7日目、つまり本番の朝。見事なまでの晴天で少し気温も高い。私たちは朝に少しだけ練習をしてすぐに片づけ、必要なものの準備をしていた。
こればかりはアリスに任せておくと怖いから私も手伝う。間違って人形と・・・そうね、ティッシュを丸めてつっこんでたり、瓢箪あたりをつっこむかしらね。あぁ怖い。
「・・・・・・」
ただ、ここにきて一つ疑問が頭から離れなくなっている。何時からと聞かれたら分からないと答えるしかないけど、それでも何時からか。
「・・・幽香?」
「へ、あぁ、ごめんなさい、何かしら?」
「いや、ぼーっとしてどうしたんだろって思って。」
「・・・何でもないわ。」
ここで余計な心配はさせたくない。だから私はあえてそれを隠した。
「そう?いや、幽香ってよく物事を考え込むよなぁって。」
・・・なんかそれ、アリスが全く考えてないような気がするんだけど。何、それはうっかりの楽観主義者だから?
「私で良かったら聞くよ?」
「・・・・・・」
仕方ない、その好意すなおに受け止めるわよ。
「・・・何で私だったの?」
「?何が?」
「いや、だから・・・その、人形劇の手伝い。霊夢や魔理沙の方が仲いいでしょうに。」
霊夢と魔理沙、アリスは人間の里でも有名な仲良し3人組。だから最終的にはあの3人で人形劇をするんだって思っていた。
でも、現に人形劇をするのはアリスと私だけ。今回2人は一切関わっていない。
それがふと疑問になった。
「・・・だって幽香は私がうっかりをやらかしても笑わないでしょ?」
「・・・笑える冗談がないもの。」
普通砂糖の飽和水溶液を飲まされて笑える人いるかしら。流石に『箸が転がってもおもしろい時期(某中二病まっさかりさん)』の人でも無理な話よ。
「いや、そうじゃなくて・・・その、飲む前から『またアリスがうっかりをやらかした』とかって笑わないでしょ?」
「そりゃまだうっかりをやらかしたかなんて分からないもの。」
「だから・・・その・・・」
でも魔理沙とかならからかって言いそうね、そのセリフ。霊夢も可。
「・・・絶対、魔理沙なら最初から無理って言ったに違いないもん。お前には無理とかって。」
「まぁ・・・正論よね。」
「で、でも・・・幽香は最後までつき合ってくれてるじゃないっ。」
「えぇ、だってそれが本人の願いなら私はー・・・」
ここでアリスの言いたいことがやっと分かった。アリスが上手く言えないのも分かる気
がする。
「・・・アリス、言いたいことは分かったわ。・・・ありがと。」
最後の一言は必然的に声が小さくなった。アリスは不思議そうに首を傾げているけど・・・
「さ、用意を終わらせて里に行くわよ。」
「・・・えぇ!」
私たちは用意をすませると魔法の森にある小さな洋館を後にした。
アリスが言いたかったこと、私はそれをそっと胸の奥に大切にしまった。
・・・アリス、私はもう一つ貴方につき合う理由があるのよ。貴方は知らないでしょうけど。勿論明かす気も無い。
でも、何時か気付いてくれる日が来たら、そのときはきっと。
・
・
劇はいつも以上に上手くいった。
私はそのときの様子は私たちと一部の人の中にだけそっと残すことにする。だからあえ
て詳しい様子は私からは言わない。
ただ一つ言えることは大盛況に終わったということ。
始めの方は私を恐れてあまり人が近寄ってこなかったけれど、ナレーションをするだけということが分かると普通に私たちの劇に見入っていた。
「幽香っ!ありがとうっ!」
片づけを終え、人の数がだいぶ減った頃、アリスはいきなり私に満面の笑みでそう言った。
「別に私はお礼を言われるほどのことはしてないわよ。」
「ううんっ、今日の劇は幽香が居なかったら成功しなかったわよっ!」
きっとアリスが犬だったら、今頃あまりのうれしさに尻尾を振りまくって自分の尻尾をうっかりちぎってるだろう。そのくらい嬉しそうにしていた。
私も当然うれしい。でも、同時にどこか寂しさを覚えていた。
これからはまた太陽の花畑での生活が始まる。
これからはまたいつも通りの生活が始まる。
それだけなのに。
「・・・じゃあ私はここから帰るわね。」
「帰るって・・・あ、そっか・・・忘れてた、幽香もともとは花畑に住んでるものね。」
さっきまでの笑顔にもどこか悲しそうな色を見せる。
と、そんなときだった。
「いやぁーアリスちゃん、今日のリハーサル本当に良かったよ〜」
口調からしてアリスに人形劇を頼んだ人のようだ。結構年寄りのおじいさんで親切そ
う。
・・・ていうかちょっと待て、
「・・・リハーサル?」
「あ、あぁ。私は一ヶ月後と言ったから、これはリハーサルなのだろう?」
・・・・・・
つまり、アリスが一ヶ月と一週間を勘違いしていたと。
「・・・ゆ、幽ー・・・」
「皆まで言わないでお願いだから。」
一つ疲れきったため息をついてからはっきり言った。
「いいわよ、もう少しつき合ってあげるわ。まだそのうっかり怖くて見てられないも
の。」
目の前の金髪の少女は再び満面の笑みをうかべた。
やれやれ、まだしばらく甘ったるい紅茶を飲む日々が続きそうね。
この話出しちゃって良かったのか。
ていうかカオス。色々カオス。