私は、寿命を迎え、消える寸前に一つの言葉が脳裏をよぎった。
それは、穣子の言葉。
『…黙ってルナサから居なくなること、というか天命を受け入れること。…それがどういうことかを知ってかの判断か、よぉく考えてね。せめて、一人が後悔しないように。』
それは、ルナサにまた会えるなんて、甘い幻想を持たせたまま居なくなること。
私は、本当にこの別れ方をしてよかったのだろうか、今となってそう思案するようになっていた。
一人が後悔しないように、ルナサが後悔しないように。…本当にルナサはこれで後悔しないのだろうか。
もうあそこには戻れない、一人、誰にも知れずに静かに消えていく。
それが、私の望んだこと。
…そんな私を、彼女は許すだろうか。
…きっと、許さないだろうな、知ってしまったら。
裏切られた、最悪そう思うかも知れない。
ここに来て、私は穣子の本当の意味に気がついた。
裏切られた、そう思われてしまったら。
急に天命を受け入れることが怖くなった。
黙って彼女の前から消えること。
それは、彼女に叶わない期待を持たせることよりももっと罪深い。
彼女を、裏切ること。
信じてくれていた人を裏切ること。
本当に信頼しているのなら、本当のことを告げても乗り越えてくれる。そう信じて。
忘れられるのが怖い、それは裏を返せば、彼女は忘れてしまうかも知れないという不安。
「…私…は…」
…ルナサを…信用することが出来なかった…?
そんなことは無い、と、言い聞かせても無駄だった。
もう、会いたくても会えない距離に居る。
戻ったところで遅い。
本当の言葉を伝えられない。
一人が後悔しないように。
それは、ルナサがじゃなくて。
私が後悔しないように。
…私はどうして気がつかなかっのでしょうか。
別れる恐怖によって、自分自身が彼女を信頼出来なくなっていたということに。
一言謝りたかった。
一言伝えたかった。
けれども、もうその悲願は届かない。
…その伝わらない思いが悔しくて。
「…ルナサ…ルナサぁぁあああぁあああっ!!」
私は最期にめいいっぱい泣いた…。
「…ルナサ…居る…?」
ルナサの部屋に入ったのはこいしだった。
いきなりさとりから告げられた彼女の死を信じられないのはこいしもだった。
屠自古はどうして気付いてやれなかったかと自分を非難していた。けれども、気付くことが出来るスキなんて無かった。
彼女が、いつも通りに振る舞っていたから。
「…こいし…?」
「うん…あの…」
こいしは真っ先にルナサを心配した。
それは、以前こいしはさとりに人々からのいじめから守ってくれたことがあった。それなのに、こいしは何度も姉に酷い言葉を浴びせた。
相手が自分を思っている心ほど、伝わりにくいものはない。
幼いながらもそうはっきりと理解していたからこそ、彼女に裏切られたと、衣玖を責めることにならないかと心配になったのだ。
「…衣玖さんは…本当に、ルナサのことを…」
「…分かってるよ。…私、黙って行っちゃったことを責めるつもりは無い…」
ルナサの口にした言葉は、こいしの予想とは大きく反していた。
「…どうして私…あそこで大丈夫だよって…一言言えなかったのかな…本当に忘れられることに怯えてて…別れるのが悲しかったのは向こうもなのに…」
「……」
「…ねぇ、こんな私を…こんな弱い私を…こいしは笑う?」
乾いた笑みに、こいしは無言で首を横に振る。
ルナサの側に近づき、隣に座る。衣玖さんじゃないけど、と言ってその震える手をそっと握った。
「…強いよ、ルナサは。…相手の思いやる気持ちが分かるのは、本当に相手のことが好きだから。…相手を非難しない…逃避しないその姿勢、それが出来るだけで十分強いよ。」
そう言って、彼女の手を一層強く握る。
「…伝えたい…せめて、私は大丈夫だって…だから…何も心配しなくっていいよ…って…」
けれどもそれは、もう出来ない。
もう、伝わらない距離にあるから…
ねぇ何回泣いたらいいの?湿っぽいよ?
※この下ネタバレ故、文字を白くしています(はっきりと描写してないけど、重要な隠し事)。金曜日の記事を読み終わってから読んでいただけると嬉しいです。
というかいきなり読んじゃうと絶対後面白くないです。
・ここで衣玖さんがやった穣子の言葉の解釈。もちろん穣子ちゃんの計算どおり。早苗の言ってた『解釈を外す』、それはルナサが後悔しないようにとか、そっちの方。今日のは正解の解釈。
・こいしちゃんがお姉ちゃんに酷い言葉を浴びせただとかどうとか。さとりとこいしの過去話ですね。まだ書いてないけどよくある話だから別にいいかと。
・ここで思ったんだけど。これ衣玖ルナ祭りというよりかはルナサ総受け世界平和じゃないかな?