文化祭の原稿(小説)2

昨日の続きです。



基本的に朝は家事や買い出し、昼は道具作りやうっかりを少しでもマシにする訓練(?ちなみに今のところ効果ナシ)や道具作り、夜は脚本の読み込みや人形を動かす練習(まだ道具ができてないからやってないけど)。

このスケジュールの合間を見て私は時々花畑の様子を見に帰る。すぐ戻ってくるけど、別にアリスが心配だとか決してそういう訳じゃないからっ。

今は3日目の夜。半月より月の見える部分が多い。満月になるころがちょうど劇を披露する頃だ。昼過ぎにやるから月は見えないけれど。

因みに今回は『シンデレラ』という話をやる。香りん堂で何か童話を探したらそれを勧められたらしい。外の世界の話だ何だとか。

大体の話は頭に入っている。ただ、アリスがよく言い間違えて大変な内容になってるけれど。

「昔、あるところにおじいさんとおばあさんがー」

「待て待て待て!貴方は今から日●昔話でもする気!?」

最初っから間違えるからなかなか話が最後までいかない。多分1日に1、2個は減っているのだろうけど、元が多すぎて全然減っている気がしない。

「そしてシンデレラはおじいさんと結婚しました、めでたしめでたし。」

「終わったぁあああっ!!おじいさんとおばあさんが出てきていきなりシンデレラと結婚して終わったぁあああっ!!ていうかシンデレラにおじいさんおばあさん出てこねぇえええっ!!」

「・・・あ、ホントだ、これ最後のページで王子様をおじいさん、シンデレラをおばあさんって読んでた。」

どうしてそうなる。最早読み間違いのレベルじゃない。うっかりじゃない。てかアリス、絶対それだけじゃない、他にも色々問題ある。

「それにしてもよく幽香シンデレラにおじいさんとおばあさんが出てこないって覚えてたわね。」

「そんなに台本間違って正しいのを横で指摘してたら覚えるわよ。」

アリスが派手に読み間違えることは予想済みで、昼の間にシンデレラの大まかな流れを紙に写していた。最近紙の供給が増えて手に入りやすい。書くものはアリスの家には沢山あるしね。

「読み方は普通に上手いのに・・・」

「うー・・・」

「まぁうっかりなものはしょうがないわ。もう一度、ちゃんと初めからゆっくり読んでみて?また聞いておいてあげるから。」

「・・・うん、ありがとう。」

まぁ大変な内容になったのは言うまでもない。

「魔女は川からどんぶらこと流れてきたかぼちゃをー」

「かぼちゃ太郎にする気かっ!」

「王子様はシンデレラに決闘を申し込みー」

「舞踏会で弾幕合戦する気かっ!!」

「死んだらカラスの靴を渡っていきましー」

「シンデレラはガラスの靴を忘れていきましたねっ!!!」

もうなんか疲れてきた。


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4日目。今日は少し曇っていて少し涼しい。桜ももうそろそろ咲きそうだ。

そんな過ごしやすい昼下がり。

「・・・やっと・・・やっと道具ができたぁっ!」

魔法の森に一人の嬉しそうな女の子の声が盛大に響きわたった。

魔法の森に住んでいる人はほとんど居ない・・・というか居たとしても魔法使いぐらいだ。そんな人たちはいきなりの奇声にさぞ驚いたことだろう。

それでも私たちは嬉しかった。

「やっとできたのね・・・長かったわ・・・」

今日、やっと劇に使う道具類がすべて仕上がった。たかがそれぐらいと思うだろうけど本当にここまでくるのに時間がかかった。

「思い返せば人形を作って爆発したり・・・」

「普通はしないのだけれどもね。」

「うっかり自分の服と人形縫いつけたり・・・」

「生首だったからとてもシュールだったわよ。しかも王子様だし。王子様台無しだったわね。」

「間違えて幽香に人形投げつけて爆発させたり・・・」

「うっかリターンイナニメトネスは本気痛かったわよ。」

思い出せばまだまだありそうだがとりあえず今はこんなところで止めておこう。

「あとは人形を動かす練習なんだけど・・・それは大丈夫よね?」

(ビクッ)

・・・ビクッ?

「・・・アリス?」

「ふぇ、え、あーうーその・・・えぇと・・・」

何故だろう、嫌な予感しかしない。

「ゆ、幽香は私があんまり人形使った魔法使っているところ見たことがない・・・よ
ね?」

「えぇ。」

いつも疑問に思っていた。何時になったらそこいらにあるジャンハーイやホラーイ、ローンドーン、オラーンダーを使うのか。

「実はね・・・使えないの。」

「・・・は?」

「うん、その・・・うっかりよく操るための糸を絡めたり・・・人形を爆発させたり・・・」

つまり、人形を操れないと。

「それ人形使いって言わないわよっ!?ただの糸絡めマスターよっ!?人形使いから人形取ったらただの人間てか場合によったらそれ以下っ!!」

「や、一個だけまだやれる技があるわっ。」

「何?」

「リターンイナニメトネス。」

「帰れっ!!」

人形操れなくても作ることができたら、あるいは元があって投げることができたら立派なリターンイナニメトネスだわっ!

「いや、でもこれ難しいのよ?」

「へぇ?何処がかしら?」

「爆発させないで作るのが。」

「・・・・・・」

無言でいつも持ち歩いていた桜色の傘をゆっくり手に持った。

「や、ご、ごめんなさいごめんなさいっ!今から頑張りますからマスパだけは勘弁をっ!」

そこまで怯えなくても。仕方ないから何も打たないで元々あった場所に置いた。

「まぁ今はいいわ。とりあえず一度私の前で操ってもらえる?」

私の言葉に対しアリスは無言でコクコク頷く。何というか小動物の臭いがする。

「じ、じゃあいくわよっ!」

「えぇ、どうぞ。」

「・・・・・・絡まった・・・」

・・・開始三秒、人形はピクリと動いただけだった。