ほんのり小話 53-3

友人合わせて3人でリレー小説することになりますたー…大丈夫か、あれ…色々不安要素しかないんだけど…また始ったらうらる書いときます。





「……」

正午を過ぎたくらいだろうか。熱くなったタオルを変えていると、目を覚ました衣玖と目が合った。

「あ、衣玖、おはよ。」

「…ずっと、タオル変えてくれていたのですね…」

寝ていても、気配で何となく分かる。責めるつもりは全く無く、むしろ感謝していた。

少し微笑んでみせる。それにつられて、雷鼓も笑った。

「それしか、できることないしな。」

いつもより小声で話す。これも気遣いからきているのだろう。

雷鼓は言われたことを素直にこなすほか、周りの小さなことによく気が付く。自分が指摘しなくとも自然と対応してくれることは多度あった。

慌てていると見逃すことも多いが、落ち着くとすぐに気が付いてくれる。

「…ありがとうございます。」

「いいさ。わたしは早く、衣玖が良くなってほしいから。」

全く、何て素直ないい従者だろうか。道具故なのだろうが、あまりにも自分にはもったいない。そう思った。

私は、この素晴らしい従者の主人である資格があるのだろうか。思わずそんなことを考えさせられる。そのくらいに、雷鼓はよく出来た子であった。

「それじゃあ、お昼ご飯取ってくるよ。熱も大分下がったみたいだし、そろそろ食べられるだろ?」

「え…?」

そう言って、雷鼓は部屋を出た。部屋に残された衣玖はしばらく扉を見た後、そっと自分の額に手を乗せてみた。

額はまだ熱かった。

熱が下がった。その言葉がとても引っかかった。体温は先ほどからほとんど変わっていない。悪くもなっていないが、良くもなっていない。

違和感を覚えながら、そのまま雷鼓の帰りを待った。



「…はぁ。」

自分の体が熱い。体が重い。あの程度で、わたしが疲れを覚える?そんなはずない、ずっと尽くしてきたから分かる。

でも、よく分からないけれどとても疲労感がする。今朝はそうでも無かったのに、どうして…

「…やっぱり。しっかりうつっちゃってますね。」

唐突に袖を引っ張られる。誰かと思うと、あの心が読める妖怪だった。隣には大人しい幽霊も居る。

「思念体と言えども、体は人間と同じですからね。神の場合はあくまでも人形(ひとがた)を動かすといった、そんな考え方だから引かないそうですが。」

予想通り、とくすりと笑う。そのままさとりは雷鼓の袖を引っ張り、こっちへ来いと黙って伝えた。行き先は衣玖が居る隣の部屋。

ルナサは部屋には入らず、下の階へ向かった。

「さてと、病人ですから、大人しく寝ていてください。」

「…!わ、わたしはまだ、衣玖の看病が…」

「それでは無理でしょう?諦めてさっさと寝てください。」

しかし、雷鼓は納得しなかった。自分がどうして倦怠感を覚えたかが分かっても、そこで食い下がった。

「嫌だ!わたしは…まだわたしは何も役に立ててない!わたしはまだ、衣玖に…衣玖の役に立ててない…!」

「ですから、言ってるでしょう?それが健康な方だったら何も言わない、と。しかしあなたは今は違う。それでは、迷惑をかけるだけです。」

「っ…」

ギリッと歯を食いしばる。可愛らしい瞳は、今は冷たく言い放つ妖怪を睨んでいた。

やれやれ、と一つため息をつく。やはりこれは自覚をさせる必要がある。

そうでないと、いつか大きくなった無意識に食われ、飲み込まれてしまう。

…そう、思った。

その瞳の光から逸れるように、少しだけ目線をずらす。

その先に待っていたものを見つけると、さとりは少し低めの声で話し始めた。

「…あなたは、衣玖さんを信用していないでしょう?」

「そんなことない!わたしは衣玖を信用している!だからここまでやってこれたんだ!」

否定する。が、さとりの口端は相変わらず不気味に釣りあがっていた。

「いいえ。信用していません。あなたは無意識の内に、心のどこかで彼女を信用していないのです。」

「何で…何でそんなこと言うんだ!わたしは心から

「では聞きます。なぜ、穣子たちのところではなく、こちらに衣玖を連れて来たのですか?」

普段ずっと穣子や早苗たちと絡んでいる。穣子なら知識も豊富だということを雷鼓は知っている。それならば、どうしてこちらへやってきたのか。

その質問にはっとさせられる。そして、それを答えることは出来なかった。

「それは、衣玖が自分ではなく、穣子を頼ることが怖かったからでしょう?自分は役立たずだと言われるのが怖くて、無意識の内にそれを避けた…違いますか?」

「ちっ…違う!わたし…わたしは…っ…」

根を掘り返し、確実に触れた。雷鼓は半狂乱になりながら、ただたださとりの言葉を否定し続けた。

それは、自分がその事実を認めたくないようにも感じられた。

「衣玖さんが大丈夫だと言うのに過度の心配をするのは、彼女が好きだからではなく、彼女の役に立たないと自分が自分で無くなってしまいそうだから…これも、自分が道具として役に立たずに、自分を遠まわしに否定されることが怖いからでしょう?」

「やめて…やめてよ…聞きたくない…!わたしは…そんなんじゃっ…!」

「あなたは今でもずっと考え続けている。いつか捨てられるのではないか、本当はいらないと思われているのではないか…衣玖のことが信用できずに、苦しんでいる…これは、しっかりと自覚があるのではありません?」

「…っ…やめ…て…」

溜まった涙が溢れ出す。震えながら、必死に耳を塞いだ。

それでも聞こえるものは聞こえてしまう。意味を考えさせられてしまう。否定したくても、もうできなかった。

代わりに出てきた言葉は、

「…わたしは……どうすればいい……?」

道に迷った、答えの見つからないものの戯言だった。

「……私も、」

先ほどとは違った笑みで、優しく、

「あなたの気持ちは痛いほど分かります。私だって、心から人を信用することがどれだけ難しいかよく知っています。どれだけ素敵な人に出会えたとしても、信用できるかどうか…それは、自分にかかってくるのです。」

明るいトーンで言った。

「あなたもいずれ分かりますよ。私の場合は、ずっと一緒に居て、嫌でも気に入らないと思っていて…何度暴言を吐いたかは分かりません。けれど、いつか気付かされるのです。信用するのを通り越して、信用させられる、と。いつか、あなたも…全てを任せたい、そう思えるようになりますよ。」

右頬に伝った涙を指でなぞり、ぺろっと自分の舌で舐める。再びその丸い目は、心を読む妖怪の姿を映していた。

それを見ると、また後で来ますと小さく呟いて、部屋を出る。残された付喪神は、その後ろ姿の消えた先をずっと見ていた。







ごめん嘘ついたあと一回やる。
い く ら い く だ さ い !!