東方小説 『偽心暗気』 中

「屠自古、変わったことはありませんか?」

私は神子様に呼ばれて最近の出来事について報告をさせられていた。

幻想郷は異変が起きない限り平和なので、滅多に変わったことの報告ができないが。

(…そういえば変わったことといえば)

いきなり道教を信仰しろと言ってきた奴が居たな。けれど特に害は無いだろうし、むしろ私個人としての変わったことだ、神子様にとってはどうでもいいだろう。

「いえ、特には。」

「そうですか。」

相変わらずですねぇ、と、のんきにあくびをする。横で布都がぴょこぴょこはねてなにやらうれしそうにしている。

「屠自古、そんなこと言っておきながら本当は女が出来なのではないのか?おっ?おっ?」

「どうした、その首をはねてほしいのか?」

こいつのテンションにはちょくちょく腹が立つ。この今にも飼い主を見て突っかかっていきそうな飼い犬のようなテンションに。

「知っておるぞ、今日かわいらしい女子(おなご)に声をかけられていたではないかっ。」

こいつ、見ていたのか。それだけで女ができたと勘違いするとは…かなりおめでたいな。今に始まったことではないが。

「あれはたまたま声を掛けられただけだ。私とその人とはもっぱらの初対面。何故そのような奴とできなければならない。」

「へぇ…でも屠自古に声を掛けてくる女子も珍しいですねぇ。」

「神子様まで…」

こいつらは本当にのんきだ。でもそう言いながらも神子様の本心までは読めない。布都は完全脳内お花畑、フロワロ浸食済みだからよしなのだが。

「あはは、そんなに私を警戒しなくてもいいではありませんか。単に珍しいな、と、素直な感想ですよ。」

「警戒などしていませんよ。ただ…」

あなたの考えることが私には絶対に読めない、それだけのことだ。

多分、だが。私に声を掛けてくる人などそういない。きっとそいつには何か裏がある、そう少なくとも考えてる。それだけは私にも分かる。

「…少し、部屋で休んできます。」

一礼をし、神子様の前から立ち去る。

考えたって無駄、だ。私はあまり人の心の奥を考えるのが得意ではない。考えて分からないことは考えない。これが私の中でのルールであった。

…それにしても、青娥、だったか。あいつ、布都にはめられたことが悔しくないかとか言っていたな。

確かにあんなひょうひょうとした奴にはめられたと考えたら自分が空しくなるのは事実。どうしてあんな奴にはめられたんだか。

(…今更、だな)

けれども、不思議と昔のような憎しみは抱いていない。

ここでの生活が私を変えたのか、

それともさあれば。

「やぁ。」

「 」

…なんか部屋に居た。思わず豆鉄砲を喰らった顔になった。

「ちょっとぉ、さっきはよくもあんなこと言ってくれたわね。」

「どうした、また道教の布教か。はいはいご苦労様布教できなくて懐状況が不況なのか
それは残念だな。」

「さっむ!ていうか懐状況なんて関係ないしっ!」

あぁもう鬱陶しい。私はこういううるさい輩が嫌いなんだ。

「帰れ、言ったはずだ、私は道教を信仰しない。」

「帰らない、言ったはずよ、私は道教を信仰させる。」

「私はしない。」

「意地でもさせてやる。」

「しないっ!」

「させるっ!」

ぜぇぜぇと、二人共息があがる。全くどうしてこう張り合わなければならないんだ。

「どうしたのじゃ屠自古!」

「っ!ちっ、邪魔が入った…!」

それじゃあまたねっと手を振って青娥は壁の中へと消えていった。それと同時にまた騒がしいのが部屋へ入ってくる。

「…おっ、誰か居るのかと思うたのじゃが…。」

「…何でもない、それより疲れた、寝る。」

「むぅ…最近屠自古はいっつもそうじゃ。童を全く相手にしてくれぬ。」

ぶつくさ言いながら、布都はこの場を去ってくれた。良かった、まだあっさり帰ってくれて。

というか何だ今日は。何でこんなに疲れなければならないんだ全く。

あぁ、そういえば。あいつに一言言いそびれたな。

もう来んな、って。







フロワロはナナドラネタ。知ってる人いたらびっくり。