ほんのり小話 30-2

「しかし珍しいですね…藍さんが穣子のために行動しようとしているなんて…」

洗い物が終わり、二人とも一次作業を中断してさっきの静葉という穣子の姉…?の話をまとめる。

「お前…誰が穣子のためだと言った?」

「え、違うのですか?」

予想外の反応に、思わず衣玖はきょとんとする。

「私はあくまでもこの事件の時系列を正したいだけだ。何がどうなっているか、その謎を解き明かし、個人の納得を目指す。ただ、それだけだ。」

相変わらず貴方らしいですね、と思わず苦笑する。絶対にこの狐は他人のためになど動きやしない。ただ気になったから、行動理由なんて本当にそれだけだ。

知的好奇心…か。

「…静葉さんがいらっしゃる前…穣子が読心術をどうして身に着けたか、そんなお話をしましたよね。」

「あぁ、それが…私がさっき抱いていたように、知的好奇心だと言いたいのか?」

やや強い口調に、衣玖は首をひねった。

確かに彼女は色々なことに興味を持つ。知りたかったから知った知識は多数あり、魔法や薬作りもここで学んだ…というか、本を読んで覚えたらしい。

ただ興味があって、面白そうだったから。藍と同じように、彼女のそれもまた、知的好奇心によるもの。…では、読心術もそうだというのか。

…それは、今の段階ではまだ仮説でしかない。

「…保留、ですね。憶測な決断は自分の身を危険にさらしますからね。」

「お前らしからぬ言葉だな。いや、実際その通りなのだが。」

「何度も穣子やレティさんに言われたのですよ。」

確かに、彼女達なら言いそうだ。読心術持ちの穣子、情報通のレティ、成る程、口癖のように言っていてもおかしくはない。

さてと。藍は話を元に戻す。分かっていることは、静葉の穣子に対する性格と今の性格があまりにも違うこと、穣子が姉のいることを何故か話さなかったこと、何か理由があって穣子は家を飛び出したこと。

…どれも現段階では、どうしてと理由付けられるものはない。

「…せめて穣子が帰ってきたらいいのですが…」

「あたしのこと呼ばれた気がした。」

思わず二人は肩を震わせる。いつの間にか穣子が部屋に入ってきていたのだ。

「お、お前…いつから…」

「ついさっき。衣玖さんのせめてって一言から…で、なぁに〜?何かあたしに聞かれたらマズイこと相談してたの〜?」

うわぁ性格の悪い悪巧みの笑顔だ…二人は静葉の言う穣子はやはり間違いだと再認識させられた。

流石に静葉が穣子のいいところだけを見ているとは思えない。自らひねくれ者と自称し、こんな笑顔を見せる彼女を見て、そんなことが言えるだろうか少なくとも私なら言えないわ。

…猫を被っていた可能性はあるかもしれないが。

「…何さ、あたしのこと探ってるみたいだけどさー、そーゆーの悪趣味だよ?」

「それお前が言うか。」

話を切り出すのに時間がかかってしまっては、こちらの言いたいことがいずれすべてバレる。…バレたからなんだというのはあるが、やはり極力バレないに越した事は無い。

「お前の姉のことについて聞きたいのだが。」

「…っ!?」

表情を思いきり変える。その表情は何かあると思うには十分すぎる情報だった。

「…何で…あたし、お姉ちゃん居るなんて一言も言ってないよね…?」

「さっきお前の姉が来ていた。お前のこと探してたみたいだったが?」

…身を震わせ、強く歯を食いしばっている。穣子がここまで取り乱すことは初めてだ。それほど…探られたくない何かがあるのだろう。

「…何て…何て言ってた…?」

「また会いに来ると。お前…ずっと会っていないんだろ?次来たとき会ってやったら

「誰が会うもんか!!」

穣子の怒鳴り声が部屋に響く。すぐに彼女は我に返り、自室に戻ろうとする。

「あ、ちょっと待って

「もしお姉ちゃんに次会ったら言っておいて…あたしは絶対、会わないって…」

それをいうなり、穣子は部屋に帰ってしまった。

もう一度会おうとしても難しいだろう。まさかここまで穣子にとって何かあるとは思わなかった。

「…穣子…大丈夫でしょうか…」

「…少し、悪いことをしてしまったな。…しかし、これで新たに分かったことがあるのだが、」

そこまで言って、また新たに人が入ってくる。

「どうしたのさっき、穣子の怒鳴り声が聞こえたんだけど…あんた達、なんか穣子にやったわけ?」

少し棘のある言葉。彼女の親友、早苗だった。

今日はお前は神奈子様の手伝いだったはずだが…穣子も帰ってきたということは、終わっていたのだな。少し話しているから、穣子は先に帰った…筋は通るな。

「えぇっと…少し、お伺いしたかった話がありまして…彼女にお姉さんのことを聞いたのですよ。」

「お姉さん…あぁ、紅葉の神様の秋静葉?」

「!お前、知っているのか!?」

「何で知らないのよ。」

早苗にとって、当たり前のことだったらしい、思わず苦笑いをしている。

藍と衣玖はただ驚いて、互いの顔を見合わせる。

けれど、思い返して、早苗も一つの疑問にたどり着いた。

「そういえば…あたしが穣子の口からお姉さん絡みのこと、一回しか聞いたこと無かったわ。あたしは幻想郷の神様は全員把握してるから…成る程ね。悪かったわ、何で知らないのとか言っちゃって。」

「え…一回でも口に出たことあったのですか!?」

「えぇ。あたしが穣子と会ってそんなに間は経ってない頃にね…話が重たかったから追求しなかったけれど、姉にも人間にも忘れられて、頑張って好かれようとして心を読むことを覚えたって。…逆に、それが気持ち悪がられて誰にも好かれなくなっちゃったらしいけど。」

「…!その話、詳しく頼む。」

藍と衣玖が珍しく首を突っ込む。早苗は少し困った様子だったが、すぐに話してくれた。

穣子は豊穣の神だが、豊穣の神は他にもたくさん居る。神社を持たず、巫女もいない穣子には信仰があまり集まらなかったらしい。それでも信仰してくれている人は居て、存在する(神様は信仰がないと消滅する)には十分な量はあったらしい。

しかし、ある秋。その年の紅葉は今までになく綺麗で、誰もが穣子のことを忘れ、姉の静葉の方が圧倒的に人気になった。それでついに穣子は存在するが危うくなり、必死に人から好かれようとした。

結局はそれが気持ち悪いと突き放され、消えることを覚悟したとき、早苗と出会って、存在できる場所を見つけた。

「…と、まぁ…ちょっとこっちの推測が入ってるけど、筋は通ってるし、紅葉が綺麗な次の年に穣子と会ったから、ほぼ間違いないはずよ。」

「そういえば…あったなぁ、やたら紅葉が綺麗だった季節。」

何年前だったかは忘れたが。…しかし、早苗のお陰でほとんど謎は解けた。時系列もほとんど整理できたわけだ。

静葉が穣子のことをあんなに良い子だと言っていたのは、性格の変わった穣子を知らないから。つまり、

静葉の人気が高くなり、穣子は家を出て、好かれようと性格が変わり、好かれず消えそうになったそのとき、早苗と出会って、今に至る。…そういうわけか。

「…どうにか、二人が仲直りできませんかね…」

「?どうして仲直りさせる必要があるんだ?」

「!?ら、藍さん!?だって

「穣子は姉のことを嫌っているようだったが。穣子にとって、それは余計なお世話というやつではないのか?」

「そ、そうかもしれませんが…」

「…待って、二人が何悩んでるのか教えてくれない?あんた達が人のことを捜索するなんて、槍が降ることよりも珍しいもの。」

最後の一言は余計だ。藍は思わず早苗を睨みつけ、早苗は笑いながら軽く謝った。確かに珍しいですしね。と、苦笑する衣玖。

そんなやりとりをしながらも、早苗は関係者に近い。二人は今までのいきさつを、すべて早苗に話した。








まぁ、成り茶で見た人はもうどうなるか分かるわなw