ほんのり小話 30-5

この場に今居るのは藍、衣玖、早苗、さとり、こいし、ルナサの六人。出来れば全員の協力が欲しいと思う藍は、もう少し仲間を集めてくると言って、外に出ようとする。

「あら、大丈夫だと聞いてませんか?」

それを止めるさとり。心配しなくても、すでにほとんどの人が動き出していると言う。

もうしばらくすれば全員集まるでしょう。しかし、藍には何のことか分からなかった。

「…?あれ、おかしいですね…伝わっていると聞いたのですが…」

「…何のことだ?衣玖、お前何か聞いたか?」

「いいえ、何も…」

そうだよなと首を傾げる。ずっと今日は一緒に居たのだ、一人だけ何か聞いているということはまず無いだろう。

と、そこに。

「ただいま戻りましたー…」

「全く…どうなるかと思ったわよ。」

入ってきたのは妖夢とアリスだ。二人とも帰ってくるなりテールブの上に突っ伏す。一体何をやらかしてきたというのか。

「おや、おかえりなさい。首尾の方はどうでしたか?」

「ばっちり、聞き出せたわよ…後半、上手く聞き出すのにどれだけ苦労したか…」

というより、上手く聞き出せなかったから苦労したのだろうが。

それでもちゃんと仕事はやってきたわと、親指を立てて成功したとサインする。

「…おい、さとり。どういうことか説明してくれないか。…お前達の方で、一体何がどう動いている?」

「…本当に知らないのですね…」

やれやれ、と一つため息をつく。伝わっていると聞きましたのにと小言を漏らした後、簡単に説明を始めた。

「私はレティに言われてここに来たのですよ。…心が読めますから、経緯はすべて彼女の心を読んで把握しています。」

「…?レティが動いていたのか?」

…つまり、私はこいしから今回の件を聞いたかと思ったのだが、レティから聞いて動いていたのか。

確かにレティは裏で暗躍することが多い。しかし、必ず何か、動いていると自分たちに知らせてくれる証拠を残してくれるのだ。

しかし、今回はそれしかない上、部屋には私達しか居なかった…盗み聞きできるとは到底思えないのだが。

「証拠が無かった?いいえ、ちゃんと残しているといいましたよ?」

「…だったら、何処に。」

「窓、開いていたでしょう?」

「……」

思い出すが、自分の知っている限りでは窓は閉まっていたはずだ。

開いているなら、外の寒気が入り込んですぐに気が付く。

「盗み聞くときに窓を開けて、藍たちが片付けに行くときに開けたままその場を離れたそうです。まぁ、会談しているときは寒気が部屋に入らないように寒気を操っていたそうですが。」

「…あぁ、つまり…部屋が少し寒くなったというのは、静葉さんが帰ったからではなく、レティさんが移動したからだったのですね。」

「しかも、離れるときに寒気を強めてしっかり気が付くようにしたそうですが…」

「…あ!」

何故気が付かなかった、藍は気が付いた。

一度窓は見た…正確には二度だが。証拠は残っていた、しかし、消されていたのだ。

「こいしお前…窓から入ってきたよな。」

「うん、そーだよ。」

「で、窓から帰っていったよな。」

「そーだね…あ。」

その際に、こちらが気が付く前に窓は閉められていたのだ。

恐らく、窓は少ししか開いておらず、寒気は思ったより入ってこなかった。しかも寒気も妖怪たちには疎い。生半端な寒気では気が付かないものだ。

「…こいし…」

「えっと…ごめんなさい。」

悪気は無かったことくらい、すぐに分かる。それに、今後に影響が出るわけでもない、みんなは苦笑して、彼女を許した。

「…では、少し経緯を話した方がよろしいでしょうか。」

「いいえ、その心配はないわ。」

寒気が窓から入ってくる。今度はちゃんと分かるくらいの。

「本人が帰ってきたもの。」

「おい、何で窓から入ってくる、玄関から入れ。」

「玄関は混んでるもの。」

レティが部屋に入るとほぼ同時に、屠自古、娘々、橙、幽香の四人が入ってくる。

これで、今ここにいないのは寅丸、パルスィの二人だけだ。

「…寅丸達は呼ばないのですか?」

「いいえ、呼んでいるわ。ただ、彼女達は今は仕事を遂行中よ。その内終えて帰ってくるわ。」

成る程、すべてレティの台本どおりに事が進んでいるか。流石だなと改めて彼女の恐ろしさを実感する。

「それでは、私達は少し動いてきますね。娘々…一応屠自古も。」

「りょーかい!」

「おい、一応って何だ。」

そういって、さとり達三人は上の階に上がる。その間にレティが少し現状の説明をする。

「…ちょっとこっちの動きを説明しないといけないわね。まず、盗み聞いた。それはいいでしょ。」

「はい、質問。そもそもお前は幽香と一緒に太陽の花畑に行っていたんじゃないのか?」

藍の質問に、それはねとレティが説明するよりも早く、幽香が口を挟む。

「居たわ。ただそこで偶然静葉の姿を見てね…レティがこれは何かあるって言って、そのまま後をつけていったのよ。…後をつけると言っても、彼女が家に入った頃合を狙ってそっちに行ったんだけど。」

「あ、ボクがそれで、レティのやってることが気になって覗きにいったんだよね。…そしたら静ちゃんは妹がここに居るのはうんぬんかんぬんって独り言言ってたから、それを盗み聞いたんだ。」

えへへと笑うこいし。あんたそんなことしてたのと、レティは気が付かなかったことに少し悔しさを覚える。ここで、少し彼女の台本に乱れが起きた。…今現在の時点で、訂正はされているからよしとしようか。

「…えーそれから…あぁ、その後に幽をそっちに向かわせたのよ。」

「?居たか…?」

「…あー…」

レティは、早苗が今回の仲直り作戦に反対することは予想済みだった。だから、一番説得として適任者の幽香を向かわせたのだ。

早苗がものすごく申し訳なさそうにしている。レティはあえて、やってもらうことがあってと暈した表現で片付けた。早苗は手を合わせて、感謝の意を伝える。

「それから、静葉にもう一度会いに行ったのよ。少しひっかかることが残っていたから…それで、邪魔が入ったのよね。」

「いやそれはもうすみませんでしたって。」

レティの目線に気が付き、妖夢は思わず謝罪する。今はすっかり疲れから立ち直っている。

それでも首尾は上手くやってくれているらしいから、ある意味棚からぼたもちに近いのかもしれない、そう思って小さく笑みをこぼす。

「…結果的に、聞き出す手間を他の仲間を呼ぶのに使えたからむしろよくやった、っていいましょうか。」

「…あ、ありがとうございます…」

「そういえば、何だったの…?その…聞いたことって…」

あぁ、言ってなかったわね。ルナサの質問の説明はアリスにすべて任せる。

「二つのことを聞いてきたわ。まず一つ、穣子の帽子のこと。」

「…?帽子ですか?」

「えぇ。衣玖さんは知らないでしょうが、ここに来たとき、穣子は帽子を被ってなかったのよ。」

それなのに、穣子の特徴を話したときに、帽子を被っていると言ったのだ。それが少し引っかかったらしい。

「…ま、穣子を探しているときに知ったとしか言ってなかったわ。…情報不足?」

「いいえ、十分よ。」

くすりとレティは笑ってみせる。それで、一つの確信が生まれた。ただ、それを口には出さなかったが。

「それから…探し出すのに長年もかかった理由ね。これは…聞いたら、大泣きしちゃって…」

なだめるのに一体どれだけの時間がかかったか。それでも頑張って聞き出せた。

「…自分が居ない方が、幸せなんじゃないかって。彼女の居場所が新たにできたんじゃないかって…不安だったみたいよ、彼女の方も…」

「……」

思わず誰もが言葉を詰まらせる。それを感傷に浸るのは後でと、レティが話の続きをする。

「で、その後はプリズムリバー家に言って、援軍を頼みに行った。…よかったわ、さとりとルナサが居てくれて。」

三人の言い合いを止める、というよりも、藍の反対意見を賛成に変える一番の適任者、それは姉妹という関係を持つもの。思った通りの動きを見せてくれた。

「それからは寅丸とパルスィに仕事を頼んで、他の仲間にも声をかけて…で、今に至るわけ。」

裏でそんなことをやっていたのかと思わず藍や衣玖は心の中で労いの言葉を紡ぐ。

それと同時に、

「終わりました。大丈夫です、作戦…決行しましょう。」

さとりたちも、再び部屋に戻ってきた。







あと2回くらいで終わる予定です長いってば。小話じゃねぇよ。

それから。こいしのこの働きっぷりは完全偶然だったりします。