ほんのり小話22-4

今回最終回です。






「…もう二週間ですか…早いものですね…」

笑いの絶えなかった四人から一人が消えたあの日以来、三人が笑うことはほとんど無くなっていた。

部屋に居る寅丸とパルスィはぼんやりと外を見つめ、穣子は顔を見せなくなった。

「…私達がくよくよしていても、早苗は喜ばないわ。…それに、彼女は人間だから…どうしても、私達よりは短命。いずれ来る定めだったのよ。それがちょっと…早かっただけで。」

そんなことは分かっていた。けれど、彼女たちの心の中に、早苗の存在は大きく刻まれていた。

そういうパルスィも、ふっきれてそう言っているのではない。むしろ自分自身に言い聞かせるように、呟くそうに言った。

「…私は…穣子のように非道にはなれません…だって…親友が死んだのですよ?それでも…涙一粒見せない…それどころか、平気そうな顔をしている…挙句に、ここには顔を出さない…どうして彼女は、ここまで非道になることが…!」

強く拳が握られる。震えるその手を、ただパルスィは見つめていた。

「…悲しんでいないとは限らないわよ。悲しみを上手く表現出来ないだけかもしれないし、私達に隠しているだけかもしれない。そういう子でしょ、秋は。」

「……」

「…もしかしたら、星のように穣子も考えているのかもしれない。けれど、それがすべてじゃ無いわ。
私達は、人の心に介入することは出来ない。だから、本人が本当はどう思っていたかなんて、誰も代弁することは出来ないわ。」

「…それは、あの二人にも言えることですよね。あの時点で吸血鬼が本当に悲しくて外に出たとは限らないでしょう?」

その通りだった。あくまで早苗の憶測でしかない行動。

寅丸は、真っ先に早苗の元に行こうとした。しかし、穣子に止められ、レミリアの説得へ共に行くように言われた。

あそこで戦闘に加入するのは、早苗が望んだことじゃない、と。

「…私には、あの穣子の判断が分かりませんよ…」

「…じゃあ…ちょっと話を聞きに行く?」

そう言って、外の方に視線を向ける。少し外れたところに作った早苗の墓の前に、一つの人影を見つけた。

目の悪いパルスィにとっては、それが誰かおろか、そこに誰かいるかが分かるかどうか程度。むしろ、気配で感じたのだろう。

「!…えぇ。」

寅丸には、それがすぐに誰か分かった。





「……」

泣くことも無く、笑うことも無く、

ただ穣子はそこに居た。

何をしゃべるわけではなく、ただ、ぼうっと。

「…ん。」

自分の後ろにいくつかの気配を感じる。

振り返ると、すぐ傍に寅丸とパルスィが立っていた。

寅丸は何かしゃべろうとするが、上手く言葉が見つからないのか、なかなか声を発せずに居る。パルスィはただ横に付き添っているだけだ。

「…君は普通に見ている限り、そこいらの人間と変わらないのに、人一倍信念が強いお人よしで、変なところ情に厚い。」

「…穣子…」

「で、一人の吸血鬼のために、自分の命を差し出して、仲間を取り残して。その行為こそ、非道ってもんじゃないの?」

「…やめてください…」

「私は、その行為が馬鹿らしいとしか思わない。わざわざ自分が死んでまで成し遂げることだった?それで救われるのはごく少数なのに。自分でも馬鹿らしいって思わない?」

「…やめなさいっ!」

寅丸の荒声。空気が一瞬で張り詰め、静寂に包まれる。

風の音だけが、この空間を支配した。

「…けれど。それが君の信条。背いたら一生後悔する。私には分からないけれど、そうまでしても成し遂げたかった。それに、君が後悔しない、満足する行為だったなら、きっとそれには意味がある。

…でしょ、早苗?」

二人が思わず後ろを振り返る。そこには、失ったはずの一人の人間が立っていた。

「…全く…お人よしはあんたも、でしょ?」

「…え…どういうこと…ですか?」

「別に、ただちょっとだけ、早苗のお手伝いしてただけだよ。」

彼女の話によると、早苗が『神』として、また幻想郷に存在できるために、人々に彼女のことを信仰させに行っていたらしい。

元々現代神であっただけ、人の信仰は十分にあった。だから、さほど苦労することは無かったと言う。

「…遅かったじゃんか。てっきり摂理に従うかと思ったよ。」

「その考えは無かったわ。だって、摂理に従ったら、あんたが泣くじゃない?」

反論しようとしたが、復活できるようにと色々手配に回っていた時点で、悲しまないとなったら嘘になると思い、思わず黙り込む。

「…そうなのかな。私は生まれながら神だから、寿命なんてものは無い。だから、君といずれかは別れが来る。…分かった上で、すがり付いているんだろうね。」

非情な神様にある微かな情の心。それは潰えることの無い確かな心。

自分が非情であると言われながらも、完全に非情になりきれていないのは穣子にも分かっていた。

その心は認めないわけでなく、むしろ尊いものだと彼女は考えている。


「早苗、約束、忘れてないよね。」

「えぇ、勿論。」

互いにニヤリと笑い、そして、


――ただいま。


二人の手の重なる軽い音が、魔法の森に静かに響き渡った。



『非情でありて非情であらぬ者』 ―fin―






ぶっちゃけ早苗とみのりんでハイタッチしてほしかっただけの話w

コメ返
>キバリ
あぁそうさ!あの一文書くのにどれだけ苦労したかw

犬に戦闘描写は無理だってよぉく分かった。怪我したらそれだけで『ひぎぇあ』って言うしねw

正直あんま大丈夫じゃ無かったわww