今回はネタバレ回です。
幻想郷の一角。そこには長いマフラーを地面すれすれに垂らしているレティが一人酒を飲んでいた。
クリスマスに一人で飲んでいるとどうも可愛そうな印象を受けるが、今回に限っては
それはないだろう。
「それにしてもうまくいったわ。ふふっ、流石私ね。」
一人不気味な笑みを浮かべる。それを気にする人など居ない。そもそも宿に今居るのはレティだけである。
そんな聖夜の宿に一人の仲間が帰ってきた。
「こんなところに居たわ。探したわよ。」
「あら、幽香じゃない。こんなところでどうしたのかしら。あ、もしかしてフラれた?」
「馬鹿言わないでよ。大体、今回のことはあんたが仕組んだんでしょう?」
そう言って幽香はレティの隣に座ると、一つの小瓶をテーブルの上に置いた。中身は白い粉末のようなもので、明らか薬品であることは分かる。
「持ってきてくれたのねぇ、藍に作ってもらった『漂白剤』。」
「あくまで藍に頼まれただけよ。ていうかあなたねちっこいのよ。いつまで怒っているのよ、もう一週間が経つわよ。それは悪かったのは私だけど。」
「ふふっ、まぁ何だかんだで今日もここに至るまで一言もしゃべってないし顔も合わせていないものね。
でも別にもう怒っていないわ。」
どうだか、と言いたげな目で幽香はレティを見る。レティはそれに構わず酒を幽香のグラスを用意し、そこに酒を入れた。
「それで、私が何を企んだって?」
「とぼけても無駄よ。今回妖夢とアリスをくっつけようとしたのはあなたでしょ?ま、すべてのタネは藍から聞いたんだけど。」
「そうよね。馬鹿なあなたならきっと最後まで気付かないって思ったもの。」
レティの言葉に殺意を覚えた幽香だが、ここで争っても勝ち目は無いと分かっていたのでぐっと我慢する。レティはそれを面白そうに見ていた。
「ま、わざわざ種明かししなくてもいいと思うんだけれど…生憎、私も独り身だから付き合ってあげるわ。」
「その言い方嬉しくないわね。」
「それ、褒め言葉として受け取っておくわ。」
悪笑みを浮かべてレティはすべてを話し始めた。
「まず動機からかしら?まぁこれはあんたへの腹いせがすべてね。私のマフラーに泥を跳ね飛ばした仕返しね。」
約3日前に遡る。その日は運悪く雨で、レティと幽香、そしれ藍が道具の買出しに出ていた。
そこで幽香がうっかり水溜りを踏み、その跳ね飛んだ泥がレティのマフラーに付いたのがすべての発端だった。
「あんた…私の大切にしてるマフラーに何て事を…っ!」
「だからごめんっていってるじゃない。わざとじゃないもの、しょうがないわ。」
「誠意が無いのよ誠意がっ!こうなったら『アンディレ――」
「待てっ!こんな雨の中で氷付けは周りの人に迷惑よっ!」
勿論藍の仲裁なんて耳に入るわけが無い。
「知らないわっ!皆まとめて氷付けよっ!」
「お、落ち着けっ!そうだっ!何か好きなもの作ってやるから、な!」
「……」
藍の作る魔法道具、および薬は確実かく強力な効果があるわけで。これに乗らない手は無いと思った私は、
「いいわ、それで手を打ってあげようじゃない。幽香のおかげで面白いことができそうだわ。」
「…良かったのかしら…」
「これはいいわよね。だから何か面白そうなものを『賢者の塔』に翌日探しに言ったわけ。」
「そこで都合よく漂白剤、かつ面白い噂の流れているスノーホワイトを使った薬を見つけた、と。」
「少し違うわよ。単にスノーホワイトは私が自由に咲かす事の出来る花ってとこしか見てなかったもの。大体、噂を流したのはその後よ。」
「あーそうね、あなた寒気を操るから簡単に咲くための条件がそろえられる…って、噂を流したのあなただったの!?」
「そうよ、え、藍から聞かなかったの?」
きょとんとして幽香を見つめる。首を振る幽香に、何を聞いてきたと言いたくなったがその言葉を飲み込んだ。
「それは初耳だったわ。ただ藍は「スノーホワイトを咲かせ、それを人間性を利用して手のひらで踊らされていた」としか聞いていないもの。」
「あらそう。まあいいわ、兎に角、その噂を広めたのは私。「クリスマスに『スノーホワイト』を送るのは自分の気持ちを素直に伝えるのに最適」ってね。
ま、あんたならそれを自己解釈していって、最終的に「愛を伝える」から「恋が実る」にまで曲げてくれたから腹筋崩壊するかと思ったわ。せいぜい愛を伝えるで止まるって思ってたもの。」
「…あなたって人は…」
ケラケラ笑うレティに再び殺意が芽生える。ただ、それでもここまで物事を考えられるレティが怖くなった。
「そういえばアリスはこの噂を知らなかったようなのだけれど。」
「そりゃそうよ。この花はもっと北のほうでしか咲かない、故にみんなスノーホワイトを知らない。だから皆『スノーホワイトって…何?』の結論になるのよ。だから一部の都市伝説みたいな噂が完成。あなたなら興味があって真っ先に聞くと思うけど、休みの日はいつも人形を作っているアリスの耳には届かないでしょ。あ、藍は単にそういうのに詳しい人とかとよく合うもの。
で、クリスマスにこの噂が思い出されてよく聞くようになったわけ。」
「…やることえげつないわね。」
「ふふふっ、どうも。
で、あとクリスマス前にやったのは、あんたもご存知の通り、『スノーホワイトの開花条件』を満たしておくの。
藍が薬を作るのに一つ、アリスに渡すように一つ、最後に橙が渡すように1つの計三つ。」
「…ちょっと待って。どうして私の分が無くて橙の分があるのかしら?」
「え、だってあんた自分で咲かすじゃない。」
花の妖怪がわざわざ花を自分で咲かせないで探すわけがない。それを考慮に入れたため、幽香の分は除外していた。
「で、橙は完全おまけ。藍が薬の調合に相手しないだろうから、きっとその合間をぬって探しに行くと読んだわけ。」
「…にしても、なかなか見つけれなかったわね。」
「そりゃそうよ。猫だもの、寒いところに近付くわけないわ。」
因みにここの橙の役割は、探しても見つからず、遅くなって半ば諦めかけたときにアリスの発見、そして慰めの予定だった。
「それが意外な助言が入ったけれどもね。ま、もしずれて橙がアリスと会わなかったとしても私が会いに行けばいいだけの話だし、ダメージは少ないわね。」
クリスマス前日のことをあらかたしゃべると、レティは残りの酒を一気に飲み、またグラスに再度注ぐ。時間が経ってもなかなか温度は上がらない。長話のときは逆にありがたい。
「で、これから当日の行い。とりあえず、誰よりも早く起きてアリスに眠り薬を投下。これで昼までぐっすりよ。」
ここで明確になるのが起きる順番。幽香は張り切って早く起きるだろうから、私を除いて一番早く起きる。次に藍、妖夢、橙と起き、藍が誰かにスノーホワイトの捜査を依頼。
いつも朝起きるのが遅い幽香がいきなり早く起きていると、必然的に何か用事があると思う。また、橙は寒いところが嫌いだから見つからない。私はそのころ居なかったから、残りはこの一人、妖夢が捜査に任命される。
流石にこれはしゃべると気持ち悪がられるだろうから黙っておく。
「で、最後。アリスにわざと妖夢が藍にスノーホワイトを渡す光景を見せる。」
「その過程も考慮に入れていたの?」
「もちろんよ。だって一回落ち込んで、それから誤解だって分かるシチュってすごく美
味しいじゃない。」
…自分の好みのシチュをも挿入できるレティが心の底から怖いと思った瞬間だった。
「まぁこれは先に賢者の塔で妖夢と入り口で会う。それで私が藍を呼んでくるって言って塔の中に入る。
ここで分岐。アリスがあそこの店に行く事ははっきりしていたから、問題はそのときそこに、あるいは周辺に居たか。今回は居たから居たルートね。
ま、単にアリスに妖夢の居場所を伝えて塔に向かわせて、私飛んで帰って藍を入り口に居る妖夢に合わせる。それで花を渡すところとぶつからせる。時間差の利用でね。」
そして藍は恐らくここで私の行為がばれたのだろう。アリスが来たタイミングがあまりにも良すぎたから。
花を渡す瞬間を見ていないと『両想い』という結論には至らない。貰った後だったら、ただ単に持っているだけという解釈もできる。
「で、もし居なかったら?」
「口伝え。大体「直接会って聞いて来たら」って言ったら信じるからね、人って。」
そこまでしゃべってまたクスクスと笑う。
「さ、私のやったことはこれで全部よ。」
「…とりうあえず、ここまで裏で暗躍しているとは思わなかったわ。」
「ありがと。ま、これで報復としてスッキリしたし、今夜は私と過ごしましょうか。」
「…そう、ね。折角のクリスマスだものね。独りよりはあんたと居るほうがいいわ。」
とりあえずこれだけは分かった。
レティは敵に回すと本当に恐ろしい、と。