ほんのり小話 35 上

小説調です。主要面子のお話で。サブも一応出るけど。


「きゃぁぁああああぁっ!!」

突然森の中に響き渡る悲鳴。魔法の森に居る者なら、それははっきりと聞こえただろう。

ばさばさと鳥が飛び立ち、動物は思わず逃げ出す。その群れの中、逆走するいくつかの影があった。

「どうしたのっ!?」

「な、何て事なの…!」

その場に駆けつけたのはレティと幽香。そこには一人の倒れている仲間、アリスの姿があった。

死んではいない。しかし、何があったのかを推測するには十分であった。

白銀の布が二枚ほど、少し離れたところに舞い落ちている。幽香はそれを拾い上げ、ぐっと握り締めて、

「…アリスのパンツが…真っ二つに…!!」

パンツ。それは乙女の恥じらいの象徴。また、デリケートゾーンの強固たる壁。その強固たる壁は、更にスカートやズボンといった多数の壁によって守られている。

その壁を求める者は多く、多くのものがその壁を求め、互いに策を出し、駆け引きを行う。一体どれだけの者がその一枚を求め、必死になってきただろうか。

しかし、そこには周りの壁を一切傷つけず、最も重要な壁だけを傷つけるという偉業を遂げているのだ。

「…要するにパンツが真っ二つに裂けてるだけじゃ…」

後から来た穣子だけは冷静だった。その顔には呆れとあほらしいといった感情が露になっている。

「……」

「…これは、何かによって切られたようね…ほら、断面がとっても綺麗だもの…」

幽香はレティに持っているそれを見せる。二人でまじまじとそれを見る光景を、後ろから穣子は何も触れずにただ見つめた。

「…ただのヘンタイにしk

「…みな、さ…ん…っ」

前方から唐突に声が投げかけられる。そこには刀を構えた妖夢の姿があった。

しかし、いつもの彼女で無いと、この場に居る者の誰もが感じた。禍々しいオーラを纏い、今にも襲いかかろうとしている彼女が居る。

「…どうしたのよ…あんたは…あんたは仲間に刀を向けるような奴じゃないでしょっ!」

幽香の必死の呼びかけに、妖夢は苦しそうに答えた。

「…すみま…せ……この…刀のせい…で…」

「…刀?」

よく見ると、手に持っていた刀は彼女の愛用している刀とは違っていた。

薄紫色に輝く刃を見て、レティはぼそりと呟いた。

「…なるほど、妖刀に取り付かれちゃったわけ…」

その言葉に幽香は思わずレティの方を見る。親指の爪を噛みながら、険しい顔で彼女はこう言った。

「…きっと、強固たる壁を撃破せんと、何度も何度もそれを可能にするための刀を作った。失敗を重ねても、その男は諦めなかった。そして、彼は死ぬとき、最後の想いをその刀に込めたのよ。」

そして出来たのが、

「…妖刀、『斬犯通刀(ざんぱんつけん)』…!」

「……!名前だけ、聞いたことあるわ…」

「ねぇよ。」

幽香が言うには、その刀を抜いてしまったものは、永遠にその強固たる壁を破壊し続けると。それは、取り付かれたものから刀を取り除くまで。

それは、つまり。

妖夢から刀を奪えばいいのよ!」

幽香は自分の持っている傘を構える。それに反応して、妖夢も己の刀、いや、妖刀を構えなおす。

「…お願…逃げ…て……私は…もう……意識…が…」

冷や汗が伝う。彼女の意識がなくなったとき、そこに居るのは殺清鬼(さつじんき)である。真っ向からやりあって果たして勝てるだろうか。

「…ふっ、愚問ね。」

犠牲となった大切な者への想い。その想いを捨て、逃げ出すくらいなら。

「…アリスの敵、私が絶対に!!」

「…ぁ…ぁぁあああああぁああああぁっ!!!」

けたたましく、忌々しい咆哮が森に響き渡った。







「え、続くの。」
真面目になんつー話だ。