妖「衣玖さんと犬だけですよ。…これ、誰得ですかね?」
衣玖さん。始めて知ったんだ。親指姫って、チューリップから生まれる→蛙にラチられて嫁入り→モグラにラチられて嫁入り→ツバメを助けてお礼に生まれたことへ返してもらう みたいな感じが正しかったんだね。
衣「私も始めて知りました。…親指サイズの姫って認識しか。」
怖い話じゃなかったんだね。
衣「そうですn…は?えぇと?昔話ですよね?いや、それはホラーもありますが…一体どんな話を想像していたのです?」
おk分かった話してあげようじゃないか。…怖い話大丈夫だっけ?
衣「平気ですよ…と、言いたいところですが、全く怖くないと申すと嘘になります。」
大丈夫大丈夫、そこまでじゃあないから。
昔、あるところにボッチのおじいさんがいました。
衣「何て言い方。」
おばあさんは既に他界しており、更におばあさんは石女(うまずめ)だったのです。
そんなわけで、おじいさんは毎日のように子供が欲しいと嘆いていました。それはもう、おばあさんのことなんて知ったこっちゃないといった感じに。
衣「おいこらおじいさん。おばあさんガン無視ですか。」
それを見た神は、そのおじいさんの精神を哀れに思い、子供を授けました。
おじいさんの親指に。
衣「……は!?」
おじいさんの右親指には子供の顔が浮き彫りになり、まるでゾンビのようなうめき声をあげるのです。
衣「いやいやいや怖い怖い怖い!!その時点でホラーですよ!!」
おじいさんは言いました。「なんて可愛い子だ…!」子供がいなかったせいで子供を見る目がなくなってしまったのですね。
衣「おじいさん目を覚まして!!」
さてさてその子供がまた強欲なこと。食べても食べても満たされることはなく、それどころか食べる速度、量は日に日に上がっていきます。
初めは1日りんご1つで満足していたのに、次の日はその倍、その次の日はその倍と、どんどんと量は増えていきました。
衣「初めから親指がりんご1つ平らげたって部分で暴食ですよね!」
おじいさんは困りませんでした。だって、自分の可愛い我が子だと思ってやまないのですから。
衣「おじいさん目を覚まして!!」
この時点で子供に精神を食われていたんですね。おじいさんの顔もまるでゾンビのようになり、村人たちからも避けられるようになりました。
衣「取り憑かれとる!そして避けるレベルで済むの!?」
子供は食欲だけはすくすく育ち、やがておじいさんの元には何一つとして食べるものがなくなってしまいました。
椅子もちゃぶ台も家も何もかも食べてしまいましたが、それでも親指姫は腹ペコです。
衣「もう食べるもの間違ってる!!」
困ったおじいさんは、村人たちまでも親指姫の生贄にしました。
衣「ぎゃぁあああああ遂に殺し始めたぁぁああああぁああぁああっ!!」
おじいさんの顔はとても甘美に酔った笑顔です。おじいさんの指はもう血が染み付いて取れることはありません。
衣「誰か!誰か親指を切断しましょうよ!!」
遂に村人も居なくなり、しかしどんどん食べるものは多くなり、やがて…地球上にはおじいさんと親指姫しかいなくなりました。
衣「人類というか生命滅亡!!?」
親指姫はにやりと、不気味な笑みを浮かべ、そして…なんとおじいさんを喰らい始めたのです!
衣「なるだろうなとは思っていましたが!!」
おじいさんの哀れな悲鳴。断末魔が響き渡り、血飛沫が地面を染め、地球には親指だけが残りました。
衣「いやぁぁああああああああぁぁぁあああっ!!」
そのとき、親指姫は始めてしゃべったのです。赤銀に染まった、狂気の瞳を開けて。
―まだまだ、足りない―
これが、ブラックホールの起源だと言われています。
…って話だと
衣「んなわけあるかぁあああああああぁぁぁああっ!!!!」