「穣子、ようやく新薬が出来たって言っていたな。」
同じ趣味を持つ藍は、穣子の作る薬にとても興味があった。
今後、何かに生かすためと考えて薬を作る藍に対し、穣子は大体思いつきで薬を作る。それでも大体は藍の薬の応用ばかりだった。
今回は、完全に一から自分で始めた。かなり長い時間かかったが、ようやく出来たらしい。
「うん。ちゃんと実験も成功したから大丈夫。効果は発揮されるよ。」
「ふぅん…で、何を作ったんだ?」
このとき、藍は大したものではないと思っていた。それは今まで、すべてのベースが藍の薬にあったことによる見下しだったのだろう。
「時間の干渉が無くなる薬。」
「…!?」
「あっと、勘違いしないでね。あくまで時の流れが『一定』になるだけだから。資料も無いはずだよ、作ったって全く生かすことが出来ないんだからさ。」
それでも、あのメイドの時操る能力は一切無効かされる…かと思いきや、実はそうでもない。
例えば、相手の時の流れを遅くする。これには全く影響が無いのだが、すべての時の流れを早くされた場合、自分だけはその影響が無いため、一人だけ遅くなるという使いづらいアイテムだ。
ちなみに実験したというのは、そのメイドの力を使ったもの。時の流れを止めても一切自分の時は止まらなかったらしい。
「飲んで効果が出るというより、この物質を持っている人に効果があるっていった方がいいね。持ってるだけで私の時は止まらなかったし。」
そんな面倒なものをいったいどうやって作ったのか。聞いても答えてはくれないだろう。
どうしてそのようなものを作ったか、それも思いつきか。そう尋ねようとしたが、テーブルの上に置かれているものを見て、すべてを把握した。
「…お前って意外とお人好しなんだな。」
「え?違うよ?ただ私は好奇心で動いてるだけだよ。だから、私にとってあの二人は実験対象。生憎、私は他人を可哀想って思う気持ちはあんまり無いからね。」
けらけら笑いながら、穣子はそれに薬をこぼした。その様子をじっと見つめる藍。穣子は全く気にしなかった。
「…作り方、だけどさ。」
「…ん?それは言いたくないんだろ?」
「…作り方が分かってるのならね。残念ながら、これは偶然の産物。やれやれ、これも世の理か。参っちゃうね、神様には。」
「…神様はお前だろ。」
「まぁね。さてと、向こうは首尾よくやってくれたかな。」
「…雨、あがったみたい。さっきまでのが嘘みたいだよ。」
夕方くらいに降り出した雨だったが、出かける時間になると綺麗にやんでいた。
それどころか昨日と同じ星空が見えている。ちょっとしたことだけど、まるで一つの奇跡みたいだなって思わず思った。
「それじゃ、行ってくるね。」
「あぁ、行ってこい。」
何となく、屠自古は昨日ルナサがどうしていたかが分かった。
それを感じ取ってしまうと、もう止める理由なんて思いつかない。
「ねぇ、屠自古。」
「ん、どうした娘々。」
「…ううん、何でもない。たださ、なんかいいことありそうじゃない?」
「いいこと?お前が私の側に居る、それだけで私にとっていいことだが?」
「…もう、上手なんだから。」
くすりと笑って、晴れ渡った夜空を見上げた。
私は湖について、すぐに一つの陰を発見した。
誰だろうと思ってそっと近づく。
初めは信じられなかった。
けれども、嘘じゃ無かった。
「困りました…羽衣が無いと帰れないのですよね…確かに昨日、この広い湖の畔に落としたのですが…おや、こんなところに人ですか?珍しいーー」
彼女が振り向くと、そこに私は居た。
向こうも信じられない様子だった。
私だって信じられなかった。
けれど、確かに、
そこに、私たちは居た。
「あの…」
「え…えっと…」
うまく言葉が出ない。
お互いに会いたいって思っていたのに。
いざ会うと、なんて言っていいか分からない。
気まずい空気の中、一匹の蛍が向かい合う私たちの間を通り抜けた。
「…あ…そういえば、私が初めて蛍を見たのってここでしたね。」
「…うん。今でも覚えてるよ、あのときの表情、とても子供っぽくってかわいかった。」
「え…わ、私そんな表情してましたかっ?」
「うん、してたよ。」
くすりと笑う。相手も思わずつられて笑った。
「…私、また初めて、ここで、あなたと蛍を見ました。」
「そっか…」
上手く言葉が繋げない。泣くのをこらえるので精一杯で。
「…ごめん、やっと会えたのにね…私、なんて言っていいのか分からないの…」
ついにこらえられなくなって涙があふれ出す。そんな私をそっと抱いてくれて、
「…約束、覚えていますか?」
「…うん、覚えてる。覚えてるけど…ごめんね…破っちゃって…」
「…破っていませんよ。先ほど、笑ってくれたじゃないですか。」
「…あんなの…」
「…十分ですよ。…やっと…また、あなたに会えました…」
もう離れませんよ、そう一言言って、
彼女は私を、強く抱きしめた。
ーまた会えたら、一番に笑顔を見せてください。
そう、一度別れる前に交わした約束。
もう叶わない、そう思っていた想い。
それが巡り巡って、また、戻ってきた。
あなたとまた出会えたことが、
こうしてあなたと出会えたことが、
なによりも、私の
私たちの幸せ
死ネタのばかやろう。
ていうか全部ルナサ泣いたわ。フルコンボだどん!!
今回は何もここに書くことが無いんだよね。
それから。もし良かったら今日のもう一つの記事もどうぞ。