長編小説『蓮華草の贈り物』 6

9日が書かれてないように見えるけど、今まで6時までに更新してたせいで日付が一日ずれていただけです。
どうやら6時以降に更新しないと前日扱いになるようです。最近気付きました。
それから今回ちょっと長めです。






夕暮れが近くなった空の下、二人はアリスの家に向かった。早苗がもう少ししたら帰ってくる時間なので、何か情報が入ったか聞きに行かなくてはならない。

足取りは重かった。特にルナサはまだ涙を流している。体を震わせて泣きじゃくる彼女に、衣玖はそっと自分の体をくっつけた。

「…ねぇ…何で…何で衣玖さんまで…あんなこと、言ったの…?」

「…私には、ですが…」

少し言いづらそうに、けれど、伝えない訳には行かないと思い、ゆっくり話し始めた。

「…さとり、本心では無かったと思います。」

「え…?」

あくまで憶測ですが、と一言伝える。理由を問われるとやはり困るが、一つだけ、確かな違和感は見つかっていた。

「…あのとき、彼女はこう仰いましたよね。」

あれは藍さんと同じ感情があっただけです。あの穣子が落ち込むなんて、地球の自転が逆になるくらいに珍しいと思いまして。それで力を貸しただけです。

「…この言葉を考えると、矛盾がどうしても出てくるのですよ。」

藍と同じ感情、それはつまり、彼女のこと…元より、あの事件がが好奇心的にしか興味が無い。

つまり、仲直りさせる気など端から無い。実際、藍も仲直りさせることには反対だった。

では、彼女は…?

「…あのとき、さとりは仰っていました。藍さんと私で口論になっていたときに割って入り、賛成か反対かのところでこう仰っていました。」

賛成ですよ。…そのために来たようなものなのですから。

「…あ、そいうえば…」

「…元々、あれはレティがさとり達に『私と藍さんで意見が分かれて口論になっている』というのを見込んだ上でこちらに連れてきたというものです。あのとき、側にいた貴方は、彼女が賛成を本心から仰っていた。…そう、お感じになったのでは?」

「…うん…あれは…本心だった…」

そうか、気がついたから…衣玖は、あそこで話を中断させたのか。

彼女のつきたくてついたわけではない嘘を、少しでも正当化するためにあんな冷たいことを言って…

分かってやれなかったことが申し訳なくなり、顔を俯かせる。気にしないでくださいと、衣玖はぎゅっと、更に強く体をくっつかせた。

「…何故、彼女が嘘をおつきになったのかは分かりません。けれど、あれはきっと本心ではありません。」

何か隠しているのは間違いないと思っていいだろう。しかし、彼女からそれを尋ねることは難しい。殆ど不可能と思っても良い。

どうやって推測していこうか、そう考えていると、唐突にルナサがぽつりと呟いた。

「…でも、良かった…」

「…?何がですか?」

すでに涙は止まっていた。胸のところで手を握って、目を細めて小さな声で話す。

「…本心じゃ、なくて…どっちも、さとりも、衣玖さんも…」

「…そう、ですね。」

本当にこの子は人が良い。人が良い故に、すぐに騙される。

けれど、騙されても変わらない良心を持ち続けることができる。それはきっと、彼女の一つの才能だと思う。

口にはしなかったが、衣玖は心の中でそう考えていた。

「…さてと。言っている間に到着してしまいましたね。」

ゆっくりと体を離し、前方を指さす。いつの間にか、アリスの家のところまで来ていた。

早苗はもう帰ってきているだろうか。そう考えながら彼女の家に入り、リビングに向かって最初に目に付いたのは緑色。早苗だった。案の定、先に帰っていたようだ。

向こうもこちらに気がつくと手をひらひらと降る。早苗の向かいに衣玖とルナサが座ると、じっとルナサの顔をのぞき込んで不思議そうに尋ねた。

「どうしたの、何か大泣きしたような跡があるんだけど…夫婦喧嘩?」

「ふ、夫婦じゃないよっ!!…でも、喧嘩は…あながち、間違いじゃないのかな…さとりと、だけど…」

「?さとりにも声を掛けたの。」

「あぁ、お話しますと…」

何があったかを早苗に伝える。彼女にも手伝ってもらおうとしたところ、冷たい言葉を投げかけて断られたこと。

勿論、その言葉が嘘だということもちゃんと包み隠さずに話した。

それを聞いて、頬に指を当てて首を傾げる。なぜ彼女が嘘をついたのか、やはり早苗にも分からなかった。

「…保留、ね。まぁ、あれこれと考えることはできるけれど…それは一日の締めくくりのときにしましょ。」

「そうですね…して、そちらの首尾は?」

衣玖の質問に、肩を竦めてため息を一つ。そうですかと、二人も肩を落とした。

「でも、おかしいのよね。日記が、その年だけ無かったのよ。本人はちゃんと書いたつもりだったらしいんだけど…変よね。」

「?それは…一人だけ?…他の人も、だったの?」

「ううん、後は誰もそんな人が居なかったわ。だから、日記をつけてる人に出会ったのが一人だけ。多分、日記をつけているのがあのおばあさん…あぁ、一人見つけたっていうのが結構なご老人さんでね。兎に角、その人だけだと思うわ。」

なかなか成果が出なくて悪いわね、と苦笑を漏らす。ただの女の子捜索だと思って、なめてかかっていたがこの有様。自分のふがいなさにただ呆れるだけだ。

それでも、衣玖は感謝の気持ちを表す。ルナサも特に、そんな早苗を非難する様子は無かった。

「…でも、さ。…その、一冊だけ無いの、やっぱり不自然じゃない?その…わ、私、こういうのよく分かんないからあんまり口挟めないんだけど…」

「いや、目の付けどころは正しいわよ。…そうね、とりあえずこれについてはちょっと考えてみましょう。」

そういって、早苗は立ち上がると急に腕を組んでうろうろし始める。衣玖とルナサはじっとそこで俯いて考える。

が、早苗の動きが何やらおかしい。何というか、踊っているのかふざけているのか、兎に角変な挙動を繰り返す。視界にちらちら映って邪魔でしかない。

「…ちょっと、もう少し落ち着いて考えてくださいよ。何ですかそれ、太極拳ですか。」

「奇跡の舞。」

「絶対ふざけてますよね。」

しかし、意外と本人は真面目だったらしい。

「…よし、何個か思いついたわ。」

「今ので!?その謎のダンスで!?」

「謎のダンスって何よー。言ってるじゃない、奇跡の舞だって。」

「…祈祷、とかじゃなくって…?」

「奇跡の舞。」

…もう、いいや。二人はそれについて、もう深くツッコまないことにした。

思いついてくれたのなら、なんだっていいや、もうどうでもいいや。

そんな諦めに近い気持ちが二人の脳内を支配する。

「んで、まず一つ目。おばあさんがうっかり捨てた。」

「んなアホな。」

「考えられることをって言ってるじゃない。」

だからといって、言ったもんがちになるのはいかがなものか。色々言いたいことはあったが、特には触れずに次に移ってもらう。

「二つ目。その年に何かあった。」

「…まぁ、妥当なところかな…?」

「三つ目。燃えた。」

「いや、ちょ

「四つ目。自然消滅。」

「真面目に考えてくださいよっ!!」

「五つm

「もういいよっ!!」

そう?と、目をぱちくりさせる。やっぱり駄目だった、ただのアホな舞だった。頭を抱える衣玖に、思わずルナサも肩に手をトントンと当てて、同情の意を示す。

「それで、絞ると2つにまで絞れるわけなんだけど。手入れの良さから、一、三、四案は無いと思うわ。」

「基、二しか考えられないような…っていうか、五の意見何だったのです。」

聞こうとしなかったのあんた達でしょ、と抗議の目。本当に真面目な意見だったらしく、わざとらしく声を小さくしてぼそりと言った。

「五つ目。…誰かが邪魔をしている。」

「…!?」

ま、肝心の誰かは分からないけれどね、と一言付け足す。深刻さを少しでも減らす為に三と四をふざけたものにしたのに…と、どうでもいい謎の気遣い。

しかし、その意見のせいで二人は真面目に考える。先に口を開いたのは衣玖だった。

「…どちらでも、考えることができますね。それと同時に、どちらも謎が残ってしまいます。」

「そうなのよね。…まず、前者、二つ目のやつは妥当だと思うけれど。ちょっと人間が覚えてなさ過ぎだと思うのよね。」

例えば外の世界であった阪神淡路大震災。…二人には分からないので、ちゃんとどういうものだったかを一から教える。

その大きな災害は、人間達に癒えない傷を負わせた。記憶は薄れていったとしても、その事実事態が消えることはない。

故に残る違和感。もしその年に、日記に書けないほどの大きなことがあったのなら、もっとそのあったことを、せめて事実だけは覚えているはずである。しかし、それが一切ないのだ。

「…それから後者だけど。まず、誰が?って、ことになってくるのよね。」

「だよね…女の子のことが分かると不都合な理由でも…あるのかな…?」

「それは一理あるかもしれないけれど…そしたらどんな、っていう話になってくるわよね。」

腕を組んで悩む。あれを言えばやはりどこかに不自然さが残ってしまう。

あれこれと考えていると、不意にあらぬ方向から声が投げかけられる。

「私は前者だと思うわ。」

「おや、アリスとy

「きゃぁあぁあああああ幽香さぁぁぁぁぁあああぁあっ!!」

ガタンっと大きな音を立てて幽香に飛びつく早苗。目に見えていたらしく、その頭を掴むと、ゴッ!!と大きな音を立てて地面にめり込ませる。凄まじい破壊力だ。

常人なら普通に死にそうだが、何も問題がなかったかのようにすぐに地面から抜け出す。ゾンビのような彼女に、流石の幽香もうんざりしていた。

「…あ、えーと…お、お疲れさまです…?」

「もうこの子どうにかしてよ…ったく。」

はぁ、と一つため息をついて再度自分の意見を話す。その間ベタベタとくっついてくる早苗の頭を踏んずけながら。

シュールではあったけれど、ツッコんではいけない。謎の使命感が強く働いた。

「…で、よ。普通に何かあっただけだと思うのよね。だって、そうする理由が分からないもの。」

衣玖らが行っているのは言い方は悪いかもしれないが、ただの『人探し』である。それも、ずっと前に死んだ女の子の。

人間が覚えていないようなことを今更探られて何になる?そう考えると、やはり今更隠す理由が分からない。

「…私も、幽香と同じ意見。事実の隠蔽ってなっても、今更すぎるし…やっぱりその年に何かあって、日記が付けれなかったっていうのが一番じゃないかしら。」

「…?ね、ねぇ、ちょっと待って…何で日記が無いって知ってるの…?」

少なくとも、途中参加でこの会話に混ざってきたはずなのに、とルナサの鋭い意見。それには幽香が答えた。

「レティが花畑でそんなことを話してたのよ。朝、衣玖さんが女の子の捜索をしてるっていうの知ったらしくって。」

「…あぁ、そういえば今朝、お話しましたね。」

早苗は居なかったから知らないでしょうが、と一言。えぇと一言返事が返ってきたが、ちゃんと聞いているのか聞いていないのか分からない。

…ものすごく、幽香に踏まれて幸せそうな顔になっていた。

「…貴重なご意見、ありがとうございました。」

「ううん、いいの。私たちも、たまたま通りかかっただけだしね。」

それじゃ、夕食の用意してくるわと二人はその場を離れる。外を見ると、昨日と同じ綺麗な夕焼けが空に広がっていた。

「…さて、まとめましょうか。早苗さーん、起きてくださーい。」

その一声に答えるかのごとく、その場から飛び上がり、再び席について顔を拭った。

切り替えが早いというか何というか…

「それじゃ、まとめだけど…まず、あたしは日記を探して里に行った。けれど、見つかったのは一人だけで、肝心の探している年の日記は無かった。恐らく、この年に大きなことが起こって日記が書けなかった。あるいは、忘れるがために一年日記をつけなかった。…こんなところね。」

「それで、私たちは…ルナサに協力を求め、さとりにも声を掛けたのですが、彼女は何か協力したくない理由があるのか、嘘をついて協力を拒否しました。理由は今のところ不明です。」

ここでもまた謎が出てくる。なぜさとりが協力を拒否したのか。判断材料になるものが無く、仮説しか立てられなかったがいくつか考えてみた。

「…あの女の子で、何かバレたくないことがあります。」

「単純に面倒。」

「何か手伝えない理由が…?」

「実はさとりが邪魔してる。」

「何のためにですか。」

それを言われると確かにそうだ。彼女がこのことに対して何を隠蔽しようというのだ。

「…実は、妹が他にもいた。」

「あぁ…確かに、そうなってくるとこいしにバレたくはないでしょうが…」

その場合、知らないという方が寧ろおかしい。約12年前に死んで、それまでずっと会ったことが無かったのか。

「…この説、考えると無限に広がっていくわ。終わりがぜんぜん見えない。…やめましょ?」

「…そうですね。」

やはり、謎が多い。そして、判断材料が少ないため何も断定ができない。仕方が無く、この件は保留にすることにした。

「…それじゃ、また明日。…そうね、ちょっと明日の予定は神社で考えてくるから、いつものように朝に集合ってことで。」

「うん…分かった。」

「では、また明日。」

それぞれが立ち上がり、玄関に向かう。

ある者は社へ、ある者は天界へ、ある者は湖の近くの屋敷へ。空は殆ど夜に近いため、一番星が姿を露わにしていた。


  ・
  ・

「…藍。」

やや欠けた満月。それは、これから満ち、数日後には綺麗な真円を描く合図。

その明るい月夜の下、九尾の狐に声を掛ける半人半霊の女の子の姿がぽつり。

「…あなた、何か隠していませんか?」

しばらくの静寂。やがて、

「…ふむ、何故そう思った?」

「衣玖さん達…私に死んだ女の子の捜索を頼んだのですが…それらしき女の子の名前はありませんでした。」

「…それで?」

「その後…四季映姫様に会いました。裁判帳にも、それらしき名前はありませんでした。」

「…ふむ。だから、私を疑うのか?」

理由が分からないな、と鼻で笑う。けれど、半人半霊の方は真剣な眼差しだった。

「私は、衣玖さん達が嘘をついているようには見えませんでした。…何か、隠していませんか?あなたは四季映姫様や幽々子様とも繋がりが深いです。…疑うとしたら、あなたしかいないでしょう?」

「つまり、私が彼女らを妨害していると言いたいのか?」

こくり、と首を縦に振る。

再び訪れる沈黙の時。しかし、明らかに九尾の様子がおかしい。

「ふっ…ふふふっ…」

「…何がおかしいのですかっ…!」

「いやぁ、何とまあ浅はかな読みだ。拙すぎて笑いが思わず…くくくっ…全く…」

これは傑作だと、必死に笑いをこらえている。そんな彼女の態度が頭に来て、思わず刀を構える。

勿論、彼女をそれで射抜くつもりはこれっぽっちもない。

「おやおや、怖い怖い。そうだな…でも、お前にしてはまだよく推理できた方じゃあないかな?」

ご褒美に、少しだけ教えてやろう。疾風のごとく近づき、耳元でぼそりと、こう呟く。

「妨害している、それは正解だ。」

突然の強風。思わず目を瞑ってしまう。

薄目をあけて、ようやくの思いで振り返る。そこに九尾の姿は無かった。

「……どういう、ことですか…」

去り際にもう一つ呟いた、この一言。


ーじきに、真実は暴かれる。お前が動かなくてもな…ー








これ読んでくれている皆さん、お疲れ様です。二日目終了、つまり…
ようやく半分です。
この時点であの秋姉妹ネタの長さと同じくらいあります。…なっがいなー。

さてと。二日目の重要な事柄はこんなとこ。

・日記で女の子の年のものだけ無かった。
・さとりが反対していた。が、本心では無い。
・日記が一冊無いのは、その年に何か大きな異変があったから…?
妖夢が冥界に行っても何も無かった。

二日目終了時点でほとんど推測できる仕様です。さてと、皆は分かったかな!?
今回の謎解きで重要なのは、『推測』と『この情報から分かること』を考えていくことでっふ!