「…そこで、その十字架を貰った、と?」
私はこくりと頷いた。あそこでみんなに迎えられ、私はあの仲間に入ることになった。
何でその十字架が作られたのか、それは私も知らない。多分だけど。妖夢なりの償いじゃなかったのかしら。それから、幽の、会いに来てくれたのに、当の自分がそこに居なかったことの。
「…もう二つ、聞いていい?」
「ん、何よ。」
まだ二つもあるの、私は思わず苦笑した。穣子はそれを見て相変わらずの笑顔。全く…彼女には敵わないわ。
「…『私』が私になったのはいつから?」
「…ちゃんとその意味、分かってたの。」
「もちろん。『私』、それはクリアのことで、私は君、グレーのこと。…違う?」
…その通り。まぁ、普通に察せるとは思うんだけど。
私が驚いたのはその次の言葉。
「『私』が本来の性格。だけれど、妖夢と出会って変わることが出来た。だから、『私』は妖夢が好き。けれど、本当の原点、幽との出会いが根本的に私を変えた。それで、彼女に恩を返したい、そんな無意識の想いから君が生まれた…あたしはそう睨んでるんだけど。」
「…そこまでお見通しなの。それならもう私が言わなくてもいいじゃない。」
本当に穣子の理解力はずば抜けていて困る。私がわざわざ説明しなくても分かっているでしょ。
そう考えていると、いきなりケラケラと笑い出した。
「あははっ…ごめんごめん、そうじゃなくって…あたしが聞きたいのは…どうして、普段出てきてるのがグレーの方なのかってこと。」
「…察しは?」
「何となくだけどついてるよ。けど、ちゃんと本人からそういうこと聞かないと。憶測は、自分を殺すからね。」
「別にこんなことで死にはしないでしょ。」
「普段から気をつけないと、いざというときに命取りになるさ。」
スキがないわねぇ…それが穣子なんだけど。
でも確かに、それは気が付いた人なら疑問に思うわね。今まで居なかった…いや、居ないと思っていたから自分でも考えたことがなかったけど。
「…約束、したのよ。私がクリアに、幽の恩返しをしたいって言ったときに。…条件で、こう言ったわ。『私を妖夢から遠ざけて。私の嘆きであなたの心が動かないように』って。…私、これもう一つ意味があると思ってるわ。」
「うん、あたしもそう思う。」
…もう一つの意味、それは。
自分が妖夢のことが好きだから。
きっと妖夢の前に居たら、『私』は外に出たがってしまう。
だから、彼女なりの気遣い。自己犠牲が大好きな、彼女なりの。
…気付いていて、私は首を縦にふったのだった。
「そういえば、もう一つは何なの。」
少しした後、穣子が何も尋ねてこなかったので、私から話を切り出した。
「あぁ…それはね。」
その質問は、すでに私が覚悟していたことだった。
「幽に恩返しした後、君はどうするつもり?」
それは最初から決めていた。
どうするかなんてすでに決めていた。
だから、私は迷わずに答えた。
「素直に消えるわ。『私』にこの体を返す。…私は、幽に恩を返したい、それだけの存在。だから…元より、目的を果たせたら、存在理由なんてなくなるわ。」
「…そっか。」
止めないのね、そう苦笑すると彼女もやや苦笑気味で答えた。
だって、止める理由がないもん。
…ほとんどの人は、彼女の一言を冷酷だと言うのでしょうね。
でも、私はその言葉は、とても優しい言葉だと感じた。
止める理由が無い、それは、私がただ一つの目的を果たしたとき、もう執着するものがなくなったときに、この世に縛られる、その理由がなくなるから。
だから止める理由が無い、そんな言葉を使ったのだろう。
いなくならないで。
そんな言葉よりもよっぽど。
彼女の言葉は、慈愛に満ちていると思う。
変なカンジで終わったけど、一応これで彼女の話は終わり。
アリスが健気属性って言ってたけど、よっぽどレティさんの方が健気だと思う今日この頃。
そしてこれは…みのレティ?
それから、感想をもらえると嬉しいです。
…知ってる、どぅーゆぅーこぉと?ってしか返ってこないって知ってる。