長編小説 『蓮華草の贈り物』 1

先に言います。めっちゃくちゃ長いです。今日から多分12〜14話まであります。
時系列上、ほんのり小話30(秋姉妹ネタ)の二日後です。
主人公は衣玖さんでいいのかな?
あと多分犬得全員出てきます。…多分、ね。
書き途中だけど橙の出番があるか無いかすっごく微妙(つまり、まだ出てきてない)!






疫病神。それが、私の人間からの呼ばれ方。

害悪でしかなく、誰にも助けられず、ただ人間を助けたい思いで、私は災いを伝え続ける。

そんな守りたい人に殺されそうになる。

各が武器を振り上げ、私に降ろそうとする。

怯えた私はそれをただ見て、受け入れることしか出来なくて。

そんな中、一人の少女が私の前に両手を広げて立っていた。危険を省みず、ただ必死に止めようとする、幼い少女の姿を私は見た。


そして、その少女は…



「−−ぁぁぁああああっ!!」

ベッドから飛び起きる。まだ日は昇っておらず、辺りは薄暗かった。

過呼吸になり、嫌な汗が頬を、背中を伝う。体は震え、思考回路がうまく働かない。それが夢だと分かるのに数秒を要した。

「…っ…はぁっ…はぁっ……」

ぽたり、汗がシーツの上に一つのしみを作る。辺りを見渡し、いつもの見慣れた自分の部屋だということを確認した。紛れもなく、そこは竜宮にある自分の部屋である。

一つ大きな深呼吸をして、ずきりと一瞬頭が痛む。しかし頭痛はそれっきりで、不快感がするだけだった。

それが何を暗示しているか。また、どうして今頃そんな夢を見たのか。何故かすぐに、直感的に理由が分かった。

「…私…は…」

…何か…あの少女のことについて…思い出さなければならないことがある?



−『蓮華草の贈り物』−



「あ、いらっしゃい…っと、どうされました?酷い顔をしてますが…」

朝食を済ませ、身なりを整えてすぐに向かったのはルナサのところではなく、アリスの家。妖夢が朝から外で剣技の修行をしていて、衣玖を一番に出迎えた。

合うとすぐに自分のことを心配してきた。どうやら結構時間が経ったはずなのに、酷く狼狽えているらしい。あんな夢を見てしまっては、落ち着けるものも落ち着かないというものだが。

「…大丈夫ですよ。それより…穣子はいらっしゃいますか?出来れば二人でお話をしたいのですが…」

何、告白でもするのと尋ねられそうな一言だが、そこは流石恋愛感情の疎さナンバーワンの妖夢。何も思わず、ただ何か二人で話がしたい、純粋にそう捉える。

「確かいたと思いますよ。…あんなことがあったので、まだ少し落ち着いてはいないようですが。」

あんなこと、それは静葉という彼女の姉がここに尋ねてきたことによって起こった騒動。昔二人は喧嘩をし、一昨日仲直りを果たした。

穣子は酷く姉のことを嫌っており、会うことさえも嫌がっていた。しかし、それはただの強がりで、本心ではどこかで仲直りしたいと思っていたらしい。あんな非常な神様もやはりまだ幼く、純粋な心がある。本当は寂しくてたまらなかったのだろう。

今は気持ちも落ち着き、仲直りできたことに安堵していると妖夢は言った。それを聞いて衣玖も安心する。それでは呼んできますねと一言告げ、妖夢は家の中へと入っていった。

しばらく待っていると、いつもと変わらない穣子の姿が現れた。出てくるなり衣玖をじっと見つめ、心配そうに尋ねた。

「…大丈夫?なんか窶れた顔してるけど…」

「…朝。懐かしい夢を見たのです。」

その夢の概要を穣子は黙って聞く。それは以前に衣玖から聞いた一つの『トラウマ』と全く同じ光景。

しかし、それに対する衣玖はかなり落ち着いている。そのトラウマに触れてしまったときは酷く錯乱したというのに…あのときよりも前進した何よりの証拠である。

「…成る程ね。」

「それでなのですが…貴方はあの女の子と知り合いだったのですよね?どんなお方だったか詳しく教えていただけないでしょうか?」

そう尋ねると、穣子は黙って考え込む。低い唸り声をあげてあちこちに行ったり来たりする。

やがて衣玖の方に向き直して、申し訳なさそうに言った。

「ごめんね、名前とか聞いたかなって思ったけど、よく考えたらちょっとお話した程度でさ。おかしいなぁ、名前ちゃんと聞いたと思ってたんだけど、すっかり忘れてたみたい。」

詳しい容姿も覚えておらず、ただ『人間の里に居た女の子』としか分からなかった。思ったより情報が聞き出せず、残念そうに肩を下げた。

「せめて名前だけでも聞くことができればお墓参りくらいには行けるのですが…」

「今更お墓参りに行くってのも変な話だけどね。」

それは言わないでくださいと、思わず困った笑みを漏らす。今更だと分かっていても、あの子のお陰で今の自分がある。逃げ出してしまったことを謝りたいし、感謝の気持ちも届かないと知っていても伝えたかった。

「…ま、会おうと思えば冥界にでも行けば会えるかもしれないけどね。」

「それは難しいでしょう。何にせよもう12年くらい前のお話ですし…閻魔様の裁もを受けなさったと思います。」

「どうだろうね。最近裁判も滞ってるって聞くし。案外、まだ三途の川を渡る前だったりして。」

「それはないですって。」

三途の川を渡る前であれば、人はまだ息を吹き返す可能性がある。まだ渡る前で連れ戻してきてまさかの復活劇。そうなればホラー以外の何ものでもない。むしろゾンビである。

「…そういえば、妖夢さんに聞くのはどうなのでしょうか。12年前に少女が死んでこなかったかって。」

「それどうなの…名前が分からないと辛いんじゃないかな?死者なんて毎年たくさん居るだろうし…」

「呼びました?」

噂されているのを聞きつけてか、ただの偶然か、妖夢が二人の前に再び姿を現す。何故自分の話をされているのか分からず、きょとんとした瞳で二人に尋ねた。

「丁度よいところに。冥界で死者の名前とか調べることが出来ますか?ちょっと探しているお方がいらっしゃって…」

「…少し難しいでしょうね。閻魔様に裁判をした人の名前を聞いた方が早いのでは?」

「面識ありませんよ閻魔様と。」

ですよね、と苦笑を漏らす。冥界に住んでいる妖夢と閻魔は意外と近いものがあり、時々その中に幽々子も混じって談笑する。大体お小言を聞かなければならなくなるが、決して悪い人ではない。

ただあまり良い思い出は無いらしい。それもそうだ、出会うたびに叱ってくるような人に好意は持てないだろう。

「…と、とにかく…私はとりあえず死人探しを頼まれればいいのですね。」

「なんかヤだなーその言い方。」

間違ってはいないが、直球すぎて何となくあの女の子に申し訳ない。それは衣玖も感じたらしく、あまり良い顔をしていない。

鈍感な彼女は何も感じていないようだが。

「…で、名前は?」

「分かりません。」

「そうですか…え?」

申し訳なさそうにそっと手を会わせる。穣子に至っては今にも笑い転げそうだ。てっきり分かっているものだと思い、思わず目をぱちくりさせる。

「…名前、分からないのですか?」

「えぇ…分かっているのは、12年くらいにお亡くなりになったことと、女の子だったということだけです。それ以外のことは何も分かりません。」

「…なんて無茶ぶりですか!」

全くだ。名前は分からないわどのくらいの年なのか分からないわ容姿は分からないわどないしろと言うんだというのが本音だ。

しかしそれを我慢するところ流石お人好し。色々抗議したい目で二人を見るが。特に大笑いしている穣子に。

「…まぁ、幻想郷はせまいですし…人間の数も外の世界と比べれば遙かに少ないそうですし…分かる…かもしれませんが…」

思わず頭を抱える。流石に少し無茶を頼みすぎたかと、罪悪感を覚える衣玖。穣子に至っては完全に笑い飛ばしている。

そんな二人にやれやれと言わんばかりにため息をつく。どうやら腹をくくってくれたらしく、今から行ってくれるようだ。

「…では、行ってきますね。」

そう言って、妖夢は冥界に向かって飛んでいった。冥界に行くには、天空にある結界を越える必要がある。最近はその結界も緩くなり、簡単に人々が行き来できるようになってしまっている。最も、普通の人間たちは飛べないので冥界に行くことなどできないが。

「…ごめんね、あたし力になれなくて。」

「いえいえ、とんでもない。」

一体何度穣子に助けられたか。それを考えると、力になってくれたことの方が多いので、むしろ感謝の気持ちでいっぱいになる。

それを聞くとそう?と、相変わらずの笑みを浮かべる。何というか、ものすごく切り替えが早い。

「それじゃ、妖夢の朗報を待つとするか。数日はかかるだろうしね。」

そう言って、それじゃあと森の中に入っていこうとする。どこに行くのかと聞くと、太陽の花畑で幽香たちに用事があると返ってきた。

それでは気をつけて、と一言言うと、こくりと首を縦に振り、笑顔で手を振ってその道を歩いていった。太陽の花畑はここから少し遠いところにある。しばらくは帰ってこないだろう。

「…待つだけ、ですか…それは少し、落ち着きませんからね。」

彼女の後ろ姿が見えなくなると、アリスの家にあがらせてもらった。

一人の存在を探すが姿が見えない。どうやら、まだ来ていないらしい。少しがっかりしたが、昼過ぎになるとやってくるらしいので、それまでここで待つことにした。

意外と今日は集まりが悪いらしく、家にいるのはアリス、寅丸、パルスィの3人だけだった。







こんな文量が後12〜14回続くんだぜ!
ただ極端に短いところもあるけどね!
さあっ、皆で女の子の正体考えてみよu((



コメ返。
<キバリん
最近いっつもコメントありがとう!
だろ…このしっとりとし、甘い中にしょっぱさを含み、より甘みを引き立てるこの美味しさこそまさに犬とk((何でもないです
そうなんだよね。衣玖さん視点だとすっごいみのりんが輝いて見えるのよ。あの子本当に一ボスか(性格のせいです)w
個人的にもあの話お気に入り!上手く書けたなーって思った!

ごめんねわんこ2ちゃんあんま好きじゃない!