長編小説『蓮華草の贈り物』 3

中途半端なところで切ってしまっていたことに反省。





自分より身長はかなり低く、5歳前後の女の子だった。純粋な可愛らしい瞳をしていて、長い髪は一つに束ねられていた。身なりからして、農家の子供でありそうだ。

「…おねーちゃん、あのりゅーぐーのおつかいさんのこと、しらべてるの?」

「…えぇ、そうよ。何か知ってるの?」

年齢的にもこちらの探している情報は何も持っていないだろう。それでも、彼女は何か伝えたいことがあるのかもしれない。そう思って、にっこり笑ってそう尋ねた。

「うん…あのりゅーぐーのおつかいさんのおねーちゃん、いつもいつも…わたしたちのこと、まもってくれてるの…みんなにいしなげられても、いたいいたいおもいしても、なにもいわないの…」

「…そうね。」

ちくり、と胸が痛んだ。幼いながらも、大人よりもよっぽど純粋で、よっぽど大人っぽくて。

しゃがんで、その女の子の髪をぐしぐしと撫でる。じっと女の子の目を見つめて早苗は言った。

「…その思い、大切にしてあげなさい。あのお姉ちゃんね、本当に人間のことが大切なの。妖怪だからって人間の敵になる必要なんて無い。純粋に、人間のことが好きだから守りたい。…だから…その思い、誰よりも強くもっていなさいね。」

「…おねーちゃん、あのりゅーぐーのおつかいさんのおともだちなの?」

その質問に少し悩んで、首を縦に振る。それを見るとその女の子の表情はぱあっと明るくなり、嬉しそうに笑顔を見せた。

「だったらだったら!あのりゅーぐーのおつかいさんにこれわたして!ありがとうって、ずっと、どーしてもつたえたかったの!」

女の子が服のポケットから何かを取り出す。それを手渡しで受け取り、じっと見つめた。

それは紅紫色のガラス玉…外の世界でいうところのビー玉だった。女の子曰く、落ちてて綺麗だったから拾ったものらしいが、不思議と傷は一つもついていなかった。

「…それ、わたしのたからものなの。おつかいさん、よろこんでくれるかな?」

「えぇ、きっと…ううん、絶対に喜んでくれるわ。」

ぎゅっと、それを握りしめる。女の子はやったあと嬉しそうな声をあげると、そのまま走っていってしまった。

…誰も理解してもらえない中で、このような純粋な想いに触れることができたとき、どれほど嬉しいものか。自分は独りだと思いこんでいた自分に、初めて理解者が生まれた。その瞬間、どれほど救われるだろうか。

今になって痛いほど分かる。非難の言葉しか聞かなかったその中で、たった一つの感謝の言葉。それがどれだけ嬉しいものに聞こえただろうか。

「…ちょっとだけ、分かったわ。あんたが人間を守ってる理由。」

身を翻し、アリスの家に戻る帰路につく。求めていた情報は手に入らなくても、その表情はどこか、満足そうだった。

やれやれ、副業の方の名が折れるわね。目的が果たせなかったにも関わらず、違うところで満足している自分が、心を動かされた自分がいる。空を見上げると、綺麗な夕焼けが広がっていた。


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「お帰りなさい。どうでした?何か聞き出すことはできましたか?」

早苗が人間の里に行く前よりも、アリスの家には人が集まっている。その中でずっと待っていた衣玖が期待した瞳で尋ねてきた。

その瞳に少し困りながら、

「ごめんなさい。誰も知らないって言って、聞き出せなかったわ。」

「そう…でしたか。」

がっかりする衣玖に、でもと逆説の言葉を投げかける。渡すものがあると言い、ずっと手に持っていたものを渡した。

それは、さっき女の子に貰ったビー玉だ。衣玖はそれが何か知らないのか、貰うなりじっとそれを見つめていた。

「何でしょう、この石…とても綺麗ですが…」

「幻想郷には無いのかしらね。それ、ビー玉っていうのよ。…ま、それも幻想入りする日は近いと思うけれど。」

外の世界でよくあるガラス玉だと教える。昔はよくそれで遊んでいたが、それで遊ぶものの姿は最近では全くといっていいほど見かけない。

どうやって遊ぶのかと尋ねられたので、その遊び方を教えてやる。早苗たちの間で流行っていたのは、ビー玉をはじき、相手のビー玉に当て、その当てた数が多い方が勝ちとなるシンプルな遊びだった。今思い返しても懐かしい。

「…よく考えたものです。して…何故これを私に?」

「人間の女の子から貰ったのよ。ちょうど5歳くらいの子供で、衣玖さんに渡してほしいって。」

何があったかを伝える。人間が衣玖のことを酷く言っていたことは伏せておいて。

悪く言われていることは本人も知っている。それをわざわざ伝えられても、心が痛くなるだけだ。言葉がどれほど凶器になるか知っているので、あえて黙っておいた。

「…そう、でしたか…私なんかのために…」

「……」

あぁ、きっと自分も、あのときこんな顔していたんだろうな。口にしなかったが、目を細めて心の中でそう呟いた。

自分は色々な人から好かれ、頼りにされるため、衣玖の気持ちはあまりよく分かっていなかったのかもしれない。けれど、人間たちの非難の言葉をじかに聞いて、実際に自分が彼女のような扱いをされているように思って。

「…その女の子、私を助けた方ではないのですね。転生を遂げてしばらくした子、というのは…」

「…残念だけど、無関係だと思うわよ。死んで転生するには早すぎるもの。…7年だけで?それはいくらなんでも無茶よ。だから、彼女の純粋さだと思うわ。全員が全員矛を向けくるわけじゃない。中には…女の子のような、理解者も居てもおかしくないんじゃない?」

お人好しの考え方だけど、と最後に付け足す。じっとその透き通ったガラス玉を見つめ、ぽつりと呟いた。

「…あの女の子も、ずっと前に私を助けてくださったあの子も…このような透き通った、綺麗な心だったのですね。」

「…そう、ね。」

地面に投げ捨てられていたはずのそれは、全く傷つかずに光を一様に通す。

それはまるで、来るものを全面に受け止め、けれども汚れの無い、清らかな心のようだった。

ただの偶然なのだろうが、それが何となく必然のように思う。くすりと早苗は思わず笑みをこぼした。

「…ま、感傷に浸るのはこのくらいにしましょ。それより、あたしはもう少ししたら帰らないといけないから、今日のことをまとめてみましょ?」

首を縦に振る。が、すぐに困った笑みを浮かべて、

「…その通りなのですが…今日は情報は何も手に入らなかったのでは…」

「それを踏まえて、よ。一日のまとめは、こういう捜索をやる者にとっては必須なのよ。」

確かに一理ありますね、と二人はリビングのテーブルに対面して座っていた。隣に藍が本を読んでいて、どこうかと尋ねてきたが、特に聞かれても問題があることではないので首を横に振った。

そうか?とだけ言って、藍はお茶をすする。恐らく自分のお気に入りの玉露だろう。においで分かるが、それよりも衣玖の物欲しそうな顔で確信できた。

「…何だ、ほしいのか?」

「あー…えーと…すみません…も、もし余っていましたら…」

少し顔を赤らめながら手を合わせる。衣玖は藍のこのお茶が大好きらしく、よく彼女に分けてほしいと頼んでいる姿を目撃した。

早苗はあまり好きではないので、アリスの家にある紅茶を勝手に入れる。本当は緑茶がよかったらしいが。

藍は持っていた玉露を衣玖に分ける。ものすごく嬉しそうな笑顔に、思わず二人は苦笑した。

「…と、とりあえず…まず、朝起きたらあんたがトラウマだった夢を見て、それでどんな子だったか思い出したくて、あたしたちに協力を求めた。その最終目標はその子のお墓参り…ここまでオッケー?」

「えぇ。それで、穣子がその女の子と知り合いだったらしいので、色々尋ねたのですが、自分の思っていたより関係が希薄だったため、あまりよく覚えていらっしゃらなかった。…これ、そういえば早苗さんに言ってませんでしたよね。」

今朝の会話内容を思い返して、聞いた覚えがなかったので首を縦に振る。人間と関わりが強かったというのを話して、ある違和感に気がつき衣玖は首を傾げた。

「…強かった?穣子さんって、昔は好かれていたのでしょうか?」

好かれていたのならば、下手に気に入られようとする必要は無かったはずだ。その言葉に早苗はあっさり答える。

「多分、あんまり信仰は無かったと思うわよ。推測だけど、自分の存在を保つのに必要最低限な信仰しか無くて、姉の人気が高まって自分の存在が危なくなり、それで必死に好かれようとした。こんなところじゃないかしら?」

確かに筋が通っている。そうですねと、衣玖も納得した表情を見せた。

隣で一瞬、ほんの少しだけ藍が首を傾げたが、二人はそれに気がつかず、そのまま話を続ける。藍もそれに口出しはしなかった。

「で、妖夢に冥界の方で女の子探しを頼んで、と。明日か明後日くらいには帰ってくるんじゃないかしら。」

「はい。こちらは気長に待つとして…で、早苗さんに人間の里に行っていただいて、そこでの情報が、」

「…何もなし、と。」

何も無いことから何か考えられないかしらと早苗の提案。二人はじっと考え、いくつか思いついたことを話し合った。

「…同族を殺したから記憶を封印したとか?」

「人間にとってどうでもよかった…?」

「それはどうかしら…だって少なくとも、同族が死んだのよ?それで何も思わない方がおかしいと思うけれど…」

「…単純に、人間だから忘れているんだろ。」

ぱたんと本を閉じて、藍が会話に割ってはいる。手を前で組んで顔を乗せ、相変わらずの堅苦しい表情で話し始めた。

「妖怪の10年と、人間の10年は遙かに違う。例えば1万生きる妖怪と、せいぜい里の人間はどんなに長生きしても100年。人間の10年というのは、そんな妖怪にとってはざっと37日…大体一ヶ月だ。時の流れの違い、分かったか?

それに、人間というのは時がたち、昔のことを思いだそうとしても、楽しかった思い出の方が割合的には多い。浦島太郎で、お姫様が玉手箱を渡しておじいさんにしたのも、悲しみを忘れるためという説だってあるくらいだからな。」

言いたいことをすべて話すと、席から立ち上がり、玄関の方へ向かう。どこへ行くのかと尋ねると、藍は窓を指さした。すでに外は日が沈み、真っ暗な世界に変化している。
藍は家に帰ってしなくてはいけないことが多いらしい。この時期は紫も冬眠しているため、その分余計に長居はできなかった。

「んー…あたしも帰って神奈子様の世話してこなきゃ。…そうだ、忘れているだけだったら、日記みたいなのは残ってないのかしら。」

たまに自分の記録を残したくて、あるいは趣味でやる人がいる。何かそのときにあったものが『記録』として残っていないか。そう思いついた。

成る程、それは何か残っているかもしれない。衣玖も早苗に同意し、明日も早苗に頼むことにした。

何度もすみませんと一礼をして謝る。早苗はそんな衣玖の肩に手を置いて、気にしないでの一言。その軽い口調は、意外と女の子探しを楽しんでいる様子だった。

それを見て、衣玖は小さな声でお礼を言う。早苗に聞こえないつもりで言った一言だったが、彼女にはしっかりと聞こえていた。

けれど、あえて反応せず、くるりと背を向ける。衣玖から隠したその表情は、とても嬉しそうな笑顔だった。





女の子の可愛さに悶えたのはきっと犬だけじゃないはずっ!!
りゅーぐーのおつかいさんって呼び方が滅茶苦茶気に入ったわんこですw

さてと、1日目終了!重要な事柄を端的に書くと、

妖夢ただいま冥界なう。
・穣子は女の子と知り合い。でもほっとんど何も知らない。
・人間に聞いても『何も無い』。
・女の子から紫紅色のビー玉貰ったよ。

では明日はキャラが尋常じゃなくいっぱい出てくる二日目のスタートゥっ!!


コメ返。
<キバりん
長いよー尋常じゃなく長いよーw
もうほとんどラストまで書けてるからねb更新ラクでいいわー((

人里はよく出てくるけど、けーね先生は一回しか出てこないぞ!もこたんに至っては名前しか出てこないぞ!あ、でもある意味もこけね要素はあるのかも。

良かった良かったwそれなら書きがいがあるってもんよb
期待して残念だったらごっめんねー?