東方信風談 〜白風 5〜

さてと、今日で一応完結です。が、まだ明日も続きますよ?





オレンジの空に暗いグラデーションがかかってきた頃に、私はリューンの街に到着した。

ただ、ここにくるまでに走ってきたからすでに息が上がっている。何度か深呼吸をして、息が整ってきたら探しに行こう。



冬の奇跡はここで起こった。

「アリス?」

「えっ・・・っ、妖夢!?」

まさか後ろからすぐに現れるとは思っていなかったのでかなり目を丸くした。対し、妖夢はそんなに驚かなくても、と言いたげな顔で首を傾げる。

「驚かせたみたいですみません。アリスを探していたらなかなか見つからなくて・・・それでやっと姿が見えたから声をかけたんです。」

「え、あ、そうだったの。う、ううん、こっちこそ思い切り驚いちゃってごめん・・・」

距離が近い・・・!冷静に居ようとしても顔が赤く染まる。ただ鈍感な妖夢はいつもと同じような様子で映ってるのだろう。嬉しいような嬉しくないような。

「あ、そういえば探していたって?」

「はい。どうしても渡したいものがありまして。」

そう言って妖夢は手に持っていたものを私に渡す。大きさとしてはそこまで大きくない。

ただ、それは白を通り越して純白と表現するくらいに綺麗で。

どんな白い花よりも透き通った白をしていて。

まるで冬に降り積もった白銀の花のようだった。

「すごく綺麗なスノーホワイトでしょう?見つけるのにすごく苦労したんです。」

「え・・・でも何で私に?妖夢は藍のことが好きじゃなかったの?」

「・・・?藍にはもう渡しましたよ?薬の材料のことですよね。」

「え、薬!?」

「え、はい。えぇ・・・と、何か誤解してませんか?」

話を聞くと、妖夢は朝起きると藍に「こんな花を取ってきてほしい」と言われ、探しに
行ったそうだ。藍は薬の調合で抜け出すことができないらしく、代わりとして一番ヒマそうだった妖夢に頼んだらしい。

因みにこの時点で私はまだ寝ていた。もしかしたら妖夢は私が幽香と一緒に何処かへ行ったのだと勘違いをしていたのかもしれない。

「つまり・・・妖夢は藍に思いを寄せている訳ではない、と。」

「はい。大体あの人は橙一筋じゃないですか。私なんかが想いを寄せていたら気持ち悪
がられますよ。」

笑いながら彼女は言う。そんなこと無い、と言おうとした口は不思議と動かなかった。

「それに・・・この花はアリスに受け取ってほしいんです。」

『クリスマスに渡すと恋が実る』と言われているスノーホワイトを・・・私に?

心臓の音が大きくなる。ただ、私の期待は次の一言ですべて幻想と化することになった。

「いつもアリスにはお世話になっていますから。そのお礼です。」

「・・・へ?」

「あ、もしかして噂を知りませんか?『クリスマスに相手に自分の気持ちを伝える』のに最適な花って。」

・・・少し状況を整理する。

私は幽香から花を貰った。

そこで彼女は確かに「恋が実る花」と言った。

嘘を付いているようには見えなかったから、恐らくあれは嘘じゃない。

で、今妖夢は「気持ちを伝える花」と。

つまり、噂の解釈が間違っている。それが妖夢だもの。

つまり結論。

・・・妖夢は私に好きという気持ちではなく、ただ単に日頃の感謝の気持ちを伝えるために花を渡した。

「・・・何だ。期待して損したじゃない。」

「ふぇ?何がですか?」

「あ、ううん、何でもないの。」

慌てて取り繕う。今日もまたフラグをクラッシュされた。恐るべし、フラグクラッシャー・・・!

「あ、それと、よければ二人で今夜街を歩きませんか?折角のクリスマスなんですし。」

「え・・・えぇっ!?」

予想外の展開がきた!やばい、絶対今顔すっごく赤い!

「あ・・・だめですか?」

「そ、そんなことあるわけないじゃないっ!・・・ただ、私でいいの?」

「アリスだからいいんですよ。」

そう言って妖夢は微笑む。その笑顔は私を更に赤くする。

「・・・ありがとう・・・じゃあ、一緒に・・・」

「はい、では折角です。手でもつなぎましょう。」

薄い肌色の手が優しくのばされる。冬だというのにその手はすごく暖かかった。




私は多分、この今の関係が一番好き。

確かに妖夢に気付いてほしいという想いはあるけど、でもやっぱりこのはっきりとしない関係が一番楽しい。

急ぐことはない、ゆっくりと、妖夢と、みんなと時間を過ごせればそれでいい。



でも、またそれに飽きたら、そのときは想いに気が付いてよね・・・?