東方信風談 〜白風 2〜

※非公式設定あり


 外に出るとまず寒気が私を襲い、思わず身を縮ませた。吐く息は白くなっているがすっかり景色と同化してしまう。

 リューンはいつもより人通りが多く、中でもカップルや夫婦が大半を占めている。この中で一人買い出しに行かなくてはいけないのは何となく気が引ける。まぁ私が悪いか
らしょうがないんだけど。

 人混みを何とか避け、メモに書いてある物を買っていく。個数が多いため、途中から上海と蓬莱に荷物持ちを頼んでもらうことにした。私としては楽だけど、どうしても人形を操るのに力が入るから商品の受け取りにも他の子に手伝わせる。

 もちろん、私のことを知っている人はそうでもないが、初めて私と会う人や通行人は私を不思議そうに見つめてくる。もともと人形使いは今ではほとんど見ることのない魔法使い。人形を操るには魔力だけでなく器用さも必要とし、その割には強力な魔法でも何でもないので、わざわざそれを本業にしようとする人なんてまず居ない。私はそんな物好きな一人ということになる。

「・・・よし、これで全部かな。」

「あらあら、アリスちゃんはクリスマスなのに誰かとの予定とかはないの?」

 買った物の確認をしていると店のおばさんがニヤニヤしながら尋ねてくる。恋バナに話を咲かせる女子高生きどりか、と言いたくなったけどぐっと我慢。

「一応は仲間と過ごす予定です。ただ多分夕方か夜からになりそうですが。」

 このままだと幽香と。別にそれでいいっちゃいいんだけど・・・

「こんな時も仲間と一緒なのかい。他にいい男とか居るんでしょ。あんた人形のように可愛いし、実はモテるんだろう?」

 えぇそれはモテますよ、主に若草色の髪をして花の香りを振りまく妖怪様に。ていうか男なんてどうでもいいし、本命は一応はちゃんといるしてかそろそろ鬱陶しい、『リターンイナニメトネス(人形爆弾)』でも投げつけてやろうか。

 そんな考えが脳裏をよぎった刹那、

「上海が居るからもしかしたらって思ったけど・・・やっぱりアリスね。」

 透き通った柔らかい声。私は後ろを振り返ると意外な人が立っていることに気がついた。

「レティじゃない。どうしたのよこんなところで。」

 レティはチーム内で唯一の聖北信者(自称。正直胡散臭い、ていうか絶対嘘だ)。何を考えているか正直分からない。ただ、よくよからぬ企みをしているのは事実。今回も何かやらかしそうなにおいがある。

 因みにレティは雪女。本当は冬と一緒に自身も動かなくてはいけないのだが、胸のところについている十字架がマジックアイテムになっていてその必要がなくなっている。だから夏でも一緒に暑い暑いとグダグダ言ってられる。

「それはこっちのセリフよ。あなたのことだから幽香と一緒に居るのかと思ってたわ。その様子だと寝こけてそれどころじゃないって感じだけどね。」

「・・・起こしてくれてもよかったのに。」

「人の安眠を邪魔したら後が怖いもの。まぁその前に幽香が起こすかなって思っていたんだけど・・・予想外だったわ。」

 やれやれと、肩をすくめる。白く長い布が風に靡いてひらひらと舞い、近くに居た人は少し邪魔そうな顔をして避けていった。

「・・・しっかし親父さんも恋する乙女に買い出しとはねぇ。鬼畜にもほどがあるわ。」

 いや、鬼畜なのはレティに敵うものはほとんど居ない・・・って、

「だっ、誰が恋する乙女よ!」

「目の前に居て白いローブまとってて金髪で人形を引き連れているまさにあなた。いいの〜妖夢探しに行かなくて?」

「よ、よよ、妖夢はそんなこと全くもって思ってないもの!別に好きでも何でもないしっ!あ、幽香幽香は全く持ってそんな気ないし。」

「・・・そりゃ妖夢はそんなこと思ってないでしょうね。ていうか隠すの下手くそすぎ。良かったわね、妖夢が鈍感で。」

 くすくす笑うレティに対し、私の顔はみるみる紅潮していく。あまりバレないように振る舞っているつもりなのだが、完全レティにはバレてしまっている。というか、レティに隠し事を隠しきれた試しがない。

 反面、妖夢は私が驚くほどに鈍い。何度かフラグとなりそうな言葉を言ってもことごとく破壊していく。まさにフラグ・クラッシャーだ。

「早く探して誘わないと後悔するわよ、きっと。買い出しは私が親父さんに届けておいてあげるわ。だからあなたはさっさと妖夢を探してきなさいな。」

「・・・でも今何処にいるか分からないし・・・」

「だから探しに行くんじゃない。あ、そうそう、妖夢ならさっき賢者の塔の方に行くって言ってたわよ。そういえば何か藍に手伝い事を頼まれたって言っていたわ。」

 賢者の塔と言うのは、リューンで魔法使いが集まり、色々な実験を行っているところだ。藍というのは私のチームにいる策士の九尾。白と青い法衣を纏い、私より濃い金色のボブにピエロのような帽子を被っているが、その中には本当に獣耳が生えている。尻尾は普段隠しているから、他の人は藍が九尾ということは知らない。ただ、本気を出すとき、魔力を解放すると神々しい尻尾が見られる。

「それホント?」

「えぇ。さ、早く行ってきなさい。早くしないと他のところに行っちゃうかもしれないわよ。」

 私はレティに急かされると、荷物を渡し急いで賢者の塔に向かった。ここからはそこまで遠くない。

 ・・・ていうか藍もこんなときまで魔法の実験してるんだ。真面目だなぁ、折角のクリスマスなんだから羽を伸ばせばいいのに。