ほんのり小話 11

・6人面子


妖「おや、藍、何か考え事ですか?」

藍「ん、ああ。ちょっとな…そうだ、この際お前にでも聞いてみるか。」

妖「何ですかその居るついでにって感じ…」

藍「居るついでだからな。」

……

藍「…兎に角、お前は『幸せ』の対義語って何だと思う?」

妖「何だって言われましても…普通に『不幸』ではないのですか?」

藍「あぁ、合っている。」

妖「…それがどうかしたのですか。」

藍「私が求めているのはそんな一般論ではない。合っている、がそれは公式の考え。他に何か無いか?」

妖「え、えぇーっと…」

藍「…少し難しかったか。私は『幸せ』の対義語…というより、表裏をなしているのが『当たり前』だと考えている。」

妖「それって…なしていますか?」

藍「意味を考えたら不思議に思うだろ?でも、一つ考え方を変えてみろ。
当たり前だと思うことをいちいち幸せだと思うか?」

妖「そんなの思いませんよ。当たり前のことなんですから。」

藍「だろう?しかし、実際当たり前のことが当たり前では無くなったら?」

妖「それはつまり…朝が来ないだとか、食事が満足に出来ない、とかですか?確かにそれは…不幸ですよね。」

藍「そうだ。実際朝が来ること、満足に物が食べられること、ましてや生きていること。すべてが私達にとって『幸せ』であり『当たり前』なんだ。」

妖「確かに…」

ア「ちょっといいかしら、その理論。」

藍「あぁ、アリスか。どうした?」

ア「それだったら人によっては『苛められることが当たり前』と思っている人だって中には居るじゃない。そんな人はどうするのよ。」

藍「ふむ、そういえば初めに定義付けてなかったな。『幅広くの人に認識されている当たり前』のことに限る、と。」

ア「どういうこと?」

藍「普通の人は苛めに合わないだろ?だから一般的には『苛められない』ということが当たり前なんだ。苛められないことは幸せ、だろう?」

ア「あ…」

藍「お前の意見ももっともだ。それから面白いことも考えられるぞ。」

妖「例えば?」

藍「そうだな…暗い部屋に閉じ込められていて、『光を見る』という当たり前が無くなった。そしてそんな人が久々に光を見る。さて、その人はどう思う?」

妖「…幸せ、だと感じます!」

藍「だろう?つまり、人から当たり前を奪い、その当たり前が当たり前でなくなったとき、初めてその当たり前が幸せだった、だと感じることが出来る。そしてそれが当たり前になる境目で、人はその幸せを最大限に再認識させられる。」

妖「難しい話ですね…」

ア「でも…そうよね。そう考えれば『幸せ』と『当たり前』が表裏をなしているのも分かるわ。」

藍「実際はそれほど難しい話ではないのだがな。ただ、毎日は当たり前という幸せが立て続けに連鎖され、私達はそんな中幸せに気が付かず、更なる幸せを求めようとする。
当たり前に犯されすぎた者は、更なる当たり前を求める。それは本当に幸せなのか。その時点で、それは当たり前から外れてしまっている。求めすぎた先に、幸せなど無い。」

ア「…で、藍。あなたの答えは?」

藍「ふふっ、そんなもの、決まっているだろう。」


『当たり前』に裏づけされている『幸せ』を知れ――









どうしてこんな話を思いついたか誰か私に教えてください。
ドライヤーをかけたらいつの間にか考えてた、ただそれだけなんです。