ほんのり小話 45

ある意味昨日の続き。
あと、いくつかの話の延長線。





「ねぇ穣子。」

農作物の世話をしているとき、急にあたしは早苗に呼ばれた。焦った表情も、楽しそうな表情もない。強いて言えば、あれは何か疑問に思っている表情。

それにあたしのことを『穣子』と呼ぶときは、大抵真剣な話が飛んでくる。

「なぁに?」

「あんたは…あんたにとって、衣玖さんって何?」

別に問いただすつもりじゃない、ふと思った疑問。どういうことか、何となくは分かったけれど首を傾げてその意味を尋ねる。

「仲柄がよく分からないのよ。あんたは…衣玖さんのことをどう思ってるの?親友でもなけりゃ恋愛対象でも無い感じがして。そしたら、一体何なんだろうって。」

それは、あたしも思っていた。

どうしたいのかは分からないけれど、傍に居たいと思って数年が経って。

…正直、自分でもあんまり分からない。好きというのは間違いない。傍に居たいというのも間違いない。

それが、何処から来ている感情なのか分からない。

親友と言うには不思議な壁があるような気がして、恋愛感情というにはあの妹紅や慧音さんみたいなアレになりたいとは思わない。

じゃあ、それは一体何?尋ねられても、分からない。

「…何なんだろうね。あたしもしっくりくる言葉が無いや。今思えば、確かに変な仲柄だよね。何も思わなかったよ。」

何も思わない、それは今の関係が大好きだからか。

それとも、自分でも何か心に規制をかけているのか。

前者だと信じたい。けれど、自分の感情を殺してしばらく生きていたせいで、時々分からない本音と出会う。

もしも後者で、それだったとしたら。…考えたけれど、やっぱり分からない。

「でも、急に何で?」

「思ったのよ…衣玖さんを否定するつもりは無い。けど、考えてみなさいよ。あんたは何回、衣玖さんの傍に居て死にかけた?」

あぁ、成る程。どうして、そんなになってまで傍に居たいと思うのか、という意味もあったか。

神だから死にはしないけれど、まず人間の里で助けようとして一回。龍宮の使いの仲間に衣玖への恨みからあたしが痛い目に合ったのが一回。妖夢のドッペルに襲われたとき、助けようとして一回。

死にかけてはないけれど、彼女が熱中症のときに、こっちが間一髪のところを助けたこともある。

「…三回?」

「……」

いつになく不安な表情。普通なら離れていくものなのに、それでも傍に居ようとする。

…そんなあたしが、早苗は不安になったんだろうな。いつか、本当にあたしが死ぬ、そんな気がして仕方ないんだと思う。

「…あたし、衣玖さんに縛られなくていいと思うの。嫌いになれだとか、そんなんじゃなくって…」

それ以上、言葉は紡がれなかった。

そのしばらくの沈黙を考えて、自分でも自分がどうしたいのか再び考えてみる。

考えて、一つだけ分かった。

「…あたしは動物園のライオンでもなけりゃ、飛べないカカポでもない。田んぼのおたまじゃくしでもなけりゃ、飼い犬でもない。」

「…?」

あたしは自由。誰を、何処を選ぶのも。好きだからここに居て、好きだから傍に居る。

嫌になったら飛んで行く。どこかへ駆けていく。少なくともあたしは、

「捕らえられた哀れな獣でもなければ、自由を捨てた鳥でもない。一定の世界だけで満足するような赤子でもなければ、他人に依存する生活を送る生命でもない。あたしは、限りなく人間に近い神。何にも縛られない、縛られるのはこの世の理くらい。

自分の幸せくらい、自分で選ぶよ。自分の好きな止まり木を見つけた鳥。巣を作って、そこが幸せなら…あたしは、その幸せを守りたい。」

それじゃあダメかな、といたずらに笑ってみせる。驚いていた表情をしていたけれど、早苗はすぐに、そっかと微笑んで見せた。


かけがえの無いその場所を、あたしは大切にしたい。

後悔、束縛、したくないしされたくない。


近くの木に、一羽の鳥が止まる。どこか凛とした瞳をしているように見えた。








あーうん。みのりんの方はまだ地面に足が付いてる。
しっかし。最近さなみのいく率たっか。そろそろ他のもかかなきゃなー…