レティ過去話 3

その冬は、中旬から『私』はあまり妖夢とは会わなかった。

どうしたんだろうと思いつつも、いつも二人出会っていた場所で毎日待っていた。


独りじゃない、ずっと冬の間、一緒に居てくれる人が出来た。

しかし、それはあっさりと崩されることになった。


…『私』のせいで。




春の始まりがもうすぐ来るはずの季節がやってきた。

それでも全く春の訪れを感じない。『私』の周りは確かに寒波に襲われる。それでも、この能力は春の訪れとともに徐々に小さくなってくる。

それがないのだ。もうすぐ四月となろうというのに、『私』の力はいつまでも小さくならない。

これはおかしい、そう思っていた矢先に妖夢はやってきた。


「すみません…あまりお会いできなくって。」

いいの、と笑って気にしないでというように言う。それでも妖夢は申し訳なさそうにしている。

表情から、忘れていたわけではないということが分かる。現にここに来ているのだ、忘れているのならもう会いには来ないはず。

何か用事があったのか、来たくても来れない理由があったのか。

「…でも、今年は春は来ませんから。」

「…え?」

にっこりと笑ってそう言った。本当に純粋な顔で。

どういうことか、尋ねずにはいられなかった。

幽々子様が春を集めているのです。冥界には一本の桜があって、その桜を咲かせるためなのですが…あの桜は満開にはならないのです。なので、春を集めて、無理やり咲かせようとしているのですよ。」

「……それは、どうして?」

『私』の中で、何かが沸き立つような感情を覚えた。

妖夢は悪くない、そう思っていても、何か怒りに似た感情が沸き立ったのだ。

「桜の木の下に何かがあるそうなのですが…詳しいことは分かりません。でも、私はそれよりも…あなたともっと一緒に過ごすことができる、それが嬉しいんです。」

…利己的だった。

自分のことしか考えないで、あなたたちは自然の摂理を曲げた。

春を楽しみに待っている人から春を奪ったのだ。

自然の摂理は絶対。

それを曲げることは、摂理に逆らうも同然。

「…って…」

ついに、耐えることが出来なくなった。

「?今、何と

「帰って!もう…あなたなんて見たくないっ!そんな人だとは思わなかった…!」

泣きながら怒鳴りつける。向こうの表情なんて見えていない。

ただしばらく困惑した後、分かりました、小さく短く呟いて、

『私』の前から消えた。



それから長い間、二人は会うことがなかった。

『私』はまた、独りになった。


何よりも許せなくなって、『私』は自ら光を手放した。

手に入れた色を、また白一色に戻した。

…いや、戻そうとした、か。

出来なかった、一度知ってしまった色だったから。

後に後悔が生まれて、そのときはもう遅くて。


あわせる顔が無かった。


…それから、数度独りで冬を過ごして。

気が付けば、『私』は



「…いらっしゃい、待っていたわよ。」



…いつか、幽香と会った場所に居た。








…長いなこの話。
妖夢のあれはいわゆる春雪異変のあれです。妖々夢の、ね。
ちなみに幽香さんはレティが妖夢と別れた時点で、すでに花畑に戻ってます。レティがみんなと出会うまでの間にかなり色々あるのですが、それはまた別のお話。