その冬は、中旬から『私』はあまり妖夢とは会わなかった。
どうしたんだろうと思いつつも、いつも二人出会っていた場所で毎日待っていた。
独りじゃない、ずっと冬の間、一緒に居てくれる人が出来た。
しかし、それはあっさりと崩されることになった。
…『私』のせいで。
春の始まりがもうすぐ来るはずの季節がやってきた。
それでも全く春の訪れを感じない。『私』の周りは確かに寒波に襲われる。それでも、この能力は春の訪れとともに徐々に小さくなってくる。
それがないのだ。もうすぐ四月となろうというのに、『私』の力はいつまでも小さくならない。
これはおかしい、そう思っていた矢先に妖夢はやってきた。
「すみません…あまりお会いできなくって。」
いいの、と笑って気にしないでというように言う。それでも妖夢は申し訳なさそうにしている。
表情から、忘れていたわけではないということが分かる。現にここに来ているのだ、忘れているのならもう会いには来ないはず。
何か用事があったのか、来たくても来れない理由があったのか。
「…でも、今年は春は来ませんから。」
「…え?」
にっこりと笑ってそう言った。本当に純粋な顔で。
どういうことか、尋ねずにはいられなかった。
「幽々子様が春を集めているのです。冥界には一本の桜があって、その桜を咲かせるためなのですが…あの桜は満開にはならないのです。なので、春を集めて、無理やり咲かせようとしているのですよ。」
「……それは、どうして?」
『私』の中で、何かが沸き立つような感情を覚えた。
妖夢は悪くない、そう思っていても、何か怒りに似た感情が沸き立ったのだ。
「桜の木の下に何かがあるそうなのですが…詳しいことは分かりません。でも、私はそれよりも…あなたともっと一緒に過ごすことができる、それが嬉しいんです。」
…利己的だった。
自分のことしか考えないで、あなたたちは自然の摂理を曲げた。
春を楽しみに待っている人から春を奪ったのだ。
自然の摂理は絶対。
それを曲げることは、摂理に逆らうも同然。
「…って…」
ついに、耐えることが出来なくなった。
「?今、何と
「帰って!もう…あなたなんて見たくないっ!そんな人だとは思わなかった…!」
泣きながら怒鳴りつける。向こうの表情なんて見えていない。
ただしばらく困惑した後、分かりました、小さく短く呟いて、
『私』の前から消えた。
それから長い間、二人は会うことがなかった。
『私』はまた、独りになった。
何よりも許せなくなって、『私』は自ら光を手放した。
手に入れた色を、また白一色に戻した。
…いや、戻そうとした、か。
出来なかった、一度知ってしまった色だったから。
後に後悔が生まれて、そのときはもう遅くて。
あわせる顔が無かった。
…それから、数度独りで冬を過ごして。
気が付けば、『私』は
「…いらっしゃい、待っていたわよ。」
…いつか、幽香と会った場所に居た。
…長いなこの話。
妖夢のあれはいわゆる春雪異変のあれです。妖々夢の、ね。
ちなみに幽香さんはレティが妖夢と別れた時点で、すでに花畑に戻ってます。レティがみんなと出会うまでの間にかなり色々あるのですが、それはまた別のお話。