ふと思った。読んでる人なんて居るのか?
どこをどう走ったかは分からない。ただ気が付くと、私はリューンの近くにある小さな丘に立っていた。
私としては少しの間だけぼーっとしていたつもりだったのだが、どうやら大分時間が立っていたらしい、日が少し沈みかけていた。空はうすら赤く染められ、綺麗なグラデーションが出来上がっている。
この周辺にも少し雪は積もっている。ここまで雪が積もることは珍しい。私は辺りの寒気に少し身を縮めた。
「・・・今頃妖夢は藍と一緒に楽しく過ごしているのかしら。」
自分以外に人は居ない。無意味な問いかけは風によってかき消された。
私は・・・どうしたいんだろう。
妖夢の隣に居たい。たとえこの気持ちに気付いてくれなくても。
必要とされるだけでよかった。時々もどかしい時があっても、今の関係が十分満足だった。
ずっとこのまま・・・一緒に・・・
不意に涙がこみ上げる。どうして私は泣いているんだろう。
妖夢は私があの場に居たことは知らない。 だから黙っていれば、まだこの関係のままでいられる。
なのにどうして。
どうして私は・・・・・・
私は妖夢の隣にいた。
けど、それは『つもり』でしかなかった。
私と妖夢との間には距離が空いていて。
直線上では並んでいても、真隣ではない。
その空いている隙間に藍が居て。
私はそれに気が付かずただ満足して。
そんな馬鹿な私に急に嫌気がさした。
自分の砂糖のように甘い幻想に・・・
「アリス?アリス・・・だよね?」
私の隣に小さな一つの影が並ぶ。そこには黒い猫の耳と尻尾を生やし、草色の東の方
にありそうな帽子をかぶり、色鮮やかな赤いスカートとベストを揺らす橙(ちぇん)が居た。
「ち、橙!?いつの間に・・・!?」
「えへへ、お花を探していたらアリスみたいにゃ人影が見えたから。それよりどうしたの?にゃいてるみたいだけど・・・」
橙に言われて慌てて涙を拭く。橙は心配そうな表情で私を見ていた。
「・・・何でもない。それより橙、花って?」
「これだよっ。」
そう言って橙は白い綺麗な花を私に見せる。間違いない、『スノーホワイト』だ。
「にゃかにゃか見つからにゃくって遅くにゃっちゃったけど、でも幽香に咲いてる場所教えて貰ってちゃんと見つけたんだ!」
「・・・それは・・・誰に?」
「もちろん、藍しゃまにだよっ!」
橙は化け猫で、藍の式神でもある。式神というのは、人間でいうところのコンピュータプログラムのようなもので、誰かに付けることで仕事を任せたり命令できるようにする。
ただ、藍は橙をそんな風には見ていない。大切な仲間として、橙のことを大切に思っている。
・・・橙も知らないのだろうか、藍の意は妖夢に向いていることが。
「・・・ねぇ、橙。」
「ん、にゃあに?」
「・・・藍は妖夢と両思いっていうことは知ってる?」
「?そんにゃことにゃいでしょ。藍しゃまは橙を一番に思ってくれてるよ!」
屈託のない笑顔。そんなことはない?じゃあ私の見たあの光景は何になるの?
「・・・どうしてそんなことが言い切れるの?」
「にゃんでって・・・アリス、今日変だにゃ。にゃにかあった?」
「・・・・・・」
「・・・だんまり、にゃ。でも、これだけは言えるよ。
橙は藍しゃまが好き。好きだから信じられる。信じられるから疑わにゃい。・・・アリスも、その人が好きにゃら信じられると思うにゃ。」
そう言ってもう一度橙は満面の笑顔を浮かべる。彼女の名前と同じ空の色が彼女の明るさを更に際だたせた。
そして、その言葉は私に一つの勇気をくれた。
「・・・本人に直接聞いてきたら?」
「・・・うん、ありがとう橙。」
「どーいたしましてっ。」
私は走ってきた道を逆走し始めた。一つの真偽を確かめるために。
そして・・・自分の想いを伝えるために。
「・・・だっておかしいもん。幽香がアリスのこと捨てるはずにゃいし。でも、何で妖夢と藍しゃまを引き合いに出してきたんだろ・・・」