リレー小説 Ⅹ

※これはつらね、キバリと行っているリレー小説です(久々にこっちの方で更新したから一応)。

⑨話 →http://sakura29.hatenablog.com/entry/2013/11/25/174354



※けっこうグロテスクなのでお気をつけて。






あれ…体が痛い


けれど…どこか優しくて、暖かい


何かに包まれているような感じがして…


…?…どうして、こうなっているのでしょう…


…そうだ…私は妖夢に襲われて…それで…




「…っ!!」

何があったかを思いだし、起きあがろうとする。しかし傷が深く、その場から動くことは出来なかった。

どうやら、少し気絶してしまっていたらしい。仰向けに寝転がっていたので、月がよく見える。先ほどと位置がほとんど変わっていないため、時間はあまり経過していないことがすぐに分かった。

それでも、ここでじっとしているわけにはいかない。心地よかったが、いつ妖夢が襲ってくるか分からなかった。

ゆっくりと体を起こし、穣子を探す。意外と早く彼女の姿は見つかった。
が。

「え……?」

一瞬、その光景が脳内で拒絶された。

あまりにも、生々しかったから。

口で表現するにはあまりにもグロテスクすぎたから。

ぐったりと横たわる彼女。傷は酷いなんてものではない。

間違いなく、全身骨折で、内蔵も体内であちこち破裂してしまっている。

そう、彼女は。

…崖から落ちる際、穣子が下になって自分をかばった。それも、私に衝撃が少しでも緩くなるよう、途中で横に放り投げて。

しかも、この心地はよく知っている。

「…穣子ッ!!」

悲痛な叫びが空を切る。

わずかに震えながら、小さな、消えそうな声が届いた。

「……気………つい…た…?」

息が荒くなるのも通り過ぎて、弱々しい掠れたものとなる。

かろうじて届いたその声に、衣玖は大声で言った。

「馬鹿っ!また無茶して!とにかく、まずはこのスペルカードを止めてください!」

「……でも……そし…たら…」

「いいから早く!」

返ってきた返事はない。しかし、同時に体が重くなるのを感じた。

そう、穣子はこんな状態になりながらも、弾幕として使うとき以外に特殊な効果を発生させる『スイートポテトルーム』を張っていた。

これは自分の霊力を分け与え、治癒能力を一時的に高めるもの。お陰で衣玖の傷の出血はすでにほとんど止まっていた。

が、これを使っている穣子は自分の生命である霊力を使うことになる。それがどれだけ、自分を死の淵へと追いやることになるか。

分かった上で、彼女はやっていた。

「どうして…こんな無茶ばかり…!」

「…一緒……だよ……玖さ…が……しを……守…うとす…のと…」

その声には、安堵の気持ちが含まれていた。

自分がこんな状態になりながらも、守れたことをよかったと思う彼女がいる。

普段事故犠牲をとても嫌うのに、いざとなれば自分も事故犠牲に走る。

そんな彼女を…私は、今、どう思っているだろう。

「…とにかく…ここを離れなくては…」

しかし穣子を動かすわけにはいかない。人間ならすでに死んでいるこの状態。これ以上傷つけなくても死ぬような状態で、下手に手が出せるわけがない。

焦る中、穣子がぽつりと呟いた。

「……いじょうぶ……ここ……範囲外……」

「…?」

あまり話をさせたくなかったが、途切れ途切れに聞こえてくる声を一つずつ頭の中で繋げていく。

どうやら妖夢たちが彷徨いているのはあくまでも『森の中』で、ここは範囲外だそうだ。だから汚れもなく澄んだ空気のため、体を蝕まれることはない、と。

それを聞いて少し安心をする。急いでこの場を離れる理由がなくなった。

が。その刹那、穣子が力なく笑った。

「…けど……他の……るから…」

「…!!」

ウォォオオオオンッ!!

言い終わると同時に獣の声が木霊する。鳴き声はすぐ近くだった。

その方角を見る。そこには、いくつもの目を光らせる、狼の大群が居た。

数にして恐らく10は越える。目の前の獲物に貪欲に牙を剥き、今にも襲いかかる姿勢を取った。

「くっ…雷符−−」

スペルカードを取りだそうとして、肩に激痛が走る。

外傷こそしていないものの、思うように動かない。きっと、落下したときにそこを下にしたのだろう。他にあそこで受けた外傷以外何も見られないところを見ると、それしか考えられない。

「…ははっ……流石に……理……か…」

「くそっ…これでは…あのときと同じこと…っ!!」

穣子が他の竜宮の使いにさらわれたとき、見ていることしかできなくて。

今回もまた、目の前で何も出来ないというのか。

それが悔しくて、無力な自分が歯がゆくて。利き手ではない腕を無理矢理に動かす。先ほど受けていた傷が大きく開いて、再び赤銀の液体が溢れ出す。

「雷符っ!『エレキテルの

「衣玖…さん。」

脳内に響くような声。穣子の声に間違いは無かったが、テレパシーのように届いた。

最期の力を振り絞っての神通力。どこか切なそうで、嬉しそうなその声。

思わず、その声のせいでスペルカードを中断してしまった。

「…ごめんね。」

「っ!!?」

その刹那、狼が疾風のごとく幼い体に群がった。

まるで衣玖のことが見えていないかのように、衣玖のところへ走ってくる個体はいなかった。

肉を噛みちぎり、咀嚼し、むさぼり食う。

生々しい音が、ぐちゃぐちゃという音が耳に届く。

またそれを見ていることしかできなくて。

「…あ……ぁあ……」

震えが止まらない。

目を逸らすことしか出来ない。

惨い光景。それがただ、目の前で繰り広げられていて。

全く、あのときと同じ。

今回は流石に助かるようなものではない。

「あ…アああアアァあああぁああアァッ!!!」

「秘術『グレイソーマタージ』!!」

ドドドドドドッ!!

星のように並んだ弾幕が唐突に空から降り注ぐ。狼たちも上からくることは全くの計算外だった。

一体誰が。弾幕の主は、緑の髪を月夜に映し、空中で一回くるりと体を翻す。

まるで、風を自由に操る神のように。

「秘術『忘却の祭儀』!!」

先ほどよりも密度の高い弾幕。狼をすべてなぎ払い、タッと軽い音を立てて地面に降り立った。

それは、衣玖のよく知っている人。

「…早苗さんっ!!」

「ごめんっ、遅くなったわ!」

衣玖の前に立ち、ゆっくりと立ち上がる狼を睨みつける。

まだやる気かと、殺気で問う。それを見た狼は、彼女には敵わないと判断したのか、傷まみれになった体をゆっくりと引きずって、元きた方角へと戻っていった。

「…大丈夫?」

「私は平気です。…しかしっ…!!」

そこから先は言葉にならなかった。伝えられない惨劇を、早苗は何となく把握した。

振り返るとそこには生々しいまでの血の跡が。鮮血にまみれた、幼い少女の体がそこにはあった。

えぐられ、もがれ、引きちぎられたその惨劇の跡。見ているだけで吐き気がする光景。

「…そう。…いいわよ、言わなくて。十分…分かったわ。」

「…ごめんなさいっ…私がついていながら…私はまた…守ることができなかった…!!」

「……」

ついに堪えきれなくなった涙が溢れ出す。早苗はそれを、何も言うことなくじっと見つめていた。

「ごめんなさいっ…また守られてしまって…なのにっ…なのに私は何も出来なくて…結局貴方を助けられなくて…!!」

「…何も出来なかった、それはちょっと違うんじゃない?」

背を向けたまま、空を仰いでゆっくりと話す。

「救われたでしょ、あの子は間違いなく。衣玖さんと出会って、それで変わったんだから…だから、そんなに自分を責めないで。誰も、あんたを責めたりしないわ。」

「…私が…私が私を許せませんよ…!」

何よりも、自分が。

守ってもらってばかりで、何も返せない自分が。

それどころか結局守りきれず、彼女が息を引き取ったことが。

自分のせいで。

「見てるだけしかできなかった…!それが…それが…!!」

ボロボロと涙がこぼれ落ちる。嗚咽に混じって、彼女の想いも少しずつ漏れ出す。

「私がしっかりしていれば…私がもっと強かったら…そしたら…彼女を救えたのに…!彼女は死なずに澄んだのに…!!」

『だから勝手に殺すなって。』

「そうですよ!……え?」

一瞬、彼女の声が聞こえたような気がして顔をあげる。が、そこにいるのは早苗だけだった。

が、何やら彼女の様子がおかしい。

「…ははっ…あっはははっ…」

「…え?え?」

「あっはははははははははっ!!やったねみのりん大成功!!」

腹を抱えて地面をバンバンと叩く。対する衣玖は、何のことか分からずにただ困惑するばかり。

『んもー!何回言ったら分かるの!?勝手に殺すなって…前の竜宮の使いのときだって勝手に殺して…』

「…は、はぇ?」

「ははっ…あー笑った笑った!…さてと。説明する必要があるようね。」

死体…?の元に近づき、穣子の服を拾い上げる。それと同時に、スペルカードの『スイートポテトルーム』を張った。

再び心地の良い空間が展開される。色々腑に落ちないことがあるが、早苗が説明を始めてくれた。

「"憑衣"させたのよ、あたしの体に。自分の人形(ひとがた)を捨ててね。」

「そんなことして…結局、戻る器がないのでは?結局同じなのでは…!?」

『新しく作り直せばいいよ。ま、霊力がけっこう要るから、回復するまでしばらくこの状態だけどね。』

と、脳内に響く声。まだ慣れないけれど、はっきりと穣子の声が伝わる。

「しっかし…治るの早いわ。一瞬で神通力で会話できるまでになるなんてね。」

『まぁねー。それだけ、衣玖さんがあたしのこと想ってくれてるって証拠だよ。』

「…さりげなく恥ずかしいこと言ってくれますね。」

『前回と一緒だよ。』

いたずらな笑みを浮かべる。といっても表情までは見えないが。

「でも…よかった。貴方が無事で…」

『無事とは言えないけどね。あたしみたいな力の無い神にとって、人形一つ作るのがどれだけ重労働か。』

「…しかし。こういうことするのなら最初から言ってください!本気で心配するのですよ私!」

『その前に謝ったじゃん。これから騙すけど『ごめんね』って。』

それそういう意味だったのですね、と非難の念を浴びせる。やはり彼女の声は笑っていた。

良かった、その一言を誰にも聞こえないように小さく呟く。それが言い終わって少したってから、早苗が口を開き始めた。







3973文字!ギリギリすぎて後半の展開が微妙!!

ふへへ重症に定評のあるわんこが通ったよーw皆が結構ほんわかした話書いてるのに対してこのシリアス具合。
しっかし…ぐっろい☆犬にしたらぐっろい☆
かなりこれツッコミ回だと思う、犬的に。いやーさー?だってこれ…衣玖さんが無茶しなかったら二人とも普通の状態なわけなんだし。飛べるからね?飛んで崖降りたら全くの無傷で降りれるわけなんだからね?
うん、何がってね…衣玖さんよわげふんげふん。また泣くし。また守られるし。

というわけで、しばらくみのりんは早苗さんの体に宿ってます。出したかったら出していいよん。

それじゃネクストキバリンよろしくっ!!



おまけ1 落下で気になった

崖の高さを100mと定義しておくとして。
落下の早さは√2hg(hは高さ、gは重力加速度9.8m/s)であらわすことが出来るので、普通に落下した場合は大体44m/sの速さ。
で、衣玖さんを横に投げたってことで…計算面倒だから真上に投げ上げたと設定して(おい)。その点が地面から2mの地点だったら、落下の速度は大体6.2m/s。うん、大分速度はマシになってるね。
…で、だ。そしたらみのりんは44m/sで地面に落ちたのかというとそうじゃない。
作用・反作用が働いて衣玖さんを投げた分同じだけ自分にかかってくるので、計算するとなんと77m/s。
どれだけみのりんが捨て身をやらかしたか分かるかとww



おまけ2 そのころの雷鼓さん

雷「…衣玖…帰ってこないな…」

ア「雷鼓さん、プリンあるけれど食べる?」

雷「!食べる!」

ア「(もう子供ね…)そうそう、これ衣玖さんが作ったのよ。あなたが寂しがってたら出してやってって。」

雷「い…衣玖ぅ…!!」

ア「…ただ…」

雷「……」

ア「…衣玖さん、料理下手だから…」

雷「たっ、食べる!衣玖がわたしの為に作ったものを残すことなんかできないうぉおおおおおっ!!」

ア「ムリしないで残していいのyって食っとる!?」