※シリアスな上小説っぽい。
「さてとっ、藍しゃまに頼まれたのはこれだけだったにゃ。忙しそうにしてる主人を助けるのはやっぱり式神の勤めだにゃ。」
そう言って橙は買い物の帰り道を歩いていた。時間は夕方、日はすでに沈みかけていた。
藍に頼まれたものは薬の材料。どうしても薬草が足りなくなってしまったらしく、更に手が離せないということで橙に頼んだ。
「藍しゃま喜んでくれるかにゃっ。」
誉められることを想像するだけで思わず笑みがこぼれる。スキップのような足取りで宿の扉を開いた。
今日は珍しく藍は宿で作業をしている。そんなに大層なものでもないから割と何処でも作れると言って『賢者の塔』には出向かなかった。
ただ、どうも様子がおかしい。作業をしていたはずの藍の向かい側には二人の同業者の男の人が立っていた。
険悪そうな雰囲気をかもし出しながら。
どうしたのか気になった橙はこっそり少し離れたところで聞き耳を立てた。どうやら口論になっているらしく、滅多なことでは怒らない藍が相当頭にきている。
「なぁ、そうじゃないのかよ。」
「だから違うって言ってるだろ。」
「ふーん、てっきりそうゆうモンかと思ってたんだけどなぁ〜?」
「馬鹿言わないで、何回も言ってるだろ、いい加減人の話を聞いたらどうだ。
橙は私の式神なんかじゃない。」
「にゃっー…!?」
藍は確かに橙は式神でないと、相手の目をきつく睨んでそう言った。
冗談なんかではない。一番付き合いが深い橙だから分かる。
あれは、本心でそう言っている、と。
「…らん…しゃま…?」
それからの会話は記憶には無い。
ただ、気が付くと口論は終わっており、橙に気が付いた藍は動揺していることに気が付かずに話しかけた。
「橙、買って来てくれたんだな、ありがとう。」
屈託のない笑顔。いつもなら橙もつられて笑うのだろうけど、とても今はそんな気持ちにはなれなかった。
「…橙?」
「…藍しゃま、橙が藍しゃまの式神じゃにゃいってどういうことですか?」
今にも泣きそうな表情で藍の目に自分の顔を映す。藍は驚いた表情をしていたが、やがてすぐにすべてを理解した。
「お前、さっきの話聞いていたんだな。それもピンポイントで。」
一つ小さなため息をついて、橙の頭にそっと温かい手を置く。
「私にとってお前は式神なんかじゃない。大切な仲間であって、何よりもよき理解者だ。それなのにあいつらはお前のことを道具呼ばわりしてな…それで口論になっていたんだ。」
「――!」
「上手くは言えないのだが…お前は式神なんかじゃない。それ以上の、大切な家族同然なんだよ。」
私はその言葉を聞いて思わず藍の胸に思いっきり泣きついた。
自分の勘違いと言うことが恥ずかしかったのと、
なによりも、
大切に思ってくれていることが嬉しかったから――…
レ「小話だと橙の出現率高いわよね。」
妖「それ言っちゃダメです。」