みのいく過去話 2

今日から急に長くなります^^;毎回3000字くらい。




「もしもーし、神の子って書いて神子ちゃんでーすっ!っていう痛い太子様いらっしゃいますー?」

本人に聞かれたら首の一つくらい跳ねられそうな一言。単純に機嫌が悪かったのと、居留守を使われるのが嫌(暑さでくたばって動けないとか)だったので、あえて頭に来るようなあいさつをした。

しかしそれでも返ってくる返事はない。煽りが足りなかったか、そう考えているとここからもだらしない声が聞こえてきた。

「太子様はー…今ー…出ておるぞぉおおぉぉ…」

下方から聞こえたので、目線を下にやる。そこには真っ白な髪の毛を床にばっさり乱雑に広げ、仰向けに寝転がっている豪族、物部布都の姿があった。

せっかくの綺麗な髪の毛は、床のほこりが絡まってとても残念なことになっている。というかほこりの量が異常。あんまり掃除してないでしょ、そうツッコミを入れたくなったがさっさと帰りたかったので我慢。

「…ふーん、どこに。」

「さぁー…我は知らぬぅぅうぅ…」

「……」

ものすごくいらっと来た。あまりのだらしなさにものすごくいらっと来た。

これが自分より弱かったら絶対蹴りとばすのに、と一つため息。今ならある程度痛い目に遭わせることができそうといえばそうなのだが。

「…困ったなぁ。手紙預かってるのに。」

この床掃除機に渡せば神子に渡してくれるだろう。しかし、ものすごくそれは不安だった。

こんなアホの子に手紙を渡して、果たして無事に渡してくれるだろうか。早苗のように乱雑な扱いをしたり、途中でなくしたり、他の人の手元に渡ったりしないだろうか。

…絶対、する。こいつなら絶対する。不思議とそう確信できる。いやでもできてしまう。

神子を探すか。しかし、どこに行ったのか検討もつかないし、このアホは使えない。そこで穣子はふと思い出した。

蘇我屠自古、神子様に使えるもう一人の豪族。娘々に惚れて、今は別のところで仲良くしている。

繋がりが全くなくなったわけではないだろうし、むしろ聞く限り、結構ここには戻ってきているらしい。それなら彼女に頼んで渡してもらった方がよっぽど早い。

それに、彼女の居場所なら簡単に分かる。

「…しょうがない、面倒だけど行くとするか。」

なくされるよりはマシだと思い、再び炎天下の中を彼女は歩きだした。

ここから距離はけっこうある、一つの廃れたお屋敷…いや、今では結構綺麗になっている。そこは今や、自分たちと同じような『物好き』な妖怪や幽霊が集まる場所となっていた。

最近互いに存在を知り合って時々関わるようになったが、まだまだ関係は希薄なものであった。穣子でも誰が居て、どんな妖怪がいるか。その程度しか把握できていない。

この際、ちょっと話を聞いて帰ってもいいかもしれない。…いや、長居はできないか、早苗が今にもメルトダウンしそうだったし。帰って世話を焼いてやらないといけない。

「…ま、連絡くらいなら取れるんだけどね。」

神と巫女同士は離れた場所に居ても、互いに思念を飛ばしあって会話が出来る。その気になれば、すぐに彼女の元へ戻ることだってできる。といっても、こればかりは早苗が自分を体に降ろしてくれないことにはどうしようもないのだが。

そんなことをぼんやり考えながら歩を進める。しばらく歩くと、目的の場所が見えてきた。騒霊三姉妹の住む屋敷、そこは自分たちでいうアリスの家のようなところ。

玄関に立ち、軽くノックをする。すぐに扉は開かれ、緑色の髪をした足の無い亡霊、屠自古が穣子を出迎えた。

「…お前は…確か…」

秋穣子。なぁーに?まだ覚えてくれてないの、大根足。」

「おいこら、誰が大根足だ!」

いつものツッコミは健在していた。どうやら夏バテはしていないようである。それもそうか、亡霊なのだから夏の暑さでへたばるわけない。

その奥からルナサが姿を見せる。思念体である彼女もまた、暑さで弱ったりはしていない。それと比べてうちはというと…思わず穣子は苦笑した。

「えっと…今日はどうしたの?」

「ん、これ。神子さんに渡さなきゃならないんだけど、向こう留守にしててさ。それで、布都に任せるのは不安だったから、エロ大根に預けに来たわけ。」

「大根から離れろ!そしてエロくもないっ!!」

よかったら上がっていくかと尋ねられたので、穣子はお言葉に甘える。横で屠自古がギャーギャー騒ぐが、全く気にせず家にあがった。

とりあえず中に入るなり、屠自古に手紙を渡して本来の目的を果たす。…本来、ではないが。屠自古は後で渡しておくと言い、その手紙をしまった。布都に渡すような心配は全くない。

「しっかし…何の手紙なの?」

「さぁ?私も何も聞いていなくてな…でも意外と繋がりはあるんだ。これに聖さんも混ざって、何やら話し込んでいたこともあったし…」

命蓮寺と君たちって仲悪いんじゃと思ったけれど、あえて黙っておく。特に布都は仏教を敵視しているみたいだったし。

二人で少し会話をしていると、こんなものしかないけれどと言って、ルナサが茶菓子を出してきた。てっきり洋風の家だから洋風のお菓子が出てくるかと思ったが、

「これは…この金色の輝きは…まさか…栗金時…!!」

「う、うん…穣子、秋の神様だから…こういう風なものの方がいいかなって…」

こいつ、デキる。思わずその皿を震えながら手に取った。他人の好みを見事についてくるとは…ただのヘタレだと思っていて申し訳なかった、穣子は心の中で静かに謝った。
そんな彼女をオーバーな奴と思って冷ややかに見る屠自古。ルナサは純粋に喜んでもらえて嬉しそうだった。何という健気属性。

と、穣子が栗金時を食べ始めようとしたとき、視界の端にひらりと緋色の羽衣が映った。龍宮の使いの永江衣玖だ。

「……」

「あぁ、衣玖、これから人間の里に行くのか?」

「え、何それ、シャレ?」

「ちげーよ!」

いや、分かってるんだけど、とくすくす穣子は笑い出す。そんな二人のやりとりを見て、衣玖はにっこりと笑みを返して、

「いいえ、今日はもう天界へ帰ります。総領娘様が少し騒いでいらっしゃるので。」

そうか、と屠自古の短い声。それではと小さく一礼をして家を出ようとする衣玖に、ちょっと待ってと穣子が呼び止める。

衣玖に近づき、じっと顔をのぞき込んで、彼女にしか聞こえない小さな声で尋ねた。

「…大丈夫?」

屠自古とルナサには彼女の表情は見えなかったが、いつになく真剣に問う穣子。それに対して、やはりにっこりと笑って、

「…大丈夫ですよ。」

短くそう答えて、そのまま外へと歩を進めていった。後ろ姿をしばらく見ていたが、やがて再び穣子は屠自古たちのところに戻った。

「…何、話してたの?」

「ん?衣玖さんって意外と胸おっきいねって話。」

「セクハラかっ!ていうかなんつーこと言ってるんだお前は!そもそも子供が聞くようなことじゃない!おっさんか!」

けらけら笑いながら、穣子は再び栗金時を口に運ぶ。食べる様子はとても美味しそうで、先ほどの変態発言で少し引いていたルナサも、出したものが正解だったと改めて胸をなで下ろしていた。

「…そうだ…お茶も、いる?」

一口で食べ終えていた穣子にルナサはそう尋ねる。穣子は首を横に振ろうとしたが、じっと手に顎を乗せ、考える仕草を見せる。

「…そうだね。そしたら、冷たいのもらえるかな。」

その言葉に、ルナサは嬉しそうにお茶を入れに行った。対して穣子は、再び扉の方をじっと見つめている。

屠自古はそれが少し気になったが、何も尋ねることなくただその様子を見ていた。








わんこ気が付いた。
これ『みのりん(と衣玖さん)シリーズ』って題していいわw
時系列上、これ1章、姉妹仲直りが2章、お腹おぶぅあが4章で。いやおぶぅあはおまけなんだけど。
え、3章?今書いてますよ!多分一番長くなります…多分。