ほんのり小話55-5

さぁてラストォ!!見返したけど本当にこれ一話一話長いな。
さぁ、皆さんが思っている犯人は一致しているのか…!!






「…ねぇ。」

奇跡の神と、九尾の狐。部屋にはその二人しか居なかった。

広い部屋故、二人だと急に広すぎるように感じる。その広さが、部屋を少し寒くさせていた。

「…さっきの。あんた、本当はどう思ってるわけ?」

冷めきった茶を口の中に含む。ぬるくなってしまっていることに思わず顔をしかめた。

あるいは、神の質問にか。

「言っていることがちぐはぐだな。怒鳴っておいて、今度はそんなことを聞くのか?」

「よく考えたらおかしいことに気が付いたわ。違うって、断定できるのよ。あんたがそれに気づかないはずないって思って。」

ふむ、と短い声を上げて、その茶をまた一口飲む。ことり、とテーブルと接触する音が部屋に響いた。

じっと、真っ直ぐ金色の瞳同士でにらみ合い、そのまま目を瞑って答える。

「…白、だな。衣玖が原因なわけがない。まず原因になっているのなら、もっと早い段階で出ているだろう。」

互いに出会って、仲良くなって6年。嫌で我慢しているとなれば、もっと早くにこの事件は起きていただろう。

そう、藍も早苗も確信していた。だから、余計に早苗は疑問になった。

何故、あそこで衣玖を煽るようなことをしたのか。

その疑問をすぐに察知し、質問されるより先に答える。

「…私はな。あいつらの末を見てみたい。」

その言葉は、藍の口からはとてもありえないものだった。

「妖怪が神に恋をして、神も妖怪のことを想う。それが、何の障害もなくありえるか?いいや、ありえない。それは相反するものの定めであり、”ここ”でのルール。…現に、あいつらには幾度と無い苦難に襲われただろう。私が知り得るよりも遙かを行く困難に。

しかしあいつらはその度に立ち止まり、やがて歩きだしてきた。本来ありえないその先にあるもの…あいつらなら、いつか見つけだしてくれるだろうと思ってな。」

藍は始めは本当に紫の式神としてここに現れた。こんなに様々な種類の妖怪が仲良しこよしなど、ルールに反するものだと思っていた。

今は逆に、それが本当にルールなのかを知りたくなった。自由に、好きなように生きる妖怪、幽霊、魔法使いの姿がいつの間にか羨ましいと考え、

その先にあるものを、どうしても見てみたくなった。

「…あんたの口からそんな言葉が出るなんて。感化されすぎたんじゃないの?」

「ははっ、言ってくれるな。…衣玖には少し悪いとは思ったが。ある意味、いい機会にはなると思ってな。」

確かに、と早苗も首を縦に振った。同時に、自分が原因を見つけ、取り除かないといけないことも事実。

…大体の予想はできている。問題はどうやって出会うか。ここまで探していて、見つからないのがまずおかしい。

犯人はすでにこちらが捜索に出ていることに気が付いているのか。

ふぅ、とため息をつく。さてと、どうしたものか。

その刹那、探していた者の声がようやくやってきた。

「早苗!穣子が倒れたって聞いたのだけれどっ…」

部屋に入ってきた二つの気配。片方は花の香りを漂わせるフラワーマスターと、

「…やっと…やっと遭遇したわね…!」

探しても見つからなかった、全く出会えなかった、

七色の人形使いの姿だった。

「あんた…穣子に何を押しつけたの?穣子はハーブだって言ってたけど…本当は、自分の欲の為に何か違うものを渡したんじゃないの!?」

「え、ちょ、ちょっと待って、どういうことよそれ!?」

「とぼけないで!あんた以外に考えられないのよ!あんたが穣子に何か盛ったんじゃないの!?」

思わず声を荒げる。愛称が無くなっていることから、どれだけ彼女があの幼い神様のことを想っているのかが分かる。

それだけ、彼女にとっても大きな存在だから。

考えられる原因も、素行も全部怪しい。何故急に現れなくなったのか。

黒だと思っていただけに、その答えは意外でしかなかった。

「盛ったって何よ!?…あ、もしかして、部屋の臭い?でもあれは、穣子が私に頂戴って言ってきたものよ?」

「…は?何言ってんのよ、そんなはず

「私からも言うわ。アリスは白よ。あれは間違いなくミント。私がアリスに穣子から頼まれたものだからと言われて、それで渡したもの。その後それを穣子に渡していたのも見ていたから、間違いないわ。」

他にも見ていた人は居ると思うけれど。それは、嘘を付いていると思うのなら、他の人にも聞いてみなさいということ。

つまり、彼女たちは嘘を付いていない。

「…じゃあ聞くけど…しばらく姿を見せなかったのは。」

「あ、あー…あれは…」

何やらとても言いにくそうにしている。言わなければ、早苗は絶対に納得しない。

よぉく分かる。

「…怒らない?」

「内容次第では怒るわ。」

「じゃあ黙秘権を

「却下。言わなかったら…あんたの人形の髪の毛を全部毟って油性ペンで額に『肉』って描いて更に

「分かった吐く。」

油性ペンというところが恐ろしい。

因みに油性ペンは幻想郷でまだレアアイテムながらも、時々拾うようになっていた。多分ボールペンの方が最近人気になってきて、少しずつ陰に追いやられてきているのかもしれない。

といってもまだまだ普及しているのか、本当にレアアイテムなのだが。

「…衣玖さんと穣子がきゃっきゃうふふしてるのをずっと見てた。」

「……」

「母乳が出るようになって?それでそれを飲む衣玖さん?じっとしてる穣子?これを私が黙って見過ごせようかいいやできない!そんな美味しい状況をこの目に焼き付けないでいつ焼き付けるというのいまで

「もういい分かったシジミを食べたら絶対に砂でジャリィってなる奇跡にしてあげる。」

「うわ地味に辛いイヤな奇跡!」

別に奇跡はありがたいことだとは限らない。本当なら唾を一つをとばしてやりたいところだが、それは必死に我慢する。

アリスの素行を幽香は知っていたのだろう。顔に手を当ててだから言わんこっちゃない、と言いたげにしている。

藍も藍で流石に予想外だったのでぽかーんとしている。

「…まとめると。みのりんはアリスから意図的にハーブを貰って、自分でその臭いをさせてた。そこには強制も事故も何もない、本当に意図的なもの。」

…組み立てた理論が崩壊した瞬間である。

「じゃあ何だって言うのよ!!」

バンッとテーブルを強く叩く。シリアスな空気はもうここには無かった。

しかし、1から調査をし直すことになったのは事実。何が一体原因になっているのだろうか。

重いため息を一つつき、窓の方へ目をやる。じっと見つめ、あるものが目に飛び込んできた。

「……」

じぃっと、それを見つめる。

「…藍。ハーブの話、もっかい。」

「ん?人間にとってはいい臭いらしいが、動物や虫にとったらそれは猛毒で

「おっけーありがとう。」

すっくと立ち上がる。その顔はにやりと笑っていた。

「…意図的なハーブ臭、ストレス、無自覚、本能的に怖いもの…


…母乳異変の解を見つけたり。」

  ・
  ・

「…原因、分かったのですか?」

衣玖と雷鼓が戻ってくると、早苗はすぐに二人を穣子が居る部屋へ呼んだ。あの札はすでに張っておらず、あとは自分の霊力を分けてやるだけで目を覚ます状態になっていた。

「まぁ、推測だけど。でも、全部の辻褄が合うから、きっと間違い無いわ。」

きっとといいながらも、自信満々の様子。にぃっと笑った後、目を瞑って穣子の上に両手を翳す。

小さく何かを呟くと、不意にその手が淡く光り出す。優しい、温かい光だった。

その光は時計の長針がちょうど一周した辺りで消える。その刹那に、幼い神はゆっくりと目を覚ました。

「……ん、あれ…あたし…」

「おはよ。ってことで、いいものあげる。」

そう言って、早苗は服の中から取り出し、ぽいっと彼女の布団の上に投げた。

働かない頭を必死に起こし、まだ眠たげなその目をこすって、それを視界に映す。

そこに居たのは、一匹の、

「っぎゃぁぁああああぁぁぁあああああぁあああっ!!?」

「ははっ、やっぱり合ってた!」

「か、かめ虫!?」

エウレカも顔負けの甲高く、大きな悲鳴。飛び起きるとそれから隠れるかのように衣玖の後ろに隠れ、ぎゅうっと服を掴んだ。

「…ど、どういうことですか?」

「簡単なことよ。みのりんはかめ虫が嫌いなのよ。それはらっこさんが水を嫌い、藍がハーブを嫌うのと同じ。」

穣子は、自分の弱みを決して晒さない。それは頼りたくないからじゃなく、弱みを握られたくないという理由から。

今年は異様なまでにかめ虫が多く、必死に怖いのを我慢して平然を装っていた。しかし奴らは恐ろしく、いつも唐突に現れる。時には上空からいきなり落ちてきたり、時には背後からいきなり耳元を通って飛んできたり。

それでも必死に穣子は普通を通した。本気で怖いのに、それでも必死に我慢した。

しかしそれでは安心できない。そこで、せめて自分の部屋だけはかめ虫の魔の手から逃れるために、虫よけになるハーブを焚いた。

そのハーブを貰うために、アリスにそれを頼んだ。

ずっと怪しいと睨んでいたその臭いの正体は、なんとただの虫よけだったのだ。

因みに外に出たがらなかったのは、いつかめ虫と遭遇するか分からなかったし、自分の部屋はまだ安全地帯だったからだ。

初日に、いや、もしかしたらもう少し前から、わざわざハーブの臭いを取ってから仲間に会っていたのも、ただ『かめ虫嫌いがバレたくない』という、本当にそれだけの理由だった。

「まさかねー事態が起こる直前のレティの一言が一番のキーワードだっただなんてねぇ。あたしも予想外だったわ。」

「でも、それでも分からないことがいくつかあります。母乳が出るタイミングの時に、いつもかめ虫が居たとは思わないのですよ。」

「かめ虫を連想した時点でアウト。」

つまるところ、レティが何か居ると探しに行ったあのときは、その「何か」がかめ虫を連想させて吹き出した。

外に出るという話題のときは、外にはかめ虫が居て嫌だというのが本音だったからで、脳内にはあの悪魔の姿が毎回よぎった。だから、結果的に吹き出すことになった。

「あ、母乳はストレス性で、母乳もどきよ。人間はホルモンバランスが崩れて起こるんだけど、神は思念体が本命だから、そっちに影響が出て…ストレスによって力のバランスが崩れて流れ出たとか、その辺じゃないかしら?」

これは推測でしかないけれど、と最後に付け足す。本人に聞きたいところだが、無自覚だったため分からないだろう。

改めて、穣子を見つめる。あまりの不意打ちに酷くおびえて、その体をガタガタ震わせていた。

「…もう一つ。何故、かめ虫が嫌いだと分かったのですか?」

本能的に嫌いだと言っていたが、その理由が分からない。それについても、早苗が説明した。

「米の害虫。食い荒らすのかは知らないけれど、確実に不作をもたらせる。豊穣の神にとって、不作はこの上ない天敵。それをもたらす害悪なる虫。本能的に嫌って当然でしょ?」

なるほど、それなら確かにと納得をする。恐ろしく今までの疑問が解決された。

穣子らしいといえばらしい。かめ虫が怖いことがばれたらどんな風にからかわれるか分かったものじゃない。だから、必死に隠した。

なんとまぁ、可愛いというか、くだらないというか。

「…あ、あの…さ。」

「ん、何?」

「…み、皆には黙っててくれない…?その、恥ずかしいっていうか…弱み握られたくないっていうか…」

絶対強者だと思われていた神の、意外な弱点。流石に可哀想な気がしたので、すぐに衣玖と雷鼓は首を縦に振る。

が、早苗だけはにやにや笑って、

「えー?何でー?いいじゃん別に

「私と衣玖さんと幽香の一日履いたパンツあげるから。」

「分かった飲む。」

「さりげなく私のを持っていくな!!」

夜空の下で、笑い声が響きわたる。

こうして小さな神の母乳事件は4人だけの間でそっと幕を閉じたのだった。

周りの人たちには適当にごまかして…雷鼓さんがいつポロッと言ってしまうかは正直不安だが。

波乱を巻き起こしたその事件は、とてもくだらない理由で起こったもの。

自分では無かった。そのことに、衣玖は少なからず安堵を覚えたのだった。

  ・
  ・

「あの、ごめんね。迷惑かけちゃって。」

事件の幕が閉じた、その日の夜中。日付が変わるか変わらないか、そのギリギリの時間帯だった。

ずっと寝ていたせいで眠気が襲ってこず、特にすることもないので、少しだけ衣玖につきあって貰うことにした。

今日は満月。電気をつけずとも、部屋の中はわりと明るい。衣玖の青紫の髪の毛が暗い闇にとけ込まず、月の光を受けて強くその存在を放っていた。

「いつも私は貴方に迷惑をかけてばかりでしたから。たまにはかけてもいいのですよ。むしろかけてください。」

私は、貴方が誰よりも大好きなのですから。そう口にしようかと考えたが、どうせ違う意味で捉えられることくらい分かっていたから、そのまま言葉を口の中に押し込んだ。

若干告白のようなその一言に、ほのかに頬を赤らめさせた。

「じゃあ、後でパンツ貰うね。早苗にそう言っちゃったからさ。」

「ぎゃあ結局交渉材料だった!」

その小さな悲鳴にくすくす笑う穣子。そのいたずらな笑みを見て、衣玖は思わず目を伏せた。

その笑顔が、もしかしたら見れなくなっていたのかもしれない。それが急に怖くなったから。

「…どうしたの?」

「私ね、思ったのですよ。もしかしたら、私が穣子を傷つけてるのではないかって。知らずの内に、貴方を傷つけているのではないかと…そう思ったら、とても怖くなって。」

「…まぁ、傷つけられてるね。」

比喩ではなく、物理的に。衣玖さんを守ろうとして、何度傷ついたか分からないし、何度死にかけたかも分からない。

見放せば、多分こんな痛い目に遭うことはないのだろう。それは、穣子もよく分かっていた。

しかし、それは。

「…すみません。」

「…衣玖さん。あたしは痛い目を見るのは怖くない。けれど、苦しい目に遭うのはとても怖い。」

少し泣きそうなその顔の頬に優しく触れる。とても温かかった。

「あたしは誰の為にも動かない。動くのは自分の為なの。自分がやりたいようにやるだけなの。

衣玖さんの為に衣玖さんを助けるんじゃない。私が、衣玖さんを助けたいと思うから助ける。助けなかったら、自分が後で凄く後悔するって、よく分かるから。後悔は、とても苦しいこと。自分を偽って、味わうのがその苦しいってこと。

やりたいって思うことに通じる辛いことからは逃げちゃ駄目だけど、それからはある程度逃げてもいいと思うんだよ。人の為になる必要なんてない。やりたいように、好きにすればいい。そこに人の為だなんて偽り、入れる必要なんてどこにもないよ。」

それに、と何かを言おうとして口ごもる。言いたいことが出てくるのを待っていたが、それはなかなか出てこなかった。

しかし最終的には決心して、

「…衣玖さんが居なくなったら、絶対に耐えられないよ。それは、自分の気に入った止まり木に折角巣を作ったのに、嵐が来て止まり木ごと折れちゃって、諦めなきゃいけなくなった…そんな鳥と、一緒だよ。」

消え入りそうな声で、そう言った。

すぐに罰が悪そうにそっぽを向く。それは自分の本心を正直に話したことの照れ隠しか。

それとも、他の、別の感情からか。

「…それなら、ずっと傍に居てあげないといけませんね。強がりな心も、そこでは緩められるような、そんな場所に。

私がふさわしいのかは分かりません。しかし、気に入ってくださり、傍にいてくださるのなら…私は、貴方の為に何だってします。

それが、私の今、一番やりたいことでした。」

そう言って、衣玖は優しく微笑む。

その笑顔に、思わず頬が赤くなった。

それと同時に、一つだけ分かった。

「…衣玖さん。」

それは、もしかしたらもうなってるかもしれないよ。



少しだけ考えた。

どうして衣玖さんの前で、あんなにも自分の本心をさらけ出すことができたのか。

誰にも言えないようなことが、彼女の前では時間がかかっても、最終的には言ってしまった。

それが、何故かは分からない。分からないけれど。

間違いなく、言えてしまったのだ。


…更に、少しだけ考えた。

もしも衣玖さんが自分の傍から居なくなってしまったときのことを。

寿命で死んだ場合、事故で死んだ場合。これは多分、すんなりと受け入れられる。いつかは別れが来ることを知っているから。

次に、嫌われて、離れていってしまった場合。…多分、これも受け入れられる。他人の想いに介入する権利など、どこにもないから。

じゃあ、好きなのに、相手が我慢して離れていってしまった場合は?

これを考えたときに、ちくりと胸が痛んだ。

好きで、どうしようもなく好きで。でも、本心を偽って、そうして自分から離れていく。

…それが、どうしようもなく耐えられない。嫌われてもいい、どうしようもない別れが来てもいい、でも、これだけはどうしても嫌だ。


…そうか。

あたしは自由という言葉に、特別な意味があると考えている。

自由とは、『自由』に縛られないこと。自分の気に入っている理論の一つ。

だからこそ、相手にもその自由を尊重してほしい。自分が『自由』になってしまっていると考えると苦しくて仕方がない。


あぁ、あたしはこれほどにまで、

いつの間にか…

…衣玖さんのことが、好きになっていたのか…









恋愛フラグがちょっとだけ立ったよ!やっと恋愛フラグがちょっとだけ立ったよ!!
本人は無自覚なんでしょうがねーうふふっ((

さてと、何はともあれ、犯人はなんと『かめ虫』でしたっ!騙された人挙手((氏
個人的に『アリスが自分の欲望の為にそんなハーブを穣子に無理やり吸わせた』だとか、『ハーブの臭いがストレスで母乳出た』のどっちか辺りだと思っていた人が居らっしゃったらガッツポーズなんですけどねwそう来るとは思わなかったって思っていただだたけたらもう本望ですわぁ…

ってことで、是非コメントくらはい!

それと、もう一つ私にとったら嬉しいご報告が。
落ちたと思っていた本命大学。なんと、追加合格で合格しましたっ!!
奇跡って本当にあるんだなぁ…と、しみじみ思った瞬間でした。