ほんのり小話 59

当分高め。
みのりんふぁんたじあ5話直後の話…というか重要すぎて、5.5だわこれ!






「はぁ…」

母乳が止まらなくなったあの事件の数日後の昼下がり。珍しく穣子は自室のベットでごろりと寝ころんでいた。

相変わらず部屋にはハーブの匂いが漂っている。事件の真相が分かっても、悪の根元は冬になるまで収まったりはしない。なのでもうしばらくだけ、部屋に引きこもっていることにしていた。

「…っにしても、治らないなぁ…」

何となく調子が悪い。熱っぽくて、胸が苦しい。風邪かと思ったけれど、自分は神だからそれは無い。

力が抜けたことの倦怠感がまだ抜けていないのだろうか。それにしては治るのが遅い気がする。全くどうしたものか…朝から悩んでいるが、その正体が分からない。

「あらあら、迷える子羊ちゃんどうしたのかしらねぇ。」

と、不意に部屋に明るく、上機嫌な声が響く。それが誰のものであるかすぐ分かった穣子は、一つため息をついて気だるそうに返した。

「なんだ早苗か。今日は天井裏から侵入?」

「やっぱりしっかりバレてるわねぇ…昔はもっと驚いてくれてたのに。」

「もう慣れたよ。天井で逆さまでぶら下がってても、早苗だからの一言で済むようになっちゃった。」

早苗だから。それは最早魔法の言葉だった。早苗が何をしようが、どうしようが「早苗だから」の一言で全て許されてしまうという恐ろしい言葉。

その言葉に苦笑しながら、天井から一回宙返りをして綺麗に着地をする。なんというか、もう本当に何でもありだ。

「しっかし、ついにみのりんもその病気をこじらせるようになるとはねぇー早苗ちゃん嬉しいわぁー。」

「…?何さ、この症状の正体知ってるの?」

少し驚いた様子で、ゆっくりと体を起こす。胸のひきつった感じはまだ収まらない。

そんな状態の穣子を、からかうように笑いながら早苗が言った。

「えぇ、勿論よ。それは、不治の病ね。大丈夫よ、絶対に誰もが経験する病気だから…ま、あんたは自分の感情に素直になればいいと思うわよ?」

あまり言っている意味が分からずに、首を傾げる。そんな彼女に、早苗は人差し指で額を軽く突きながら小声で、

「困ったときは、あたしに相談しなさいね?秘密にしてって言われたら、絶対に漏らしたりしないわ。ふふっ、隠し事には自身があるのよ?」

一つウインクをして、その指をはじいた。

「うん、それは知ってる。知ってるけど…」

やっぱり、いきなり何故そんな話を振られるのかが分からない。困っている穣子に、ケラケラと大笑いして言葉を返す。

「んもー、ほんっと自分のことになるとあんた鈍いんだからー!

じゃあ、最後に一個だけヒントをあげるわ。あんた、今一番胸の中で想ってる人の名前を言ってみなさい。」

そう言い終わると、手を振って外に出る。自分が居たら気にして言えないだろうという、そんな彼女なりの気遣いなのだろう。

出ていってしばらく、穣子は宙を見つめていた。

「…自分が、今一番想ってる人…?」

早苗の言われた言葉を何度も頭の中で繰り返す。想っている、そのことを考えながら、ぽつり、自然と単語が漏れた。

「……衣玖…さん…」

消えそうな、けれど確かな言葉。その言葉を漏らしたとき、酷く胸が痛んだ。

何故今彼女の名前が出たか考える。今自分がどう彼女を見ているのかを考える。

けれど、上手く纏まらない。それどころか、何かがこみ上げてくるような、自分の不慣れな感覚におそわれる。締め付けられるような、そんな苦しい感覚。

それが何かは分からない。分からないけれど、

「…多分、」

認めなくちゃ、いけないことなんだと想う。

これが本当にそうなのかは分からない。

自信も無いし、確信も無い。

けれど、もしかしたら、

「…私、は。」

…あの竜宮の使いが、本当に『好き』なのかもしれない…









ついにみのりんにも恋愛フラグが立ちましたよ長かった!!
ようやく二人がスタートラインに立ちましたねぇこれ何年かかったよ。時系列的に何年かかったよ。長いわ!