ほんのり小話 40

昨日雷鼓さんのあの話持ち出してきたの…分かったか…?
というわけで、今回は「衣玖さんが寿命で死んだその後」って話で。…IF物語でやれよってツッコミはなし。

あと。重たいよ。





これは何度目の雨だろう。

これは何日目の朝だろう。

気が付いたときには考えることをやめていた。

衣玖が死んでから、ずっと彼女のお墓の前に居て。

帰ろう、その言葉を無視して、ずっと一人でそのままぽつんと座っていた。

太鼓も一緒においていて。



わたしにとって雨は天敵だった。

わたしは大丈夫だけど、太鼓は雨に濡れると簡単に壊れてしまう。

でも、それでよかった。

自然と消えて、なくなりたかったから。

君のすぐ傍で、私も一緒に。

涙のように流れる雨に、温かみなんて無かった。



何を考えるわけではなく。

何を待つわけでもなく。

ただわたしは、そこに居た。

もしかしたらわたしは、この現実をまだ受け入れることができていないのかもしれない。

ただ単に、言葉としてだけ受け止めて。

その意味、本質は多分、まだ理解できていないんだ。

ずっと、意味も無くそこに居て。

傍に居る心地なんて無くて。

けれど、不思議と離れることは出来なかった。



そろそろ太鼓が朽ちてきた。

雨に打たれて、風に吹かれたそれは、もうほとんど形なんて残っていなかった。

わたしもいよいよもって、体が動かなくなってきた。

存在も消えかけて、体が消えようとしていた。

そのことに気が付いた瞬間、何でか嬉しかった。

もうすぐ君のところへ行けると思ったからかな。

今日もあの冷たい雨が降る。

わたしはその冷たい雨を、目を閉じて感じていた。



そろそろかな。

体はもう、言うことを聞かなくて。

あちこち折れて、傷ついて、砕けて。

太鼓の損傷の痛みは、どうしてか感じなかった。

そこにあるのは、早く早くとせかす心だけ。

雨に打たれるのもこれが最後。

そう考えると、あんなに冷たかった雨が優しい何かに思えてきた。

しとしと降る雨音を聞きながら、わたしはその中で目を瞑った。


今から君のところへ行くよ。

君は待っててくれてるのかな。

 向こうの世界でもう一度 君が主人だったら いいのにな…… ・・  ・




「ったく…誰だよこんな人様…いや、妖怪様のところにこんなゴミを置いているやつは…」

「君はその人の知人なの?」

「いいや?ただ、ここいらの掃除に当たった妖怪。いるよなぁこういう奴。」

「…君には、それがゴミに見える?」

「…?何だよ秋の神様が。」

「そこに、置いていてあげて。それが一番、どっちのためでもあるから。」

それはゴミなんかじゃない。

認めたくないけれど。

それはこの世で二つとない、美しい、報われた太鼓だよ…







妖怪には妖怪の墓場があるかなって思った。妖怪の山辺りに。
しかし。豚乙女のピアノアレンジをBGMにして書くと、雰囲気が合ってて書きやすかった。
切ない話書くときはありがたいな。

あと一言。重たい。