長編小説『蓮華草の贈り物』 8

昨日始めて一日模試を体験しました。09:30〜19:50まで。
…死ぬかと思いました。






「…で、お前たちは私のところに来たわけか。」

こくり、と早苗とルナサは首を縦に振る。

最初に向かったのは幻想郷縁起を編集している者、碑田家の元だった。そこには見たり聞いたりしたことを忘れない程度の能力を持つ、九代目の阿礼乙女、碑田阿求が住んでいた。

年代を言って、あったことを話したがその現場には居合わせていなかったそうで、歴史的にも大きな異変は無かったという。そこで、次の目的地のここ、寺子屋に来ていた。

そこには歴史喰いの半獣、上白沢慧音が居る。彼女は人間の時は歴史を食べる、動物化したときは歴史を創る程度の能力を持つ。

それで、歴史の編集をしている彼女がいじくった可能性は無いか。そう思って尋ねてきたのだ。あるいはそうでなくても、何か知っている可能性が高いと考えた。

「…それで、阿求の方はどうだったんだ?あそこは私の力は及ばないからな。」

「…白、だった。何も起きてないって言われたわ。」

「ふむ、それで私のところに来るのはおかしいと思うが?あそこで白だと出たのなら、白が出ると思うが?」

その通りなのだが、何となく違和感が残って仕方がない。早苗はその違和感の正体をずっと考えていた。

幸いにも、今日は寺子屋は休みなので、話を聞く時間はたっぷりある。といっても、彼女は忙しいのであまり相手にしている暇は無いそうだが。

「…人間の女の子、一人が死んで…本当に、何もないで済むと思う?」

「それはつまり、田舎の性質というやつか?人が風邪を引いただけですごい噂になる性質の。」

「ちょっと違うわね。ただ…人が一人死んだわりに、全員のリアクションが淡泊だというか…」

自分でもよくは分からない。けれど、何かがおかしい。思わず自分の親指の爪を噛んだ。

そのやりとりを見て、ルナサがぽつりと呟く。

「…あの、ね…死んで、人間にとってはそれが不都合で…それで、歴史を葬った、そんなこと…してない?」

「…そんなことをするようでは、私は先生になる資格はないな。」

ふぅ、と一つため息を付き、初めてまっすぐと二人を見つめる。長い髪をうっとうしそうに横にかき分け、やや強い口調で言った。

「私は子供が好きだ。だから、寺子屋の先生をやっている。そんな先生が、子供が死んだ事実の隠蔽だ?ははっ、できるわけがないだろう?寧ろ、そんなことがあったら、私はその殺した人間を、絶対に許すことができないだろうな。」

くすりと笑って、目を細める。その一言に思わず互いに目を見合わせた。

肩をカタカタ震わせながら、早苗は恐る恐る尋ねる。

「…慧音先生、意外と道徳の心あったんだ…」

「ちょっと待て、どうしてそんな印象を受けているんだお前たちは。」

「いやー、こう…子供をラチっては犯してその歴史をいいように書き換えるロリ犯罪者かと

「ちがぁぁあああうっ!私は純粋に子供が好きなだけだっ!どうしてそんな変態扱いされなければならないんだ全く!」

まるで獣のごとく吠える慧音。まだ満月じゃないわよ、と更にからかいの言葉。

「あ、それとも…妹紅さんの方が…好みだった…?」

「そーそー…って、馬鹿ぁっ!というかルナサ、お前がどの口聞いてんだっ!!」

でも意外と真面目な質問だったらしく、へ?ときょとんとした表情で慧音を見つめる。思わずあっけにとられ、横では早苗が腹を抱えて笑っている。

「こ、こらそこ笑うなっ!」

「だ、だって…あ、あのルナサに言われて…あはっ、あっははははははっ!!」

「わ、わわ、笑うなぁーっ!!」

顔を真っ赤にして、もし白沢になっていたら尻尾をパタパタと振っていたところだろう。最も、今は満月の夜では無いのでそんなことは無いが。

「ははっ…はぁーあ、あー笑った笑った。…で、何でそんな顔赤くしてるのよ。」

「お前等鬼かっ!悪魔かっ!」

理由は自分にあると分かっていながらのこの発言。流石早苗。安定の早苗。

一つ大きく深呼吸をすると、改めて慧音の方を見て、少しだけ微笑んでこう尋ねた。

「…本当に、12年前、何にも無かった?」

「ん、あー…私の知る限りでは、な。大体、子供が死ぬような悲しい事件、私は絶対に忘れはしない。」

その一言を聞いて、一つの確信にたどり着いた。どうしてずっと違和感があったのか、ようやくその理由に気がついて。

大きく伸びをする。その表情はどこか満足そうな、納得のいった表情だった。

「…む、その顔は…何か分かったようだな。」

「お陰様で、ね。さてと…ちょっと急いで戻るわ。それじゃあね、妹紅の愛人さんっ?」

「だからちが

「待って…え、えっと、ありがとう…妹紅のお嫁さんっ…」

「ちぃぃぃいいがぁぁぁあああうぅぅぅぅぅううううっ!!」

早足に出ていく二人に慧音の最後の遠吠え。その場に残されたのは、紅潮して痙攣する息の切れたちょっと可哀想な半獣だった。


  ・
  ・

アリスの家から数メートル離れたところに降り立つ。まだ二人は帰ってきていないらしく、家の周辺には足跡が残っていない。

この辺りは雪が積もっているので、誰かが通るとすぐに分かるようになっている。と言っても、飛んでいった可能性があるので絶対に残っているとは言い難いが。

と、そこへ背後から唐突に声がかけられる。それは、自分のよく知った声だった。

「やあ、女の子は見つかった?」

真冬で雪が積もっているのもお構いなしに、いつもの裸足だった。しばらく声を聞いていなかった豊穣の幼き神、穣子だ。

思わず少し肩を震わせる。驚きというよりも、寒さによる身震いととらえられたようだった。

「穣子…裸足で寒くないのですか?」

「ん、平気だよ。霜焼けしちゃってもすぐに治るしね。いやー、神様の体って本当に便利だよー。」

明るい笑みを見せる。そこで、ようやく衣玖は穣子が何か手に持っていることに気がついた。

じっと見つめるが、あまり大きいものではないらしく、服の陰に隠れてしまってよく分からない。穣子はそんな衣玖に気がついて、持っているものを差し出した。

「これが何か気になったんだね。ほら、蓮華草だよ。」

「蓮華草…?確か、春に咲く花ではありませんでした?」

そう尋ねると、驚喜して胸を張って得意げに話してくれた。

「そうなんだよ!でもすごい日当たりよくってあったかい場所があってさ!そこで咲いてるの見つけたんだよ!」

と言っても第一発見者は橙なんだけどね、と一言付け足す。

きれいな鮮やかなその花は紅紫の花びらを風になびかせる。何でもない、けれど宝石のようなその花に思わず見とれてしまった。

しばらく見つめていると、穣子がある一つの頼みごとをしてきた。

「…あのさ。もしも女の子が誰か分かったら、この蓮華草を届けてやってくれないかな?」

あの子、このお花が大好きだったんだよ、と少し切なそうにぎゅっと握りしめる。決して力を入れすぎることなく、優しく胸の前でそうした。

その彼女の珍しい純粋な想いを断ることなんて勿論出来ず。

「分かりました。これを届ける…つまり、供えればよいのですね。」

穣子からその花を受け取る。その本数は全部で六本だった。萎れたものはなく、どれも自然のままの色を保っている。どうやら、摘んでからまだ間もないようだ。

「うん、ありがと。ごめんね、手伝えなくって。」

「…そういえば、最近姿が見えませんでしたが…どうなさっていたのです?」

その質問に、彼女はすぐに答えた。

「その花を探してたんだよ。衣玖さんが熱心にも女の子のこと探してるって知ったからさ。見つけたときに、最もあの子が喜びそうなものをこっちが用意しておいてあげようって思って。」

そういえばそんなもの一切考えていなかった。せめてもの償いの言葉をかけに行くのに、手ぶらで行けるわけなどない。

彼女の気配りに、思わず胸が熱くなった。だから、自分はついこの幼い神様に惹かれてしまうのだろう。

「そんじゃ、お願いね。あたしはあたしで、他にちょっとやることがあるからさ。」

ひらひらと手を振って、穣子はその場を離れる。いくら神様ですぐに治ると言っても、やはり裸足で足跡を付けていくのは見ていて寒かった。

「…さてと。早く女の子のところにこれを添えてやらないといけませんね。」

そのままにしてはすぐに枯れてしまう。とりあえずアリスの家に入り、小さな花瓶を借りるとそれに水を入れて、その中に六本の蓮華草を挿す。それを見たアリスが、枯らすといけないのだったらと、水に砂糖を入れてくれた。

何でも、水に砂糖を入れてやると枯れにくくなるらしい。植物にとっての栄養は糖だからか、入れると入れないとでは結構違うそうだ。

そんなやりとりをしてしばらくしていると、少し息を切らして二つの人影が家の中に入ってきた。

「おまたせっ!やっぱり先に帰っていたわね…」

疲れたーっと、椅子に腰をかけてぐったりと座る。そんなに急がなくてもよかったのにと、何となく申し訳なくなる。

天界で天子にちょっと話を聞いてくるのと、人間の里で聞き込みを行うのとはかかる時間が全く違う。なのでそんなに気を使わなくても良かったのだが。

そう思っていたが、どうやら気遣いから急いで帰ってきたのではないらしい。

「…ん?何で蓮華草…?」

「あぁ、穣子があの女の子へのお供えものとして持ってきてくださったのです。」

「ふーん…なるほどね。みのりんらしいわねー。」

大きく息を吸ってそれをゆっくりと吐く。いつの間にかルナサはすっかりと荒かった息が整っていた。

それに続いて早苗も呼吸を整える。

「…ふぅ。落ち着いたわ。それでね、慧音さんとこに尋ねてきたんだけど、やーっとなんか、ずっと思ってた違和感の正体に気づいたのよ!」

これを早く伝えたくて急いで帰ってきたらしい。なるほどと、衣玖も納得した表情でこう返す。

「貴方もでしたか。実は、私も違和感があったのですよ。」

ルナサだけはよく分からなかったらしく、困った表情をしている。衣玖と早苗は互いに目を合わせ、そして同時に言った。

「「あまりにも知らないという意見が多すぎる。」」

一致した二人の意見。やっぱり、と互いに冷や汗が頬を伝った。

「…なーんかおかしいと思ったのよね。慧音さんや阿求さんが知らないってので、もうこの違和感がはっきりしたわ。」

「私も…総領娘様が知らないと言った、というより…人間が何も騒ぎを起こしていなかったというのではっきりしました。」

なるほど、とルナサも納得する。つまり、それはこれ以上どうあがいても新たな情報は得られない。

それと同時に、今ある情報で十分に推測していくことが出来る。

「…それじゃ、一つ一つ考えていきましょ。」







恋愛対象がいると、早苗が襲来したときにそのキャラすっごいいじくられるの何の。
けーねさんが何か半分ギャグ要因になっててワロタw

そして…明日はついに答えの発表!