※かっこいい雷鼓さんが好きな人はこのままリターン、可愛い雷鼓さんが好きな人はこのまま読み進めてください。
※犬得設定ですからね。公式にこんな設定ないですからね(出てまだ間もないからちょっと怖くなった)。
ぜぇったい印象変わる。貴方の雷鼓さんの印象になんか影響を与えるわこれは。
今日は衣玖と二人きりでルナっさんの家に居た。天気は快晴で、風も吹いていない。
他の人はどうしたのかって?わたしはよく知らないけれど、どこかに出かけていったよ。時々あるらしいんだけどね、このくらい集まりが悪い日っていうのが。
「…っと。そういえば少し私も用事がありましたね。雷鼓、少しお留守番していてください。30分ほどで戻ってきますから。」
興味が沸いた本を読んでいて、あまりちゃんと聞いていなかった。とりあえず曖昧に聞いて短い返事をする。そのすぐにあわてて衣玖は家を飛び出していった。
そのときは特に何も考えてなかった。しばらく本を読んでいて、
「なぁ、衣玖ー…」
そして、大変なことに気がついてしまった。
「…あっ…」
今、この家に。
…自分一人しか、居ない。
「……」
いつもは結構な人数が集まるため、狭く思えるこの部屋も、一人だけだと唐突に広く感じる。
にぎやかな声も聞こえてこない。そりゃそうだ、わたししかこの部屋に居ないんだから。
それは、わたしが最も苦手とする空間。
「…っ!」
再確認して、嫌でも理解してしまう。
その事実に気がつくと同時にこみ上げてくる恐怖。
そう、ここは。
ー無音だった。
「…うわぁぁあああぁああわたししか居ないぃぃぃいいいいいぃっ!!?」
夢幻のパーカッショニスト、何でもリズムに乗せる程度の能力を持つもの。
そんなわたしはどうしても耐えられないものがある。それが、この無音の世界。
いや、正直言う。一人だけっていうのもかなり苦手。けれど、雷とか雨とか、自然の音があったらまだ気は紛らわせることができる。
けど、今この場にそんなものは無い。何かをリズムに乗せて気を紛らわせるとしても、対象がなければ何もできない。
「…だ、大丈夫、30分で戻ってくるって言ったし…さ、30分くらいっ…!」
そう自分に言い聞かせる。皆と居るときじゃあ30分なんてあっと言う間だっただろ?
そうだ、これは衣玖の、主人の言いつけだ、主人の言いつけを守らないでどうするっ!
とりあえずわたしはドラムを叩き始めた。どうしても無音の世界には耐えられないから、少しでも気を紛らわすために。
爽快なリズムが部屋に流れる。テンポの早い、軽いパーカッションの音が奏でられる。
…が、言ってしまえば『それだけ』だ。
どれだけ自分が演奏しても、自分『しか』居ない。
音の発生源は自分だけなのである。自分がいくら音を出したところで、乗ってくれるものが無いとただ空しいだけで。
それは独り言のようなものだ。寂しくて自分で二役を演じるようなものだ。今、わたしのやっていることはまさにそれで。
「…っ…」
気がついたら、自分の手を止めていた。
ただ空しいだけだと、嫌でも分かってしまうから。どうしてもそれ以上手は動かなかった。
再び静寂の世界が作られる。何の音のしない何の気配もしない寂しい世界。
ぺたんとその場に座り込む。いつもは短く感じるその時間が、とても長い時間のように思えた。
この無音の世界をわたしはよく知っている。使われることもなくなり、ただの物置に放置される。
あの、他の龍宮の使いの扱いと同じように。
誰もいない、無音の世界はそんな世界と本当によく似ている。
だから。
もしかして、このまま帰ってこないのではないか。
…ふと、そう錯覚してしまう。
「…そんなこと…ないよ…ね…?」
再び居場所を手に入れた付喪神。
一度手元から離れることを覚えてしまったから。
本能的に、どうしても捨てられる恐怖を切り離すことはできなくて。
暗雲が立ちこめてくるような感覚。そんなことはないと思いたくても、もしかしてという考えをしてしまう。
最も恐れている、捨てられるという行為。必要ない、その言葉を聞くのがどれほど怖いか。
自分は、衣玖にとっていらない存在だったのか。本当はいらないと思われているのか。
独り、無音の世界に放り込まれる。それはわたしが想像している、本当に捨てられたときの感覚。
それが、本当に耐えられなくて。
「…そんなこと…っ…そんな…ことっ…ない…よね…っ?」
目尻に透明なものが溜まる。震えが、涙が止まらなかった。
違う、そんなことない。ちょっとお出かけしてるだけ。言い聞かせても、もう無駄だった。
一度考えてしまったら、べったりと胸にまとわりつく。
「…やだ…早く…早く帰ってきて…」
ぎゅっと、自分のバチを握りしめる。約束の時間までまだ半分しか経っていない。
分かってはいる。けれど、分かっているだけで、止める術はない。
止められるものなら、とっくに止めている。
「…おねが……衣玖…早く…」
その刹那、ふと声が投げかけられた。
「戻りましたよー。想定したよりかなり早く帰って…」
そこで、ぴたりと声が止まる。わたしも思わずしゃくり泣くのを止める。
衣玖の顔は、とても困惑した表情だった。
「…え?えっと…な、何を泣いているのですか…?」
おそるおそる近づいて、わたしの近くでしゃがむ。
わたしから見たら、それはまるで迎えにきてくれたみたいで。
「…うぅっ…ぐすっ…うわぁぁあああぁあんっ!!」
「ええぇっ!?ちょ、ちょっと!?な、何かやらかしたのですか!?」
安心したのと嬉しかったので、思わず衣玖に泣きつく。胸に顔を埋め、ひたすら声を上げた。
「ぐすっ…ひっく…衣玖ぅ…怖かった…怖かった…!」
「いや、いやいやちょっと待ってください!たった15分でしょう!?何で泣くんですかそれでっ!?」
「だって…だってぇ…!!」
わたしを宥めるために、背中を優しく叩いてくれる。何か考え、思い当たることが見つかったらしい。
「もしかして…昔のこと、思い出しました?あの、付喪神になる頃のときのことを。」
空気が読める彼女だから分かったのか、それとも他の要因があったのか。そんなもの考える余裕は無く、すぐに首を縦に振った。
それを見て、衣玖はため息を一つついた。
「あのですね…私が貴方を捨てるはずないでしょう?貴方がどんな想いをして、どんな過去があったか、それを一番知っている私なのですよ?
…だから安心してください。何も心配しなくていいですから。」
少なくとも、私が生きている限り貴方を手放したりなんてしませんから。
その一言が嬉しくて、声になっていない返事を何度も何度も返した。
「…まさかこれが地雷だとは思いもしませんでしたよ…」
そうくるとは予想できませんでしたと苦笑する。わたしはまだ、衣玖の胸の中で泣いていた。
「早苗、何で衣玖さんに早く帰るように言っちゃうの?そんなに雷鼓さんの肩入れするの?」
「違う違う。ただのカンよ。ほっといたらそうね…プリズムリバー家が崩壊するわ。」
「…君ってホントによく分からない電波を受け取るよね。」
「あたしもそう思う。流石に今回のカンはハズレだと思うんだけどねぇ…」
雷鼓さんの唯一の弱点。『無音で誰も居ない空間』。
雷怖い、あの音が怖いはよくあるじゃん。それで、そんなときに一人にしたら気狂う人。
雷鼓さん…逆だよな。晴天で無音が怖い。まぁ、かつ誰もいない。この二つが大切なんだけどね。そんな条件がそろうことなんか滅多にないから、多分あんまりこの設定は使われないんだろーなー。
とりあえず。雷鼓さんって変なところ子供っぽいな。それが美味しいんだけど。
いやーものすっごくさ。画面にこの一文をずっと表示させたかった。読んでる真下にずっとこの一言固定したかった。
※ただのお留守番です。
あと、衣玖さんは何をしに言っていたか。藍しゃまの玉露をパクっ…調達しに行ってただけですよー。それで、みのりんとお話して帰ろうとしてたのに、早苗にはよ帰れって言われ、さっさと帰ってきたら何か雷鼓さん泣いてたっていう。