レティ過去話 4

「…そこで、その十字架を貰った、と?」

私はこくりと頷いた。あそこでみんなに迎えられ、私はあの仲間に入ることになった。

何でその十字架が作られたのか、それは私も知らない。多分だけど。妖夢なりの償いじゃなかったのかしら。それから、幽の、会いに来てくれたのに、当の自分がそこに居なかったことの。

「…もう二つ、聞いていい?」

「ん、何よ。」

まだ二つもあるの、私は思わず苦笑した。穣子はそれを見て相変わらずの笑顔。全く…彼女には敵わないわ。

「…『私』が私になったのはいつから?」

「…ちゃんとその意味、分かってたの。」

「もちろん。『私』、それはクリアのことで、私は君、グレーのこと。…違う?」

…その通り。まぁ、普通に察せるとは思うんだけど。

私が驚いたのはその次の言葉。

「『私』が本来の性格。だけれど、妖夢と出会って変わることが出来た。だから、『私』は妖夢が好き。けれど、本当の原点、幽との出会いが根本的に私を変えた。それで、彼女に恩を返したい、そんな無意識の想いから君が生まれた…あたしはそう睨んでるんだけど。」

「…そこまでお見通しなの。それならもう私が言わなくてもいいじゃない。」

本当に穣子の理解力はずば抜けていて困る。私がわざわざ説明しなくても分かっているでしょ。

そう考えていると、いきなりケラケラと笑い出した。

「あははっ…ごめんごめん、そうじゃなくって…あたしが聞きたいのは…どうして、普段出てきてるのがグレーの方なのかってこと。」

「…察しは?」

「何となくだけどついてるよ。けど、ちゃんと本人からそういうこと聞かないと。憶測は、自分を殺すからね。」

「別にこんなことで死にはしないでしょ。」

「普段から気をつけないと、いざというときに命取りになるさ。」

スキがないわねぇ…それが穣子なんだけど。

でも確かに、それは気が付いた人なら疑問に思うわね。今まで居なかった…いや、居ないと思っていたから自分でも考えたことがなかったけど。

「…約束、したのよ。私がクリアに、幽の恩返しをしたいって言ったときに。…条件で、こう言ったわ。『私を妖夢から遠ざけて。私の嘆きであなたの心が動かないように』って。…私、これもう一つ意味があると思ってるわ。」

「うん、あたしもそう思う。」

…もう一つの意味、それは。

自分が妖夢のことが好きだから。

きっと妖夢の前に居たら、『私』は外に出たがってしまう。

だから、彼女なりの気遣い。自己犠牲が大好きな、彼女なりの。

…気付いていて、私は首を縦にふったのだった。




「そういえば、もう一つは何なの。」

少しした後、穣子が何も尋ねてこなかったので、私から話を切り出した。

「あぁ…それはね。」

その質問は、すでに私が覚悟していたことだった。

「幽に恩返しした後、君はどうするつもり?」

それは最初から決めていた。

どうするかなんてすでに決めていた。

だから、私は迷わずに答えた。

「素直に消えるわ。『私』にこの体を返す。…私は、幽に恩を返したい、それだけの存在。だから…元より、目的を果たせたら、存在理由なんてなくなるわ。」

「…そっか。」

止めないのね、そう苦笑すると彼女もやや苦笑気味で答えた。


だって、止める理由がないもん。





…ほとんどの人は、彼女の一言を冷酷だと言うのでしょうね。

でも、私はその言葉は、とても優しい言葉だと感じた。

止める理由が無い、それは、私がただ一つの目的を果たしたとき、もう執着するものがなくなったときに、この世に縛られる、その理由がなくなるから。

だから止める理由が無い、そんな言葉を使ったのだろう。

いなくならないで。

そんな言葉よりもよっぽど。

彼女の言葉は、慈愛に満ちていると思う。







変なカンジで終わったけど、一応これで彼女の話は終わり。

アリスが健気属性って言ってたけど、よっぽどレティさんの方が健気だと思う今日この頃。

そしてこれは…みのレティ?


それから、感想をもらえると嬉しいです。

…知ってる、どぅーゆぅーこぉと?ってしか返ってこないって知ってる。