文化祭の原稿(小説)1

※うっかリスちゃん暴走劇
※実は約一年前の話


魔法使いの中に『人形使い』というものがある。

人形を魔法で操る技術はかなりの器用さと注意力を必要とし、魔法の中でも難しい分類の中に入る(多分。私は魔法に詳しくないから自信ないけど)。

・・・じゃあだったら何故、あのうっかりさんは人形使いになったのか。

そもそもどうやってなれたのか。

だれかこの惨事を目の当たりにした私に教えて下さい。




    ーナナイロ人形劇ー
〜うっかり人形使いツンデレ妖怪〜




桜の木にちらほら蕾が付いてきた。気候も最近ようやく春の暖かさが見え始め、人間の
里にもだいぶ活気があふれる。滅多に人里に降りない私、風見幽香でもそのにぎわいは知っていた。だって太陽の花畑にまで聞こえるし。

私は花畑から動くことは少ない。いや、少なかったといった方が正しい。朝は花の様子を見て、昼は花の様子を見て、夜は花の様子を見る。それが私の日課だった。

が、それは最近その日課をある自称魔法使いによって崩された。

「・・・香、幽香・・・」

「え、あぁ、ごめんなさい、何かしら?」

「何かしらじゃないわよっ、折角紅茶入れてきたのに呼んでも反応しないんだから。」

そう、この金色の髪と青いスカートを揺らし綺麗な透き通った青い目を輝かせる人形みたいな子、アリス・マーガトロイドが犯人。

私はアリスにある頼まれ事をされて今魔法の森にある洋館に居る。

個人的には魔法の森には花が咲かないからあまり長居はしたいとは思わない。でも、このかわいらしい魔法使いの頼みを断ることはできなかったの。や、断ろうと思えば断れたわよ、うんっ。

ただ、アリスには一つ、大きな問題があった。

私は紅茶に手を伸ばし口元に持ってくる。

「・・・変なにおいはしないわね。」

「当たり前よっ!ちゃんとストレートに砂糖一さじいれて来たんだから。」

「・・・・・・」

うん、ぱっと見たところ問題は感じない。私は腹をくくって何となく怪しい紅茶を少しだけ飲んだ。

まぁ私の予感は見事的中したわけで。

「あっま!砂糖一さじあっまっ!!何これラブコメでお互いに『あ〜ん想い伝えたいけどフラれるのこわいわきゃぴ☆』っていう幻想を抱いてるバカみたいに甘いじゃないのっ!!」

「・・・それ、甘いの?」

絶対これスプーン一さじじゃない。昔『砂糖一杯』って言って砂糖が飽和するまでいっぱいに入れてきたことはあったけど・・・今回もそのときの甘さに匹敵する。こんなの毎回飲んでたら糖尿病になるわ。

ていうかよく見たらちょっと冷めてきたせいか砂糖の再結晶が底に沈んでるし。

「・・・ちょっと流しで洗い物見てきなさい。」

そう、問題はこれ。アリス本人が本っっっ当にそそっかしい。

しかもただそそっかしいだけではなく、

「・・・あっ、幽香ゴメンッ!」

「はい、今日のうっかりは?」

「スプーンじゃなくてお玉だった!」

その言葉を聞いて思わず前のテーブルに頭を打ちそうになった。

アリスのうっかりはただのうっかりじゃない。王道のうっかりの一歩斜め上をいつもいくのだ(勿論王道もやらかす)。

例えば紅茶の代表的な間違いといえば砂糖と塩を間違えることだろう。しかしアリスはその両方を入れてくるのだ。

・・・あーそういえば『料理のさしすせそ』を全部入れてきたこともあったっけ。あれは壊滅的な不味さを誇っていた。

「何でスプーンとお玉を間違えるのよっ!全然形も大きさも違うじゃないっ!」

「・・・用途は一緒。」

「すくうって所だけじゃないの。それなら包丁とカッターを間違えるってことよ?流石に
「やったことある。」

「あるのっ!?」

もうだめだ早くなんとかしないと。

まぁするためにこの洋館に長居する羽目になったのだけれどもね。


  ・
  ・

ちょうど2日前だったかしら。

幽香っ!お願いっ、私を調教してっ!」

「っはぁああっ!?」

いつもなら洋館に引きこもって自分の指に針をさしている(勿論うっかり)アリスが、久々に太陽の花畑に来て私を見るなりそう叫んだ。

調教というのはうっかり発言よ。絶対、あれはただの頼みごと、うん、だからうっかり発言、本気じゃない。

「ちょっと、全く意図が読めないのだけれどっ・・・///」

「あ、ごめんっ。えっとね、近々人間の里で人形劇をやることになったのよ。」

このうっかリス(うっかりなアリスの略)が人形劇を・・・

「・・・ヘェー、ヨカッタジャナイノ。」

「何でそんなカタコトになるのっ!?」

「だって正直言わせてもらうけど・・・幻想郷で『うっかリス』って言われてるほどの貴方が何のミスもなしにやりきれると思う?」

「思わないっ!」

即答しやがったこの子っ!だったら引き受けるなっ!!

「だから幽香、お願い、手伝ってっ!」

「・・・私が何を手伝えと・・・」

「えーっと、私のうっかりを少しでもマシにする調教と、本番失敗しないようにするための調教と、台本噛まないようにするための調教とー」

「ちょっと待て、多いわっ!」

そして貴方は絶対『調教』の意味が分かってない。一回家に帰って国語辞典引いてらっしゃい。

「うー・・・だって・・・」

「そもそも貴方がうっかりすぎるのよ。今日ここまで来るのに何回こけたのかしら?」

「7回落ちた。」

「そう、7かー・・・落ちたぁっ!?」

「だって空飛んで来たもん。」

『来たもん』、じゃなくてぇっ!何で落ちるのよ、貴方種族『魔法使い』じゃないっ!

・・・そういえばアリスの魔法使っている所って見たことがない。大体予想はつくけど。

「・・・幽香、ダメ?」

「・・・う・・・」

こういう頼みごとの時何で貴方はそんなに可愛く頼んでくるの。何処で習ったそれは。

まぁその濁りのない綺麗な蒼い目で訴えられたら私は敵わないわけで。

「・・・分かったわよ、やってあげてもいいわよっ。」

「ホントッ!ありがとうっ!!」

あーもーそんなにうれしそうにしちゃってさ、だから私はそんな無邪気な貴方に敵わな
いのよ。

「で、近々っていつ?」

「1週間後。」

・・・時間ないじゃないのっ!!