東方信風談 〜白風 1〜

※もうすぐクリスマスということで約一週間クリスマス小説をつらつら書きます。
※文芸部に出したやつなので設定とかえらい途中つらつらと書かれています。



 賢者の塔にある書庫。あまり光が入ってこないせいで気温は低いだろう。その中で青いスカートと白い帽子を被り、薄紫のふわっとした髪と長いマフラーのような布が特徴の女性、レティ・ホワイトロックは調べものをしていた。いや、性格に言えば単に本を漁っているだけだが。

 仲間の一人が「何か作ってやる」と言ったので、その対象となりそうなものを探している。しかし、ほとんどは本を取り出し、適当にページをめくってまたしまう。この繰り返しで、当の本人は全く中身を読んでいない。

「ここの人はこんなにもつまらない本しか読まないのねぇ・・・」

 一つため息をついて本をしまい、また別の本を取り出す。一冊くらいマンガを混ぜてもばれないかもしれない。そう思ったとき、不意に手が止まった。

 お得意の直感が働き、そのページを詳しく読む。

「・・・あら、面白そうなのがあるじゃない。」
 悪巧みの笑みを浮かべ、その本を手にとってレティは書庫を後にする。誰もいなくなった部屋には、ただ冷たい風が吹き込んでいた。



 不自然に開いた窓と本棚の隙間。それは冬の奇跡の前兆だった。



−『東方信風談 白風』−



 12月25日。この日を待ちわびた人は多いだろう。街は綺麗に装飾され、昨日の雪のせいでうっすら辺りは白くなっていた。まだしばらく寒気は続きそうなので、今日はこの雪が溶けることはないだろう。

 冒険者の宿、幻想郷。まだあまり有名な宿ではなく、かなりのボロ宿。いつもここで寝泊まりを繰り返している。

 かなり日が高くなってきたときに、私、アリス・マーガトロイドは起きた。やばい、完全に寝過ごした。

 私は急いで愛用している水色のスカートと白いローブを着て、人形のような金色の髪によく似合う赤いカチューシャをつけてこの宿の一階に向かった。


「おはよ、親父さん、何か適当に朝食作ってくれない?」

「アリスがこんな時間まで寝ているとはな。それもクリスマスに・・・どういう風の吹き回しだ?」

 椅子に座ると親父さんは私の前にスープとパンを置く。時計を見るとちょうど11時だった。ここまでのんびり寝ていたのは多分初めてで、いつもは8時くらいには起きていた。

 今日はクリスマスなこともあって、ある仲間に一緒に出かけようと声をかけるつもりだった。が、その目当ての仲間どころか他の仲間すら見あたらない。流石にクリスマスだし、私のように寝ている方が珍しいけど・・・

 少しだけ取り残された寂しさを感じながら、私は昼食になってしまった朝食を少し早口で食べた。誰か私を起こしてくれたっていいのに・・・

 半分くらい口に運んだときだった。

「アリスはいるかしら?」

 ボロ宿の扉がいきおいよく開かれる。大きな音を立てて壁におもいっきりぶつかり、その反作用でキイキイかすれた音が鳴っていた。

「どうしたのよ、そんなに慌てて。」

 チェックの入った赤いスカートとベストを飾るような黄色いタイ、若草色の髪をしていて、微かに花の香りを漂わせている。急いでいた割には全く息の上がっていない風見幽香に私は声をかけた。

 幽香は私と同じ『幻想郷』に所属している冒険者。また、同じチームでもあり、ほぼずっと一緒に行動している。

 彼女はパッと見た感じ人間のように見えるが実は妖怪。何の妖怪かはよく分からないけど、花を操れてべらぼうに力が強い。

「ふふっ、今日はクリスマスってことを忘れたのかしら?」

「忘れるわけないじゃない。ただ珍しく起きるのが遅くなっただけよ。私でもどうしてこんなに起きるのが遅くなったのか不思議なくらいにね。」

 折角今日は妖夢と一緒に出かけようって思っていたのに・・・

 因みに妖夢というのは私たちのチームのリーダー。月のような銀色の髪に夜空のような漆黒のリボンを頭にあしらい、深緑色のベストとスカートがまるで深い夜の森を思わせる。

 彼女は人間と幽霊のハーフで、普段は見えないけど幽霊が実は周りにいる。意外と大きいが、大した影響はない。

 この辺りで感の鋭い人は分かっただろう。そう、私のいるチームには人間が居ない。私も人間と変わりなく見えるが魔女である。主に魔法で人形を操り、それを武器にする『人形使い』である。

「そうね、私も驚いたわ。でも、だからこそこれを用意できたの。」

 意気揚々と花の妖怪は私の手を取り、そこに一本の白い花を握らせた。あぁ、今日の花のにおいはこれか。

 その花はまるで雪のように白く、形状は百合の花に似ているけど全くの別物。恐らく始めてみる花だと思う。

「珍しい花ね、何ていう花なの?」

「これは『スノーホワイト』っていうクリスマス以降にしか咲かない花よ。咲く環境がリューン周辺では全くといって適していないから、クリスマスに好きな人に送ると恋が実るっていう噂の花よ。」

 最後の一言で幽香はわざとらしく恥じらう。うん、理由がよぉく分かった。

 幽香は私のことが好きで、よくベタベタとくっついてくる。今ではもう適当に流しているけど、嫌いと言ったら嘘になる。本人ほどの好意は多分ないけど。

「ありがとう。でも、また珍しい花摘んできたのね。」

 多分花を操って咲かせたんだろうけど。花を操る妖怪だし。

「どういたしまして。アリスの為なら何だってやるわよ。」

 あぁ、でしょうね。私は返答の変わりに苦笑を返した。幽香はそれをどう思ったのか、さっきと同じような笑顔を私に返す。

「そうそう、アリスこれから暇かしら?もしよかったら私と一緒に街に出かけない?」

「え、でも−・・・」

 嫌というわけではない。が、あくまで誘おうと思っていたのは妖夢だ。しかし、今は妖夢が何処にいるかおろか、何をしているかも分からない。もしかしたら他の人と予定を埋めているかもしれない。だから幽香と今日という特別な日を過ごしてもいいかもしれない。

「おい、アリス、この宿のルール忘れたか?まぁお前はいつも早起きだから知らなくても不思議じゃないか。」

 ルール・・・あぁ、そういえば一番遅くに起きてきた人は足りない食材の買い出しに行かされるんだっけ。そういえばそんな損な役やらされるのは初めてだ。

 ていうかこの人はクリスマスでも容赦ないのか。でも今回に限っては割と助かったのかもしれない。

「それならしょうがないわね、だったら私は花の世話をやってくるわ。夕方もし暇だったらつき合ってくれるかしら?」

「・・・考えておくわ。」

 少し濁した返事をする。私は朝食をすべて食べ終えると、親父から受け取った買い物メモを手にとって半分開いたままになっている扉から寒い外に出た。