっとからかったつもりなのにすぐに本気にしちゃって…でも、それが彼女の優しさなのよね。」

「…そう、ですね。それに…少し悩み事をしていただけでも、あのお方はすぐに気が付いて、何か力になろうとなさいますからね。」

少しでも仲間が困っていたらすぐに手を差し出そうとする。

仲間の異変にすぐに気が付き、心配してくれる。

…少しだけ、好きになった理由が分かった気がしました。

「それじゃあさとり、あたし達は戻るけど…さとりはどうする?」

「…私はもう少し残っています。」

屠自古が戻ってくるということは伏せておいて。

娘々は手を振り、衣玖さんは一礼をして家を出て行きました。三姉妹は今は自室に居ますから、リビングに居るのは今は私だけですね。

外を見ると、いつの間にか日は完全に落ちて、綺麗な星空が見える頃となっていました。

「さとりはいるか?」

窓から空を見上げたと同時に屠自古が戻ってきたようです。一体いつまで探していたのでしょうか、泥と引っかき傷だらけのボロボロな姿になっていました。

幽霊なのに彼女は傷つくのか。厳密には彼女は亡霊ですから。亡霊と幽霊は少し性質が違うのです。

「はい…まさか、さっきまでずっと探していたというのですか?」

夕方になって、夜になっては見つかるものも見つからない。だから引き上げてきた。

彼女の心を読んで、聞きたいことのほとんどを理解しました。

「あぁ…悪いな、見つからなくって。明日もう一度探してこようか?」

「…屠自古、あのですね…」

あまりにもお人よし過ぎて哀れむに哀れめません。

どうして自分のことでもないのにそんなに一生懸命になるのですか。

そう尋ねようとして、はっと気が付いた。

…そういえば、この人はそんな人だったな。

ささいな困りごとにも全力で対応しようとする。

普段は皆からからかわれ、とても頼りになるとは思えないのに。

肝心なところで、この人は頼りになるのです。

気が付いたと同時に。


「…はぁっ!?落し物は嘘だって!?」

「はい…その、すみませんでした。」

私は思わず頭を下げました。流石に今回ばかりは怒られるなと思ったのと、とても申し訳なくなったのと。

そんな様子を見てか、ばつが悪そうに彼女はこう言ったのでした。

「…まぁ、嘘でよかった。探し物が見つからなくって、お前も探しに行って、お前が傷つくのは見たくなかったしな。」

肩を軽く叩いただけで、それ以上は何も言わずに帰っていきました。

誰も居なくなった部屋の中で、私は思わず、

「…それは…反則ですよ…」

サードアイを静かに、抱きしめました。











思いついたの。

「うっわ今日コーヒー甘く作りすぎた!…さとりのコーヒーはもっとゲロ甘なんだよな…それでも一生懸命作ったんだったらとじぃは飲み干すんだろうなー…!!」

で、これ。