ほんのり小話 62-3

エゴさんがこっちに顔出ししてくれたみたいで嬉しい限りですわぁーい!!




Ⅲ『信念』




「ねぇ聞いて!神奈子様ったらおかしいのよ!この間『私の注連縄知らないか?』って必死に探してたのよ!」

「注連縄って、あのぶっといやつ?」

「そうよ!あのでっかいぶっとい方!で、そのときあたし神奈子様の姿見てなかったのよ。それで知らないって言って、探してる姿見たのよね。そしたら、どうなってたと思う?」

「背中にあった注連縄が、頭のちっさい方だったとか?」

「それだけじゃないのよ!頭にあのぶっとい方をやってたのよ!」

「頭にあれを!」

「おかしいだろ!普通首もげるって!その前に普通重くて気付くでしょ!!」

と、二人で腹を抱えて笑う早苗と穣子。暖かい陽気に包まれて、話にも花が咲いていた。
眠たくなるような空気だが、二人の笑い声がそんな気配をかき消していた。

「それで、早苗。」

コップに入れた一杯の水を少しだけ飲んで、さっきまでの笑顔とはまた別の笑顔で早苗の方を向いて言う。

「実際は何があったの?」

早苗から家庭の話題が出るときは、それが実際にあったことであろうとしても、大半は腹がたったことを隠すためだ。と、穣子はじっと見つめて言った。

バレたか、と早苗は苦笑して後頭部を右手でぽりぽり掻く。隠さず、すべてを話した。

「いやぁね、それも実際の話あったのだけれど…今朝、諏訪子様が言ったのよ。『博麗の神社に獣の死骸を置いて、客に野蛮な巫女だという印象を強めさせる嫌がらせをしてやろう』って。」

「その様子だと、笑顔で『嫌です』って言って、こっちに出てきたと。」

穣子は、早苗が自分が気に入らないことを提案された場合、どれだけ目上の人であろうとも、どれだけ危機的な状況であろうとも、決して承諾しない人間だということをよく知っている。

そんな彼女が何よりも好きで、その自由さに何よりも焦がれるのだ。

「そうよ。流石のあたしも、そんなやり方して客を呼びたくないし。全く、目の前の利益にだけがっつくあの神様、何とかしてほしいものだわ。」

冗談混じりのその言葉。本心から嫌いだと言っていないことはすぐに分かった。

本当にあの二柱が嫌いのならば、彼女なら今すぐ信仰することをやめているだろう。

普通なら、主人に対してなんて振る舞いをするんだと、早苗と同じ立場にいる人ならば彼女を責めるだろう。しかし、穣子はそんな立場にないし、早苗の考え方に激しく賛同する。

その考え方が、とても好きだから。

「あたし、早苗のそういうところ、大好きだよ。」

「あたしも、自分のこういうところ、大好きだわ。」

「早苗と一緒に居ると、不思議な感じがするんだよね。こう…一人森を歩いていて、狩人が獣と間違えたあたしに矢を放ってきたとき、後ろからあたしの足を払ってこかせて、その弓矢から守ってくれそうな、そんな感じ。」

「それは喜んでいいものなの。」

とても微妙な例えをされて、早苗は思わず苦笑する。勿論いいよと、対する穣子の表情は明るかった。

「早苗ってさ。切り角の射られた矢みたい。」

「何それ。」

「名弓。その弓矢は、どんな強風が吹いても、どんな雨の中でも、真っ直ぐに飛んでいくの。決して軌道を変えない、そんな弓矢。実物は見たことないんだけどね。」

ふぅん、と早苗は短く答える。そして、何かを思いついたらしく、笑って言った。

「更にそれ、鉄でできてるんでしょ。三本にならなくても、一本でも折れない、そんな弓矢!」

「いやいや、もう鋼までいくね。絶対に折れないよ。」

「それでそれを火薬で飛び出すようにして!」

「ろけっとらんちゃ!」

「何の話ですか?」

大きな笑い声。高らかに響く晴天の下で、二人の盛り上がりを見た衣玖が声をかける。それでもしばらく、二人の笑い声は続いていた。

「なんだかすごく楽しそうな話ですね。よかったら私も混ぜてください。」

そういえば何の話をしてたんだっけ?と、穣子が必死に笑いをこらえながら早苗に尋ねる。

そうね、とじっと窓の外を、遙か遠くを、空の向こうを見つめながら、明るい声でぽつり。



 ――信念の話よ。







早苗理論。私はろけっとらんちゃだ。


物凄くこれ以上にない早苗らしい話だと思ってる。