ほんのり小話 53-2

毎回やってみたいって思うもののさ。すぐに書きにくくなって飽きるのが風邪ネタなんだよな。




「衣玖!大丈夫か!?何もしなくていいか!?」

自室へ連れて行かれるとすぐに、雷鼓と再び二人になった。静かにしておいて欲しいのに、横で雷鼓は心配そうに何度もそう尋ねてくる。

嘘でも何でもなく、ただの風邪。重い病気でもないのに、ずっとこちらのことを心配してくる。私のことが好きだからなのだろうが…それでも、もう少し何とかならないものか。

「私のことは大丈夫ですから…少し、寝かせてください…」

安心させるために微笑んで、頬を撫でてやる。少し冷たく感じたが、自分の手が熱いせいだった。

雷鼓はまだ腑に落ちないように小さく肯定の言葉を返す。その目にはまだ不安さが残っていた。

それに構わずに目を閉じる。そこから、雷鼓の声が聞こえてくるのはもう少し後になった。

「……」

見えない、けれど何となく感触は感じた。

何度も額のタオルを変えられる感触を。




「ただいま…戻ったよ…」

「…で、面白いことって何だ。」

ルナサは帰ってくると、屠自古、娘々、さとりの3人が何か話しこんでいることに気が付いた。こいしは食器を箸で器用に回している。一種の曲芸にそっくりだが…見ていてとても危ない。

どっちをどうしたらいいのか迷うルナサだったが、とりあえず3人の話を聞くことにした。さとりはそれに気が付き、にやりと口端を吊り上げた。

「あの付喪神ですよ。バカ正直なようで、一部違う…不思議な付喪神。」

「…?雷鼓さんが来てるの?」

「あぁ、お前は知らないよな。衣玖が風邪を引いて、雷鼓がこっちに連れてきた。で、今は多分寝てるかな。」

屠自古のその一言に急に不安な表情を見せる。が、数秒するとその表情は隠れていた。

「…無理をしてるわけじゃなさそうだね…良かった…」

「本当にただの熱病って感じよねー。雷鼓さんの心配性…可愛いわよね。」

お前はこんなときにでも自分に正直だな、と呆れる屠自古。話を元に戻しますよ、とさとりが路線を正した。

「こほん。で、あの付喪神ですが…無意識のレベルで、本当に自分では気が付かない小さなレベルで…人を信じることができないみたいですよ。」

「…?そう…か?」

何を言っても従順で、素直に受け答えする印象が強い。騙そうと思えば簡単に騙せる。人を信じられない、と聞いてもそんな印象はどこにも無い。

さとりが再びにやりと笑う。やはり気が付きませんよね、と言いたげだった。

「無意識は人を壊さない。しかし、小さいながらも大きくへばりついているものがある。雷鼓さんのはそのタイプですね。本当に小さく見えますが、根はとても深い。掘り返すには相当な労力が要りますよ。」

まぁ、無理に掘り返す必要はないと思いますが、と最後に一言付け加える。そこまで言われても、三人にはピンと来ていなかった。

無言で顔をあわせる。戯言のようにも聞こえるそれの真偽は分からなかった。

そこに、ただ、とさとりが逆接の言葉を付け加える。

「人を信じられないということは、一生幸せを手に出来ないことにも繋がりますからね。私は…痛いほど分かります、彼女の気持ち。そして、それが簡単には直らないことも。ですから、私は私で思うことを伝えたいと思います。」

人の心が読める故に、人の言うことを信じられない。誰もが嘘を付いて、正当化するということをよく知るさとり。…何か思うことがあることは、誰もが納得した。

「…それ、さ。衣玖さんにも伝えられないかしら。こうね、知るだけでいいのよ。そんな事実があった、それだけで。とやかく言い出したら、あの人鬱陶しいから。」

「おい最後、最後禁句!!」

思わずこれには苦笑。ルナサはそんなことない、と否定する顔だった。

しかし問題はどうやってそんな状況を作るか、だった。そのことを悩む屠自古を見て、さとりが言った。

「…大丈夫です。それは、意外とすぐに起こります。」

その表情は、あの幼い穀物神を彷彿とさせるものだった。







次で終わるかしら。今回はけっこうまだ書きやすかった。
ネタとしては大っ好きなのよ風邪っぴき話。読むのは大っ好きなのよ。でも書けないっていうね!
今まで何回風邪引き話をボツにしてきたか…