ほんのり小話 38

※かっこいい雷鼓さんが好きな人はこのままリターン、可愛い雷鼓さんが好きな人はこのまま読み進めてください。
※犬得設定ですからね。公式にこんな設定ないですからね(出てまだ間もないからちょっと怖くなった)。

ぜぇったい印象変わる。貴方の雷鼓さんの印象になんか影響を与えるわこれは。






今日は衣玖と二人きりでルナっさんの家に居た。天気は快晴で、風も吹いていない。

他の人はどうしたのかって?わたしはよく知らないけれど、どこかに出かけていったよ。時々あるらしいんだけどね、このくらい集まりが悪い日っていうのが。

「…っと。そういえば少し私も用事がありましたね。雷鼓、少しお留守番していてください。30分ほどで戻ってきますから。」

興味が沸いた本を読んでいて、あまりちゃんと聞いていなかった。とりあえず曖昧に聞いて短い返事をする。そのすぐにあわてて衣玖は家を飛び出していった。

そのときは特に何も考えてなかった。しばらく本を読んでいて、

「なぁ、衣玖ー…」

そして、大変なことに気がついてしまった。

「…あっ…」

今、この家に。

…自分一人しか、居ない。

「……」

いつもは結構な人数が集まるため、狭く思えるこの部屋も、一人だけだと唐突に広く感じる。

にぎやかな声も聞こえてこない。そりゃそうだ、わたししかこの部屋に居ないんだから。

それは、わたしが最も苦手とする空間。

「…っ!」

再確認して、嫌でも理解してしまう。

その事実に気がつくと同時にこみ上げてくる恐怖。

そう、ここは。

ー無音だった。

「…うわぁぁあああぁああわたししか居ないぃぃぃいいいいいぃっ!!?」

夢幻のパーカッショニスト、何でもリズムに乗せる程度の能力を持つもの。

そんなわたしはどうしても耐えられないものがある。それが、この無音の世界。

いや、正直言う。一人だけっていうのもかなり苦手。けれど、雷とか雨とか、自然の音があったらまだ気は紛らわせることができる。

けど、今この場にそんなものは無い。何かをリズムに乗せて気を紛らわせるとしても、対象がなければ何もできない。

「…だ、大丈夫、30分で戻ってくるって言ったし…さ、30分くらいっ…!」

そう自分に言い聞かせる。皆と居るときじゃあ30分なんてあっと言う間だっただろ?

そうだ、これは衣玖の、主人の言いつけだ、主人の言いつけを守らないでどうするっ!

とりあえずわたしはドラムを叩き始めた。どうしても無音の世界には耐えられないから、少しでも気を紛らわすために。

爽快なリズムが部屋に流れる。テンポの早い、軽いパーカッションの音が奏でられる。

…が、言ってしまえば『それだけ』だ。

どれだけ自分が演奏しても、自分『しか』居ない。

音の発生源は自分だけなのである。自分がいくら音を出したところで、乗ってくれるものが無いとただ空しいだけで。

それは独り言のようなものだ。寂しくて自分で二役を演じるようなものだ。今、わたしのやっていることはまさにそれで。

「…っ…」

気がついたら、自分の手を止めていた。

ただ空しいだけだと、嫌でも分かってしまうから。どうしてもそれ以上手は動かなかった。

再び静寂の世界が作られる。何の音のしない何の気配もしない寂しい世界。

ぺたんとその場に座り込む。いつもは短く感じるその時間が、とても長い時間のように思えた。

この無音の世界をわたしはよく知っている。使われることもなくなり、ただの物置に放置される。

あの、他の龍宮の使いの扱いと同じように。

誰もいない、無音の世界はそんな世界と本当によく似ている。

だから。

もしかして、このまま帰ってこないのではないか。

…ふと、そう錯覚してしまう。

「…そんなこと…ないよ…ね…?」

再び居場所を手に入れた付喪神

一度手元から離れることを覚えてしまったから。

本能的に、どうしても捨てられる恐怖を切り離すことはできなくて。

暗雲が立ちこめてくるような感覚。そんなことはないと思いたくても、もしかしてという考えをしてしまう。

最も恐れている、捨てられるという行為。必要ない、その言葉を聞くのがどれほど怖いか。

自分は、衣玖にとっていらない存在だったのか。本当はいらないと思われているのか。

独り、無音の世界に放り込まれる。それはわたしが想像している、本当に捨てられたときの感覚。

それが、本当に耐えられなくて。

「…そんなこと…っ…そんな…ことっ…ない…よね…っ?」

目尻に透明なものが溜まる。震えが、涙が止まらなかった。

違う、そんなことない。ちょっとお出かけしてるだけ。言い聞かせても、もう無駄だった。

一度考えてしまったら、べったりと胸にまとわりつく。

「…やだ…早く…早く帰ってきて…」

ぎゅっと、自分のバチを握りしめる。約束の時間までまだ半分しか経っていない。

分かってはいる。けれど、分かっているだけで、止める術はない。

止められるものなら、とっくに止めている。

「…おねが……衣玖…早く…」



その刹那、ふと声が投げかけられた。

「戻りましたよー。想定したよりかなり早く帰って…」

そこで、ぴたりと声が止まる。わたしも思わずしゃくり泣くのを止める。

衣玖の顔は、とても困惑した表情だった。

「…え?えっと…な、何を泣いているのですか…?」

おそるおそる近づいて、わたしの近くでしゃがむ。

わたしから見たら、それはまるで迎えにきてくれたみたいで。

「…うぅっ…ぐすっ…うわぁぁあああぁあんっ!!」

「ええぇっ!?ちょ、ちょっと!?な、何かやらかしたのですか!?」

安心したのと嬉しかったので、思わず衣玖に泣きつく。胸に顔を埋め、ひたすら声を上げた。

「ぐすっ…ひっく…衣玖ぅ…怖かった…怖かった…!」

「いや、いやいやちょっと待ってください!たった15分でしょう!?何で泣くんですかそれでっ!?」

「だって…だってぇ…!!」

わたしを宥めるために、背中を優しく叩いてくれる。何か考え、思い当たることが見つかったらしい。

「もしかして…昔のこと、思い出しました?あの、付喪神になる頃のときのことを。」

空気が読める彼女だから分かったのか、それとも他の要因があったのか。そんなもの考える余裕は無く、すぐに首を縦に振った。

それを見て、衣玖はため息を一つついた。

「あのですね…私が貴方を捨てるはずないでしょう?貴方がどんな想いをして、どんな過去があったか、それを一番知っている私なのですよ?
…だから安心してください。何も心配しなくていいですから。」

少なくとも、私が生きている限り貴方を手放したりなんてしませんから。

その一言が嬉しくて、声になっていない返事を何度も何度も返した。

「…まさかこれが地雷だとは思いもしませんでしたよ…」

そうくるとは予想できませんでしたと苦笑する。わたしはまだ、衣玖の胸の中で泣いていた。









「早苗、何で衣玖さんに早く帰るように言っちゃうの?そんなに雷鼓さんの肩入れするの?」

「違う違う。ただのカンよ。ほっといたらそうね…プリズムリバー家が崩壊するわ。」

「…君ってホントによく分からない電波を受け取るよね。」

「あたしもそう思う。流石に今回のカンはハズレだと思うんだけどねぇ…」









雷鼓さんの唯一の弱点。『無音で誰も居ない空間』。

雷怖い、あの音が怖いはよくあるじゃん。それで、そんなときに一人にしたら気狂う人。
雷鼓さん…逆だよな。晴天で無音が怖い。まぁ、かつ誰もいない。この二つが大切なんだけどね。そんな条件がそろうことなんか滅多にないから、多分あんまりこの設定は使われないんだろーなー。

とりあえず。雷鼓さんって変なところ子供っぽいな。それが美味しいんだけど。

いやーものすっごくさ。画面にこの一文をずっと表示させたかった。読んでる真下にずっとこの一言固定したかった。

※ただのお留守番です。


あと、衣玖さんは何をしに言っていたか。藍しゃまの玉露をパクっ…調達しに行ってただけですよー。それで、みのりんとお話して帰ろうとしてたのに、早苗にはよ帰れって言われ、さっさと帰ってきたら何か雷鼓さん泣いてたっていう。