妖「今日は主要面子だけ…というか、出てくる人は偏っています、はい。」
「…ったく…早苗にはいっつも困らされるわ…」
ついさっきまで早苗に追いかけられ、ようやく解放してもらえた幽香。自分のことを好いてくれるのは嬉しいけれど、ここまで付きまとわれるとなれば話は別。面倒、鬱陶しい、気持ち悪いといったマイナスイメージの方がどうしても強くなる。
疲れたので椅子にひとまず座る。誰も居ないかと思っていたら、対面した形でレティと座ることになっていた。気が付かなかったというより、自分が見ていなかった。
私の様子を見るなり、レティはくすくす笑い出す。人事だと思って…人事だけど。
「あらら、まーた追いかけられてたのねぇ、かっわいそ。」
「…そう思ってないでしょ、むしろ楽しんでるわよね?」
「そんなことないわよ?」
そう言って、相変わらずの笑みを浮かべる。かなり頭に来たが、どうせ喧嘩になったってレティには勝てない。そう思った幽香は、何も言わずに目線を下にやった。
「ねぇ、一ついいかしら。」
突然レティが話をふる。しゃべる気にはあまりならなかったが、他に断る理由が無い。
「何かしら。」
「…最近、アリスにくっついていかないわねって。どうかした?」
意外な話だった。そういえばこっちからアリスにべったりくっついていってた時期もあったなぁと、ふっと昔のことを想起させる。
私はアリスのことが好きで、彼女に振り向いてもらおうと、ストーカーのごとく付きまとっていたときがあった。今となってはそれは単なる懐かしい思い出にしかならないくらい、何となく距離がある。
別にアリスのことが嫌いになったわけじゃない。むしろ、分かってしまったから。
「いや、ね。早苗が私に付きまとうようになってよぉく分かったのよ。すっごく付きまとわれるのが面倒臭いって。ただ、それだけよ。」
「…ふぅん…」
レティは口元に手を当て、何かを考える。
別に何も嘘はついていない。迷惑と分かった以上、彼女に迷惑をかけることは避けたいと思うなら、自然と距離は開くものでしょう。
くっついていくのを我慢している訳ではない。ただ、くっついていけなくなった。それだけのことだ。
「…変わったわね、昔のあんたなら、絶対そんなこと言わなかったでしょうに。」
「じゃああなたも早苗みたいな人に付きまとわれてみたら?気持ちよぉく分かると思うんだけど。」
「生憎、私は付きまとう側だから。」
その意味が分からず、幽香は首を傾げる。レティはそのまま立ち上がると、一生分からなくていいわと呟いてどこかに行ってしまった。
別にその姿は寂しそうでも、何でもなかった。
…と、いうよりも、
何か、言いがたい感情を抱いているように見えた。