長編小説『蓮華草の贈り物』 7

さぁ、後半戦っ!3日目はものすごく長さがバラバラです!







―三日目―

「おはようございます。」

三日目。やや用意が遅れたため、少し顔を出すのが遅くなってしまった衣玖。すでに早苗とルナサは来ていて、いつもの場所に座っていた。

「おはよ。それじゃ、今日も外で作戦会議よ!」

「また外でやるのですか…?流石に少し寒いのですが…」

神であるあなたは特に何も感じないでしょうけれど、と非難の目。暑いよりはマシではあるが、やはり寒いのも少し耐え難い。

と言っても、この場にいる三人では唯一冬を『寒い』と感じることができる。ルナサは騒霊故、神に近い感覚である。なので、

「平気平気。寒いって思うから寒いのよ。ほら、さっさと行くわよ?」

「や、ちょ、ま…きゃぁぁあああぁ…」

相変わらずズルズルと引きずられていく。ルナサはそれを追いかけようとして、不意に妖夢に呼び止められた。

「あの、ルナサ…」

「ん…?…どうしたの…?」

表情が暗いことに気がつく。言いにくそうだったが、やがて自分が早苗たちに頼まれていたことを話し始めた。

「…私のこと、どこまで聞いていますか?」

「えっと…昨日、衣玖さんから妖夢が冥界に言ってるってのは聞いたよ…」

では、成果の方を伝えます、と改めてルナサの方を見て話し始めた。

妖夢曰く、冥界に行くとすぐに死者の魂の中から幼い女の子のものを探し始めた。いくつか該当するものはあったが、それでも探している年に死んだものではなかった。

幽々子様に尋ねても首を傾げられたので、とりあえず四季映姫のところへ行って、裁判帳を見せてもらう。しかし、やはりそこでも探しているような女の子のことは一切無かった。

「…そんな…」

「…ごめんなさい、お役に立てなくて…」

申し訳なさそうに一礼をしてその場を離れる。力になりたかったのに、なれなかった。その歯がゆさ、後の悪さを呪っているようだった。

それをしばらく見つめていたが、外から早苗の大きな呼ぶ声が聞こえる。小さくありがとうと言って、ルナサも外にでた。



「それで、今日の予定考えてきたんだけれどね。」

日記が無かった、それをもし何か大きな異変がその年にあってないのなら、歴史を編集している者なら何か分かるかもしれない。

そこで、早苗は二つ宛があるのでそのものをルナサと共に訪ねにいく。衣玖には別の者のところに訪ねに行ってもらうことにした。

「…総領娘様のところへ、ですか?」

「えぇ。衣玖さん、そのとき酷く錯乱して天界に帰ったんじゃないかしらって思って。こんなにずっとトラウマと化してたのよ?」

言われてみれば、とそのときのことを思いだそうとする。天界に返って、そこで総領娘様と顔を合わせたのは…

しばらくの沈黙。やがて、衣玖はぽつりと言葉を漏らした。

「…そういえば。一週間、ずっと部屋に引きこもっていたそうです。」

「…一週間、も…?」

妖怪なので、そのくらいは飲み食いしなくても生きていける。けれどその期間誰ともコンタクトを取らなかったのは、よほど精神的に参っていたのがよく分かる。

ようやく部屋から出てきたときは、天子が大泣きしながら衣玖に抱きついてきたらしい。心から心配してくれていた証拠だ。

「それなら天子なら何か知ってるかもしれないわね。でも、あたしは天界がどこにあるかは知らない。だから衣玖さん、お願いしていいかしら?」

勿論、とすぐに答える。ルナサも異論なしと首を縦に振った。

しかし、それを見た早苗はとてもわざとらしそうに、頬に手を添えてニヤニヤしながら言った。

「ごっめんなさいねー愛人二人が分かれるようなメンバー分けになっちゃってー。」

「だっ、誰が愛人ですかっ!!」

「そ、そうだよ…わ、私たちは…そんなっ…」

「いやー隠さなくっていいのよーうふふっ。忙しいわねー衣玖さんも、色んな女の子たぶらかさないといけないからー。」

「やめてくださいそんな性癖の悪い人みたいに言うのっ!」

顔を真っ赤にする二人を見て、早苗は相変わらずいい笑顔を作る。と、兎に角行ってきますと、ぷいっと背を向けて天界へ向かって飛んで行ってしまった。

「あらあら、あんなに照れちゃって…さてと、私たちも行きましょっか。多分すぐにアリスのところに帰ってくるでしょうしね。」

「…そういえば…どこに行くの…?」

「ん、まずはそうね…」

人里に向かいながら、早苗は行く場所を伝えた。

ルナサがいるため、お得意の風を操っての移動ではなく、純粋に飛んで二人はある家を目指した。


  ・
  ・
天界は遙かに地上より暖かい。それはそうだ、季節という概念がここにはない。気温差が激しくて少し気持ち悪くなるが、すぐにここの温度にも慣れた。

ふわり、とゆっくり降り立つ。天子を探し出すのにはあまり時間はかからなかった。

「あれ、衣玖、もう帰ってきたの。」

「いいえ、お伺いしたいお話がありまして。」

へぇ、衣玖が、と物珍しそうにジロジロ見つめる。それに対して少し気恥ずかしそうに目線をそらした。

「あの…総領娘様、12年ほど前のこと覚えています?」

「知らない。」

「…ですよね。」

何年前だけで伝わると逆に怖い。ちゃんとあったことを丁寧に説明し、思い出してもらう。

天子も強く印象に残っていたのか、それはすぐに思い出された。

「あぁ、あったわね。あんたが錯乱してすごい勢いで帰ってきたの。もう…あれは本当に心配したんだからっ!」

今でも彼女にとってもそれが少しトラウマになっているのか、少しきつい口調で衣玖に言葉をぶつける。

けれど、それはそれだけ自分が大事である証拠。不思議と優しい言葉だった。

「その件は申し訳ありませんでした。…それで、何かそのことで知っていることはございませんか?」

何か知っていることと言われても、と少し困っていたが、やがて手をポンっと叩き、衣玖の瞳を見つめ直す。

「そうそう、それで何があったか気になって人間の里の方に様子見に行ったのよ!」

「え…えぇっ!?お一人でそのような無茶をなさっていたのですか!?」

「だってあんた出てこなかったし。」

確かにそうなのだが、と衣玖も申し訳なさそうにした。

それに、とバツが悪そうに声が小さくなる。目線をそらし、下の方を向いて、ぼそりと。

「…衣玖をあんなのにした奴、許せなくて…」

「…?何とおっsy

「ばっ、も、もう言うわけないでしょっ!」

顔を赤くして、必死に何かを隠そうとする。言いたかったことは分からなかったが、きっと自分のことを思ってのことだということは分かったので、素直に小さく、お礼を言った。

「そ、そそ、そうね、わ、私に感謝しなさいっ!」

腕を組んで威張りかえる。照れ隠しで、必死に強気な態度を取ろうとしていることがよく分かる。思わずくすりと笑みをこぼした。

こほん、と一つ咳払いをして、ようやく本題に入る。気分も落ち着いたらしい、元の肌色に戻っていた。

「それで、様子見てきたんだけど…おかしかったのよね。」

「?何が、でしょうか。」

「何も無かったのよ。不気味なくらいに、ね。」

けれど衣玖のあの狼狽した姿から、何かきっと大きな異変があったのだと思ったのだろうけれど…そう言って、彼女は肩を竦める。

あのとき、あんた一体どんな目に遭ったのよ。そう尋ねてきたので、衣玖は皆に話した女の子の話を天子にもした。

それを聞くなり、やはり彼女は首を傾げる。

「…やっぱり、変よね。本当に何もなかったのよ。人間って、あんなに他人のことどうでもいいっていう冷たい種族だったかしら。」

「そうではないと思いますが…」

ふと、この謎の違和感の正体が分かった。

何か掴めそうで何も掴めない、このどうしようもない違和の正体。

「…そうか。ずっとおかしいと思っていたの、こういうことだったのですね。」

「…衣玖?」

「総領娘様、ありがとうございます。」

「どーいたしましてっ…て、え、どういうことよ?」

ふわり、と体を浮かせ、再び下界へと降りていく。早く戻っても仕方がないと分かってはいたが、どうしてもいてもたってもいられなかった。

「ちょっと、どういうことかせめて説明していきなさいよ!」

全く…と、頬を膨らませる。その言葉が届いているのかいないのか、天子には分からなかった。








始めて天子が可愛いって思った瞬間。